100 / 165
それぞれの御前試合
グルトの頼み
しおりを挟む
『嘘と後悔』から続くお話です。
*********************************
マルグリット侯爵家での茶会の翌日。
昨日のレイリアとのやりとりを思い出し、騎士団に向かう足取りが重くなる。
そんな俺を出迎えたのは、グルトが保安局に出向した、という寝耳に水の話だった。
ロイリス ピートの情報をもらえる当てが外れて、更に気持ちが沈む。
大体、何で急に保安局なんだ・・保安局の空気感と、グルトのキャラは違いすぎるだろ。
グルトから手紙が来たのは、それから間も無くのことだ。
休みの日曜日に、剣術の練習に付き合ってほしいとのことだった。
去年、3回戦で敗退したグルトは、今年こそ決勝トーナメントに行きたいらしく、このままではそれが叶えられない、と手紙の中で嘆いていた。
(日曜か・・)
グルトには借りがある。
ハッキリとは書いていないが、グルトが保安局の交流研修に抜擢されたのも、ロイリス ピートの調査をしてた関係のようだし・・何となく責任を感じる。
日曜はレイリアとの約束の日だ。
レイリアに会いたい。でも、また拒絶されるかもしれない。
試合を観に来てほしいなんて、ただの俺のわがままだ。
せっかくここまでレイリアと楽しく過ごせてきたんだ。
試合の話題を避けたがっている様子のレイリアに会うのは、試合が終わってからの方がいいのだろう・・その後で、ちゃんと謝って、許しを乞おう。
グルトの練習に付き合うことに決めて、レイリアには手紙を出した。
「アマンド、ごめん!休みの日にまで付き合ってもらって・・」
グルトと練習する日曜日。
練習場所は、騎士団の練習場を使わせてもらうことにした。
「いや、いいんだ。俺の稽古にもなるし・・それより、保安局の方の仕事は慣れたのか?」
「それがさ・・保安局の奴ら、俺のことバカにするくせに、いちいち絡んできてさ。俺、笑い者にされてるんだよ!もう本当、イヤになる!」
保安局は特にエリート意識の強い所だと聞く。
母親が平民のグルトがその矢面に立たされやしないかという危惧は当たってしまったらしい。
「そうか・・大変だな。体調は?食事はちゃんと取れているのか?」
グルトが頬を膨らませる。
「それがさ、食事の時くらい1人になりたいのに、『お前はこんな高級な料理食べたことないだろ』って嫌味言われながら毎回連れ出されちゃうんだ!」
「・・へぇ」
「御前試合に出ることもバレちゃってさ、『お前の剣術を冷やかしに見に行ってやる』ってわざわざ試合にまで、俺のこと笑いに来るんだから!」
「・・そうか。」
本人の自覚が足りないだけで、グルトは順調に可愛がられているようだ。
心配は杞憂だったか。
ロイリス ピートについても話題が及び、レイリアとの接触は今のところなさそうだと報告を受けて安堵した。
「それじゃグルト、まずは素振りからやろう」
「イエッサー!」
翌週。
「よし!先週と同じく、まずは素振りからやるぞ!」
「「「イエッサー!」」」
翌々週。
「よし、まずは恒例の素振りから始めるぞ!」
「「「「「「「「イエッサー!」」」」」」」」
増えてる!
なんかどんどん練習に参加する騎士たちが増えている!
そりゃ確かに俺とグルトの練習を見かけた後輩が自分も練習させてほしいと言いに来て、許可した覚えはあるが、こんなに人数が集まるとは聞いてない。
「イエッサー!」ってノリノリな中に、上官もいたんだが!?
「おいグルト・・何でこんなに人が・・!」
「あ、何か噂になっちゃったみたいで。誰か親切な人が、ポスター貼ってくれてたみたい!」
「ポスター?」
これこれ。と差し出されたポスターを見て頭を抱えた。
【シーリーウッド騎士団公認!自主強化練習会!】
日時:御前試合までの毎週日曜 10時から16時まで
対象:御前試合出場予定者
予約:不要
料金:無料
持ち物:木剣、防具、飲み物、昼飯
指南役:アマンド ガーナー士官
注意事項:練習中の事故や怪我に関して一切の責任を負いません。
参加者の声:これ以上俺のランクは上がらないと諦めていた俺でしたが、この自主練習会を経て、ガーナー士官のおかげで"技に力を乗せる"ことを身をもって体感することができました。技の精度はまだまだですが、引き続き頑張っていきたいですーー
これかーーー!
「アマンド!来週もこの時間でいいな?よし、皆!来週も10時開始だ!」
「アマンド士官に稽古をつけて頂けるなんて夢のようです!」
・・・・・
同時に複数人を相手にして戦う練習もできたのは、良かったのかもしれない。
これが後に、シーリーウッド騎士団躍進の貢献に繋がるのだが、それはまた別の話である。
*********************************
マルグリット侯爵家での茶会の翌日。
昨日のレイリアとのやりとりを思い出し、騎士団に向かう足取りが重くなる。
そんな俺を出迎えたのは、グルトが保安局に出向した、という寝耳に水の話だった。
ロイリス ピートの情報をもらえる当てが外れて、更に気持ちが沈む。
大体、何で急に保安局なんだ・・保安局の空気感と、グルトのキャラは違いすぎるだろ。
グルトから手紙が来たのは、それから間も無くのことだ。
休みの日曜日に、剣術の練習に付き合ってほしいとのことだった。
去年、3回戦で敗退したグルトは、今年こそ決勝トーナメントに行きたいらしく、このままではそれが叶えられない、と手紙の中で嘆いていた。
(日曜か・・)
グルトには借りがある。
ハッキリとは書いていないが、グルトが保安局の交流研修に抜擢されたのも、ロイリス ピートの調査をしてた関係のようだし・・何となく責任を感じる。
日曜はレイリアとの約束の日だ。
レイリアに会いたい。でも、また拒絶されるかもしれない。
試合を観に来てほしいなんて、ただの俺のわがままだ。
せっかくここまでレイリアと楽しく過ごせてきたんだ。
試合の話題を避けたがっている様子のレイリアに会うのは、試合が終わってからの方がいいのだろう・・その後で、ちゃんと謝って、許しを乞おう。
グルトの練習に付き合うことに決めて、レイリアには手紙を出した。
「アマンド、ごめん!休みの日にまで付き合ってもらって・・」
グルトと練習する日曜日。
練習場所は、騎士団の練習場を使わせてもらうことにした。
「いや、いいんだ。俺の稽古にもなるし・・それより、保安局の方の仕事は慣れたのか?」
「それがさ・・保安局の奴ら、俺のことバカにするくせに、いちいち絡んできてさ。俺、笑い者にされてるんだよ!もう本当、イヤになる!」
保安局は特にエリート意識の強い所だと聞く。
母親が平民のグルトがその矢面に立たされやしないかという危惧は当たってしまったらしい。
「そうか・・大変だな。体調は?食事はちゃんと取れているのか?」
グルトが頬を膨らませる。
「それがさ、食事の時くらい1人になりたいのに、『お前はこんな高級な料理食べたことないだろ』って嫌味言われながら毎回連れ出されちゃうんだ!」
「・・へぇ」
「御前試合に出ることもバレちゃってさ、『お前の剣術を冷やかしに見に行ってやる』ってわざわざ試合にまで、俺のこと笑いに来るんだから!」
「・・そうか。」
本人の自覚が足りないだけで、グルトは順調に可愛がられているようだ。
心配は杞憂だったか。
ロイリス ピートについても話題が及び、レイリアとの接触は今のところなさそうだと報告を受けて安堵した。
「それじゃグルト、まずは素振りからやろう」
「イエッサー!」
翌週。
「よし!先週と同じく、まずは素振りからやるぞ!」
「「「イエッサー!」」」
翌々週。
「よし、まずは恒例の素振りから始めるぞ!」
「「「「「「「「イエッサー!」」」」」」」」
増えてる!
なんかどんどん練習に参加する騎士たちが増えている!
そりゃ確かに俺とグルトの練習を見かけた後輩が自分も練習させてほしいと言いに来て、許可した覚えはあるが、こんなに人数が集まるとは聞いてない。
「イエッサー!」ってノリノリな中に、上官もいたんだが!?
「おいグルト・・何でこんなに人が・・!」
「あ、何か噂になっちゃったみたいで。誰か親切な人が、ポスター貼ってくれてたみたい!」
「ポスター?」
これこれ。と差し出されたポスターを見て頭を抱えた。
【シーリーウッド騎士団公認!自主強化練習会!】
日時:御前試合までの毎週日曜 10時から16時まで
対象:御前試合出場予定者
予約:不要
料金:無料
持ち物:木剣、防具、飲み物、昼飯
指南役:アマンド ガーナー士官
注意事項:練習中の事故や怪我に関して一切の責任を負いません。
参加者の声:これ以上俺のランクは上がらないと諦めていた俺でしたが、この自主練習会を経て、ガーナー士官のおかげで"技に力を乗せる"ことを身をもって体感することができました。技の精度はまだまだですが、引き続き頑張っていきたいですーー
これかーーー!
「アマンド!来週もこの時間でいいな?よし、皆!来週も10時開始だ!」
「アマンド士官に稽古をつけて頂けるなんて夢のようです!」
・・・・・
同時に複数人を相手にして戦う練習もできたのは、良かったのかもしれない。
これが後に、シーリーウッド騎士団躍進の貢献に繋がるのだが、それはまた別の話である。
66
あなたにおすすめの小説
家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた
今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。
二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。
ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。
その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。
が、彼女の前に再びアレクが現れる。
どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜
h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」
二人は再び手を取り合うことができるのか……。
全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)
元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。
有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。
けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。
絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。
「君は決して平凡なんかじゃない」
誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。
政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。
玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。
「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」
――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる