スローなライフにしてくれ

soue kitakaze

文字の大きさ
14 / 49

第14話 魔石

しおりを挟む
「なんなんだ、この音は?」
「ボクには聞こえないモん」
「そうなのか」

「我にも聞こえないぞ」
「オツも聞こえてないのか?!」

「ふがー」
「ワンコロは寝てろ」

 俺だけなのか、この音が聞こえるのは。気のせいとは思えんほどしっかりした音なのだが。なんだかキモチワルイな。

 と思いながらも寝足りなかった俺はすぐにベッドに潜り込み爆睡の続きであるスピスピー。

 カリカリカリカリ。

 という音で目が覚めた。

「サイコロの次は猫の餌かよ!」

 とツッコんで目が覚めた。

「便利な体質モん」
「やかましい。それよりまた不思議な音がしたぞ?」
「それはワンコロの出してる音だモん」

 ワンコロが出してる音? なにやってんだよ、朝っぱらから。

「ごごご主人殿。お願いでござる、ここから出して欲しいでござるカリカリ」

 ワンコロが扉のあたりを爪でひっかいていた。しかしキズひとつついてはいないようだ。丈夫な扉だこと。

「いったいどうしたんだ? うんちでもするのか?」
「魔物はうんこなんかしないモん」
「拙者……拙者、どうしても行かないといけないでござる」
「「どこへ?」」
「あのご神木のところでござる!」

「ご神木? なんてあったか?」
「おそらく最初に登った木のことだモん」

 ああ、あれか。あれがどうした?

「お主がしたことを思い出すモん」

 ネコウサが怒っているようだが、意味が分からん。俺があそこでしたこと……ああっそうか!

「やっと分かったモん!」
「ご神木の裏でうんこなんかしてすまんかった」
「「そっちじゃない!!」」

 ふたり……いや2匹に怒られた。なんだよ、まったく。まあいい、ともかく外に出してやれば良いのだろう。まったく、もうブツブツ。

 まずスマホみたいなカギを抜くとドアが開いた。カギを持ったままネコウサとワンコロを両肩に乗せて家の結界に一度ぶつかりふぎゃ。

「学習しない男だ」
「わ、悪かったな! えっとカギをこの辺に」

 よし、外に出たぞと思った瞬間、ワンコロは猛ダッシュで走り出した。振り向くとやはり日本家屋である。なんでこんなカモフラージュが必要なのだろう。

 ネコウサがあとに続いたので、仕方なく俺も走る。あの木まで約2キロメートルだ。遠いなおい。

 この草原にたった1本生えた大木。あれがご神木だとは知らなかったが、遠くからでもここだと分かる存在感は確かにご神木と呼ばれるに相応しい。

「お主、どうしてそんなに早く走れるモん?」
「それを俺に言われても困るが。ネコウサが遅いんじゃないのか」
「そんなはずはないモん。二足歩行に負けたことなんかないモん」
「しかし、それ以上にあいつは早いな」

「タイガーウルフはこの世界で最速の魔物だ。だから誰も叶わないのだよ」
「オツも起きていたのか。それじゃなんでワンコロはあんなに焦っているのか教えてくれ」
「我もうっかりしていたのだが、原因はお主の結界だよ」

「俺の結界?」
「ああ、あれは魔素を通さないと言ったであろう?」
「そういえば昨日聞いたようが気がする。それでワンコロの具合が悪く……あっ?! そういうことか」

「やっと分かったようだな」
「そういうことだったモん?! ボクも気づかなかった。ワンコロごめん! あのとき気づいていれば」

「魔素を吸収するのには走る必要があったのか。しゃべり続けてないと死んじゃうサンマかよ」
「「そっちじゃないだろモん!!」」

 今度は1匹と1貴神に怒られた。もうやだこんな生活。

「こっちが嫌になるわ」
「どんだけ察しが悪いモん」
「他になにがあるんだ?」
「読者でさえもう気づいてるぞ」

 読者に怒られるのは勘弁して欲しい。そう言っているうちに昨日の場所に着いた。俺の結界はまだ健在である、さすが俺。2キロも走って意外と疲れてないし息も上がってないのもさすが俺である。

「くぅん」
「慰める言葉が見つからないモん……」
「いや、さすが俺……って褒めてもらえる空気じゃなさそうだ」

「慰めは、いらない、でござる。焼き肉定食は世の習い」
「弱肉強食な。ネタが古いなおい!」

「昨日までいつもいつも一緒に遊んでいた友、将来を誓い合った恋人、それに両親、なんか知らないおじさんまで……。みんな、みんないってしまったでござる。拙者、天涯孤独になってしまったで、ござる。くぅん」

 なんか知らないおじさんとか言ってるが誰だよ。

 昨日、木から落ちるときに咄嗟に出した結界で、俺は命を救われた。だが、俺を襲おうとした魔物たちは中に閉じ込められた。そいつらが一晩過ぎたらひとかけらの黒っぽい石になっていた。

「みんな石に化けたのか?」
「死んで魔石が残ったんだ! 魔物の99%は魔素だが、核となるのが1%の魔石。それがあれだ」

「ああ、みんな死んだのか……え? 俺の結界のせいで?!」
「最初からそう言ってるモん!」
「ご主人殿を、責めるのは間違っているでござる」
「いや、責めてるのは察しの悪さについてだが」

「その、あの。ほんとすまんかった。こうなると分かっていれば」
「ご主人殿に、責任はないで、ござるよぐすっ」

「ところで、あの魔石は高く売れたりしないか? 痛いっ!」
「いくらお主でもそれは言ってはならないモんがぶっ!!」

「痛たたたたた、は、離せこら。お前は俺の眷属だうろが。ご主人様の左腕に噛みついてどうする!」
「お主が痛い以上にボクも痛いモん。それが眷属の宿命モん。だけど。だけどだけど、ワンコロの心の痛みを思えばこのぐらいなんということないモんがぶぶぶぶっ」

「痛い痛い痛い。ますます力を入れやがった痛いっての! 自分も痛いってほんとかよ。おいオツ、こいつをなんとかしてくれ」
「ひとつ1万ドルぐらいで売れると思うぞ」
「なんと! そんな高い……かどうかは知らんが痛いじゃあ拾ってどこかで痛い売ろう痛い痛いか、ってどこで痛い買ってくれる痛いっての、このやろう!!」

 堪忍袋の緒が切れた。俺は右腕で思いきりネコウサをどついた。ようやく手から離れた。

「ご主人にお願いがあるでござる」
「ふーふー。あー痛かった。なんだワンコロ?」
「その石が高額で売れるのは充分承知しているでござるが、あれは拙者に譲って欲しい」

「お前も金が必要なのか?」
「そんなわけないだろが。ワンコロにとって、あれを食べるのは祖先の記憶や能力を引き継ぐ儀式だ」
「記憶や能力を引き継ぐ? あんな硬そうなものを食べるのか?」
「そうだ、ボリボリとな。それが彼らの供養の仕方だよ」

「そうか。供養と言われてはごり押しもできないな」
「分かってもらえたでござるか!?」
「分かった。お前に半分や……分かった分かった。そんなお願いします的な目をこっちに向けるな。表情筋なんかないくせに雄弁だな、お前の目は」

「分かってもらえたでござるかその2」
「ひとつぐらい俺にくれても……分かった分かった。俺にキバを剥くなネコウサ。もう懲りたっての」
「ぐるぐるぐるぐるぐる」

 俺は結界を解除して、すでに魔石となったワンコロの仲間たちに近づく。ワンコロは動かない。

「どうした、ワンコロ。全部お前が食べて良いんだぞ?」
「ご主人様から手渡しが必要でござる」
「どこの幼稚園児だよ」

「そうじゃない。ご主人様の許可なしに勝手なことができないのが眷属というものだ。ひとつでいいから手渡しをしてやるが良い。それが許可したという証しになる」

「そういうものなのか。さっき許可なしに勝手に噛みついたやつがいたけどな。まあ良い。ほれ、ワンコロ。これはお前のものだ」

 そう言って放り投げてやると、ワンコロは口で受け止めボリボリと食べた。手で触った感じではずいぶんと硬そうだったが、丈夫な歯をしてるんだな。

 その後、全部で5つの魔石を平らげると6つ目を咥えて俺のところに持って来た。

「全部、食べて良いんだぞ?」
「それは別種の魔石のようだな」
「別種?」
「なんか知らないおじさんの石でござる」

「ああ、そんなこと言ってたな。巻き添えを食った魔物か。いらないならもらうが、これが意外と貴重なものだったりしてな。オツ、これはいくらになる?」
「2ドルだな」
「安いなおい!」
「仕方がない、それはスライムの魔石だ。たいして魔力もないからクズ魔石と呼ばれておる」

「なんでスライムが知らないおじさんなんだよ! 俺のワクワクを返せ」
「スライムは長生きでござるから」
「知らねぇよ」

「スライムはともかく、お主は一度に5匹も稀少なタイガーウルフを退治したことになる。ものすごい経験値がもらえただろう?」
「経験値? さぁ?」
「なんか不思議な音がしなかったか?」
「さぁ……ん? あのサイコロの音か?」
「サイコロってほとんど音なんかしないモん」
「いや、サイコロ賭博の話だ。チンチロリンって」

「おお、おそらくそれだ。6回鳴ったはずだがな」
「数えてないが、昨日はそれで夜中に起こされたんだ」
「そのとき、この子らは亡くなったのであろうな」

「そうだったのか。でもおかしいぞ。音が鳴ったのはワンコロの具合が悪くなるより前だった、ワンコロの結界はもっとずっと小さかったのに」
「この結界に6匹も魔物がいたから魔素の消耗が早かったのだろう。それに暴れたせいもあるかも知れない」
「そういうことか。どのみち助けることはできなかったな」

「ところでワンコロ」
「なんでござる?」
「お前が望むなら、俺の眷属を止めて自由にしてやるが。できるだろ? オツ」
「簡単だ。双方の合意があればすぐに解消できる」

「ということだが、どうする?」
「せ、拙者。ひとりにはなりたくないでござる」
「ボクも、ボクも一緒にいて欲しいモん!」
「ワンコロはまだ小さい。ひとりでこの世界を生き抜くのは難しかろう。解消するにしてももう少し大きくなってからにしてはどうだ」

「知らないうちに眷属になっていたから、ワンコロとしても不本意かと思って聞いてみたんだ。そうか、それなら良い。じゃ、しばらくは俺の眷属として」
「よろしくお願いするでござる」
「5個の魔石分、5万ドル貸しだからな」
「「「ふあっ!!!」」」
「あと、2ドルは引いておいてやる」
「計算、細かいなおい!」

 ということで俺の異世界生活が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...