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第251話 いくらで売る?
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「カメはこちらでは新参者なのか」
「人の名前をいきなり略したな!? まあいい。俺は最初は別の工房にいた。先代のサツマ公・アキラ様の直轄の工房だった。しかし、アキラ様は一昨年に亡くなって、そこが閉鎖になったのがついこの間だ。それから俺はここに来た。ほらできたぞ、こんな感じだ」
「おっ、おっ、おっ。なんかすごい形になったじゃないか。それはお前のオリジナルか?」
「いや、これはアズマで師匠に教わったやつだ。やりたくてもあのろくろではできなかったんだよ。だが、この機械を使えばできる。アズマのような、いや、工夫次第ではそれ以上の模様が可能だ。これは素晴らしい。砥石も思った以上に持ちが良いし、これずっと俺に使わせてくれないか」
「そのつもりだ。存分に使ってくれ。砥石の形状に注文があるならどんどん言ってくれていい。ただ、そのハンドグラインダーはずっと持っているにはちょっと重いかと思ったが、どうだ?」
「うむ、そう言われれば少し重いかな。だが、えっとこのはん・どぐされだぁ? 加工機だが、あのろくろに比べれば遥かにいい。前の工房にあったものよりも、アズマの師匠が使っていたものよりも遥かに応用が利く。よくこんなもの作ったな」
「どぐされてないから! どこかの球団じゃないから。ハンドグラインダーだから! でもそれなら良かった。ということは、アズマにもこれと似たものがあるということか?」
「いや、こんなふうに手で持つものはないよ。砥石が横向きに付いているだけだ。しかし、もう少しなにか工夫がしてあるようだったが、俺には使わせてくれなかったから、それ以上は分からん」
「そこは師匠だけの独占か」
「そういうことだ。それでイライラして適当なものばかり作っていたら、それがアキラ様の目にとまったらしい」
「先代のサツマ公って人か。その人も大概変わり者だな」
「まったくだ。しかし、これがあればあんな師匠など、もう破門にしてやる」
「いや、お前が弟子だろ。師匠に破門されてここに来たんじゃないのか」
「ほら、これが斜格子っていうやつでな」
「破門にリプはなしかよ! おおっ。これは素晴らしい。雪の結晶みたいだ」
「キレイだろ。それに、これが星形」
「おーなるほど、確かに星の形だ」
「これが魚子(ななこ)だ」
「ななこ?」
「魚の卵のことだ。それが一列に連なっているように見えるからこの名が付いた。元々は彫刻の技法だ。たがねを使って金属にこういうブツブツを付けるんだ。それがこの砥石を使うと、ガラスにできてしまう。これはすごいことだぞ」
「ちょっと触らせてもらっていいか。なでなで。ほほぉ。でこぼこだ。ものすごくたくさんの小さなピラミッドが並んでいるみたいだ。しかしこんな小さなでこぼここをキレイに並べることができるのは、お前の腕があればこそだろう?」
「おっ。そうか、それが分かるか」
「分かる。俺は素人だが、この美しさには芸術を感じる。こんな緻密な作業をできる人間はそういない。これは間違いなく」
「「高く売れるな!」」
俺たちは固い握手をした。同士よ!
「しかし、アズマと同じものじゃいまいちだよな。サツマならではの個性が必要だ」
「個性か。ここのは色ガラスはとても厚い。だからぼかしが際立つんだ。それが個性だな」
「なるほど。それにさっきの魚子柄を付ければグラデーションが個性になるな。それも悪くはないが、もう一声欲しい」
「なんだ、これだけじゃ不満か。どうして欲しい?」
「もっと色が欲しい。見たところ、青色や黄色の系統はあるようだが、赤色がない。赤があれば、それは強烈な個性となる。ブランド化が可能になるんだ。それを作ってくれ。色の三原色がすべてあればどんな色も作れることになるしな。黒だって可能になるだろう。ぜひそれを」
「そそそそそそ、そんなこと簡単に言うなぁぁ!!!」
同士じゃなかったのか!?
「いや、簡単に言ったつもりはないが」
「そんなことを口で言うのは簡単だ。お前は、赤を出すことがどんなに難しのか知ってるのか」
「さぁ? 中村さんは青色ダイオードを発明するのに、ずいぶんな苦労をしたと聞いているが」
「だ、誰?」
「あ、こっちの話だった。ガラスを赤くするのはそんなに難しいのか?」
「難しいなんてもんじゃねぇよ。あれは不可能って言うんだ」
そこまで?! いや、そんなはずはない。俺は赤い切子ガラスを見たことあるぞ。元の世界での話だが。
しかし、どうしたらそんな色が出せるのか、そんな知識はない。だが、できないはずはないのだ。ただ難しいのであろう。難しいのであれば、ここはひとつやってみるべきだ。
「じゃあ、お前がやれ」
「はひ?」
「赤いガラスを作れ。業務命令だ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと。あんたは何様? ってか何者?」
「なあ、クボ工房長」
「どうしました?」
「このカメジロウ、俺にくれないか?」
「え? こいつをですか? 若衆道にするには少々年が行きすぎて」
「そんなサツマの男色文化なんかに興味はねぇよ!! そんなんじゃない。俺はイズモの太守だが、シキ研という研究所の所長もやっている」
「はぁ?! 太守 様ぁぁ?!
「はぁ?! 研究所の所長ですと?!」
うん、驚き方にもバリエーションが必要だよね。
「こいつをシキ研の社員にして、ここに派遣しているという形にしたい。そのためには、なにが必要だ?」
「なにが必要だって言われても。そりゃ、こいつはいまのとことなにもしてないから、好きに使ってもらって良いですが。しかし、先代がわざわざ連れてきたやつを簡単に売るわけには」
「そうか。じゃあ、この工房を買うと言ったら、いくらなら売る?」
「「「はぁぁぁ!?!?!」」」
こいつにも切子にも、そのぐらいの価値があると思うんだ。
「人の名前をいきなり略したな!? まあいい。俺は最初は別の工房にいた。先代のサツマ公・アキラ様の直轄の工房だった。しかし、アキラ様は一昨年に亡くなって、そこが閉鎖になったのがついこの間だ。それから俺はここに来た。ほらできたぞ、こんな感じだ」
「おっ、おっ、おっ。なんかすごい形になったじゃないか。それはお前のオリジナルか?」
「いや、これはアズマで師匠に教わったやつだ。やりたくてもあのろくろではできなかったんだよ。だが、この機械を使えばできる。アズマのような、いや、工夫次第ではそれ以上の模様が可能だ。これは素晴らしい。砥石も思った以上に持ちが良いし、これずっと俺に使わせてくれないか」
「そのつもりだ。存分に使ってくれ。砥石の形状に注文があるならどんどん言ってくれていい。ただ、そのハンドグラインダーはずっと持っているにはちょっと重いかと思ったが、どうだ?」
「うむ、そう言われれば少し重いかな。だが、えっとこのはん・どぐされだぁ? 加工機だが、あのろくろに比べれば遥かにいい。前の工房にあったものよりも、アズマの師匠が使っていたものよりも遥かに応用が利く。よくこんなもの作ったな」
「どぐされてないから! どこかの球団じゃないから。ハンドグラインダーだから! でもそれなら良かった。ということは、アズマにもこれと似たものがあるということか?」
「いや、こんなふうに手で持つものはないよ。砥石が横向きに付いているだけだ。しかし、もう少しなにか工夫がしてあるようだったが、俺には使わせてくれなかったから、それ以上は分からん」
「そこは師匠だけの独占か」
「そういうことだ。それでイライラして適当なものばかり作っていたら、それがアキラ様の目にとまったらしい」
「先代のサツマ公って人か。その人も大概変わり者だな」
「まったくだ。しかし、これがあればあんな師匠など、もう破門にしてやる」
「いや、お前が弟子だろ。師匠に破門されてここに来たんじゃないのか」
「ほら、これが斜格子っていうやつでな」
「破門にリプはなしかよ! おおっ。これは素晴らしい。雪の結晶みたいだ」
「キレイだろ。それに、これが星形」
「おーなるほど、確かに星の形だ」
「これが魚子(ななこ)だ」
「ななこ?」
「魚の卵のことだ。それが一列に連なっているように見えるからこの名が付いた。元々は彫刻の技法だ。たがねを使って金属にこういうブツブツを付けるんだ。それがこの砥石を使うと、ガラスにできてしまう。これはすごいことだぞ」
「ちょっと触らせてもらっていいか。なでなで。ほほぉ。でこぼこだ。ものすごくたくさんの小さなピラミッドが並んでいるみたいだ。しかしこんな小さなでこぼここをキレイに並べることができるのは、お前の腕があればこそだろう?」
「おっ。そうか、それが分かるか」
「分かる。俺は素人だが、この美しさには芸術を感じる。こんな緻密な作業をできる人間はそういない。これは間違いなく」
「「高く売れるな!」」
俺たちは固い握手をした。同士よ!
「しかし、アズマと同じものじゃいまいちだよな。サツマならではの個性が必要だ」
「個性か。ここのは色ガラスはとても厚い。だからぼかしが際立つんだ。それが個性だな」
「なるほど。それにさっきの魚子柄を付ければグラデーションが個性になるな。それも悪くはないが、もう一声欲しい」
「なんだ、これだけじゃ不満か。どうして欲しい?」
「もっと色が欲しい。見たところ、青色や黄色の系統はあるようだが、赤色がない。赤があれば、それは強烈な個性となる。ブランド化が可能になるんだ。それを作ってくれ。色の三原色がすべてあればどんな色も作れることになるしな。黒だって可能になるだろう。ぜひそれを」
「そそそそそそ、そんなこと簡単に言うなぁぁ!!!」
同士じゃなかったのか!?
「いや、簡単に言ったつもりはないが」
「そんなことを口で言うのは簡単だ。お前は、赤を出すことがどんなに難しのか知ってるのか」
「さぁ? 中村さんは青色ダイオードを発明するのに、ずいぶんな苦労をしたと聞いているが」
「だ、誰?」
「あ、こっちの話だった。ガラスを赤くするのはそんなに難しいのか?」
「難しいなんてもんじゃねぇよ。あれは不可能って言うんだ」
そこまで?! いや、そんなはずはない。俺は赤い切子ガラスを見たことあるぞ。元の世界での話だが。
しかし、どうしたらそんな色が出せるのか、そんな知識はない。だが、できないはずはないのだ。ただ難しいのであろう。難しいのであれば、ここはひとつやってみるべきだ。
「じゃあ、お前がやれ」
「はひ?」
「赤いガラスを作れ。業務命令だ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと。あんたは何様? ってか何者?」
「なあ、クボ工房長」
「どうしました?」
「このカメジロウ、俺にくれないか?」
「え? こいつをですか? 若衆道にするには少々年が行きすぎて」
「そんなサツマの男色文化なんかに興味はねぇよ!! そんなんじゃない。俺はイズモの太守だが、シキ研という研究所の所長もやっている」
「はぁ?! 太守 様ぁぁ?!
「はぁ?! 研究所の所長ですと?!」
うん、驚き方にもバリエーションが必要だよね。
「こいつをシキ研の社員にして、ここに派遣しているという形にしたい。そのためには、なにが必要だ?」
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