異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第5話 乳揉む権利?

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「まあ、そんなことはどうでも良いとしてだな」

 まるまる1話かけた俺の自己紹介がそんなことにされた。

「まずは、話を聞いてくれ」

 ソウが言った。最初からこいつだけは、俺に対して礼儀正しい。俺が12才ならもっと上からの言葉になりそうなものだが、どこか鷹揚で好感が持てるやつだ。手伝ってやろうかな、という気にもなる。

「ふん、どうせこんなやつにできやせんよ。ワシらがどれだけ苦労したと思ってんだ」

 このじじいだったら、最初から断ってたな。だが断る、ってセリフを言ってみたかったなぁ。通じないだろうけど。

「ユウって昔っから気分屋だよね。気が乗らないとただの穀潰しだし、いつ気分が乗るのかまったく分からない。こんなの雇ってソウは大丈夫か」

 この子はあとで泣くほど乳を揉んでやる。

「この剣にめっきをすれば良いだけんだろ? それがどうして問題になったんだ?」
「この剣ならなんとかなるんだ。だが、それが実はこういうやつでな」

 と言って足下からなにやら取り出して、机の上に置いた。それは、レイピアよりももっと太い剣であった。

「こいつはブロード・ソードっていうんだが、ハルミのものとは桁違いに固い鋼でできている。ユウには持つこともできないだろう。これに金めっきをしてくれ、という依頼なんだ」

 何をこれしき、と気張って持ち上げようとしてみたが、柄の部分がほんの少し浮いただけだった。とても人間が持てる重さではない。

「ああ、さすがにちょっと重いな。でもいつか私もこんなものを持ち歩きたいものだ」

 と言いながら、ひょいっと持ち上げたのはハルミだった。胸を揉むのはやめておこうと思った。きっとあれ、全部クッソ固い筋肉で出てきているに違いない。

「念のために聞くけど、電気めっきだよな?」

 当たり前だろこのアホがという表情をじじいがしたので、お前には聞いてないから黙ってろという顔をして対抗してやった、ぐぬぬぬぬぬ。

「もちろん、今どきアマルガム法なんか使うところはない。あれは危険過ぎるからな」

 ……ここってなにげに電気もあるのね。本当に異世界なのか? もしかしてタイムトラベルだったりしないか? だが、女の子が剣を持ち歩ける時代なんか日本にはないよなぁ。

「それで、問題とは?」
「すぐに剥がれちゃうんだよ。しかも、光沢もなく色も斑になる。こいつみたいに」

 そう言って、もう1本同じ剣を机に置いた。それはそれは光り輝きもせずシミのような黒っぽい模様をふんだんにちりばめた薄汚い剣であった。しかも、あちこちで金がペロペロめくれている。

「これがめっき後だ」

 実施する前より汚くなる金めっきとはいったい……。

「なるほど。それなら、やらなきゃいんじゃね?」

 そうはいかんから頼んでんだろー!!! と恒例の一斉ツッコみである。さて、どうしたもんかな、これは。

「めっき条件はどうなってる?」
「それはもう、考えられることがすべて試したさ。流す電流や時間はあらゆるものを試した。めっき浴は新品にしたりわざと使い古しのものにしてみたり、前処理では塩酸や硫酸、シアンや覚醒魔法まで使ってみたのだが、どうしてもこうなってしまうんだよ」

 待て待て待て。今さらっと1単語だけ異世界になったぞ? 何だよ覚醒魔法って。それ、めっきで使うような技術なのか。そんなありふれたものなのか

「ん? ああ、覚醒魔法か。工房に入ったユウは知らないだろうけど、魔法使いならかなり初期に習う魔法だよ。その物質のもともとあった特性を呼び出す魔法だ。多少のサビならこれだけで落とすこともできる」

 異世界パネェっす。削らなくても還元処理しなくても、錆びが落とせるってことか。すごいな。

「どうだユウ。あんたの知識の中に、これ以外にめっき状態を良くする方策って知らないか?」
「知らなーい」

 このガキなめくさりやがって、ワシが成敗してくれるわ、とわめくじじいを皆が必死で抑えていた。

「だが、やるだけやってみよう。俺が指示するから、その通りの試験をやってくれるか?」
「あ? ああ、何か手があるのか?」

「今の話だけでは、どの条件がどのぐらい効いているのかさっぱり分からない。だからまずはそれをはっきりさせよう」

「「「「???」」」」

 分からんだろうなぁ。前の世界でもこれが通じるやつなんかめったにいなかったからな。

「例えば、塩酸処理はめっき品質にどのくらい有効なんだ?」
「え? あ? そ? そんなこと分かるわけが。ただ、表面皮膜を除去したほうが良いだろうと」
「その覚醒魔法というのも、似たようなものだよな」
「ああ、そうだ。どのくらい有効かなんて、誰も考えたことはない」
「そうだろうと思った。だから、それをまず、はっきりさせよう」

「いったい、何が始まるんです?」
「めっき品質に効きそうな工程とその水準をリストアップしてもらいたい」

「ちょっと待ってくれ。工程というのは、塩酸処理とかのことだよな。水準って何だ?」
「塩酸処理だったら、例えば濃度だな。5%か10%か、あるいはマックスの35%か」
「マックスは無理だ。下地までダメージが行ってしまう」

「これらの水準は過去の実績から決めてくれ。それはやったものでないと分からない。前処理の場合は浸漬時間や温度だってあるだろ? 魔法なら強いとか弱いとかもあるのかな。それを水準というんだ」

「ふむ、そういうことか。分かったリストアップする。それでどうするんだ?」
「それをもって、試験をしてもらう」
「また試験かぁ。さんざんやったんだがなぁ」

「さっきも言った通り、どの工程のどの水準がどの程度めっき品質に寄与しているのか、まったく分かっていないだろ?」
「まあ、それはそうだ」

「そういうやり方を、猫とらまえと言うんだ。その場の思いつきだけでやることだ。それはとても効率が悪い」
「効率が悪いと言っても、他に方法が」
「あるよ」

 ああ一度言ってみたかったこのセリフ。俺カコイイ。

「そんな夢みたいな方法があるわけないだろ、子供がでまかせを言うな」

 じじいはぶれないな。

「じゃあ、それが本当にあったらどうするよ?」
「そ、そんときは、何でも好きなものをお前にやるよ!」

「よっしゃ! 交渉成立だ」

 じじいは、え? という顔をした。俺は思わずハルミとミヨシの顔を見る。何でもと言ったな。このふたりの乳を1日交代で揉む権利をもらうというのはどうだろう。ナイスアイデアだと……。

 そう思った瞬間に、ハルミから殺気がほとばしった。止めておこうっと。

「じゃあ、さっそくその工程と水準のリストアップをしよう。これから俺も作業現場に行くから、工程の説明をしてくれ。俺も内容を良く知りたいからな」
「わ、分かった。それで、どんな方法なんだ、それは?」

「実験計画法、だよ」
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