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1 船上にて
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どこまでも続く水平線。
雄大な光景である。初見で声をあげない人はいないのではなかろうか。
しかし、そう言っていられるのは正直最初の二、三時間までだ。それ以上はどう頑張って心に感動を求めても、飽きの方が先にくる。
ましてや二日目ともなれば、何か他のものでも見えてこないかな、と思う方が自然だろう。
豪華客船に乗っているのであれば、船内を散策することもできただろうが、あいにく普通の客船ではそういうわけにもいかず、奥貫陽南子は上部甲板の手摺にもたれて潮風と陽射しを浴びていた。
一見暇そうに見える陽南子だったが、退屈しているわけではなかった。
これから始まる高校生活に思いを馳せていたのだ。
陽南子は、高校生活に口では言い表せないほど大きな期待を抱いていた。
国立陽南学園。
南海の孤島、陽南島にある世界でも類を見ないカリキュラムで知られている、オンリーワンな高校である。
その特性から陽南島は別名『天国に一番遠い島』と呼ばれている。
通り名だけを聞くと、とんでもないところのように聞こえる。実際にとんでもないところではあるのだが、卒業生である陽南子の母は、学園の名をそのまま娘につけている。それほどいいところだったとよく聞かされていたので、陽南子の期待は高まる一方だったのだ。
「あたしにもお母さんみたいな出逢いがあるのかな」
頬が緩むのを止められない。
周りに人がいれば奇異の視線が向けられたかもしれないが、陽南子と同じ陽南学園の新入生は、ここにはほとんどいなかった。
横浜の港を出発してから既にかなりの距離を南下している。当然それに応じて陽射しもその強さを増してきており、日焼けが心配な女子生徒たちはほとんど外には出てこない。
陽南子の他には、少し離れたデッキチェアで高いぴきをかいている男子が一人いるだけだった。
あの人、あんなところで寝てて大丈夫なのかな?
南国の陽射しの強烈さは、未経験者にはなかなか想像できない。例え曇っていたとしても、ずっと外にいたら火傷と言ってもいいような日焼けになってしまうこともある。あんな無防備に寝っこけていたら、目覚めた時には大火傷なんてことにもなりかねない。
やっぱり声かけてあげた方がいいかな?
男子と面識はなかったが、これから同じ学舎で何年間かを過ごす仲間である。放っておくのも忍びなかった。
見も知らない異性に声をかけるのは、陽南子的にはかなりの冒険だったのだが、意を決して一歩を踏み出した。
が、結局声をかけることはできなかった。
陽南子が声をかけるより早く、陽南子自身に声がかかったのだ。
「奥貫陽南子」
雄大な光景である。初見で声をあげない人はいないのではなかろうか。
しかし、そう言っていられるのは正直最初の二、三時間までだ。それ以上はどう頑張って心に感動を求めても、飽きの方が先にくる。
ましてや二日目ともなれば、何か他のものでも見えてこないかな、と思う方が自然だろう。
豪華客船に乗っているのであれば、船内を散策することもできただろうが、あいにく普通の客船ではそういうわけにもいかず、奥貫陽南子は上部甲板の手摺にもたれて潮風と陽射しを浴びていた。
一見暇そうに見える陽南子だったが、退屈しているわけではなかった。
これから始まる高校生活に思いを馳せていたのだ。
陽南子は、高校生活に口では言い表せないほど大きな期待を抱いていた。
国立陽南学園。
南海の孤島、陽南島にある世界でも類を見ないカリキュラムで知られている、オンリーワンな高校である。
その特性から陽南島は別名『天国に一番遠い島』と呼ばれている。
通り名だけを聞くと、とんでもないところのように聞こえる。実際にとんでもないところではあるのだが、卒業生である陽南子の母は、学園の名をそのまま娘につけている。それほどいいところだったとよく聞かされていたので、陽南子の期待は高まる一方だったのだ。
「あたしにもお母さんみたいな出逢いがあるのかな」
頬が緩むのを止められない。
周りに人がいれば奇異の視線が向けられたかもしれないが、陽南子と同じ陽南学園の新入生は、ここにはほとんどいなかった。
横浜の港を出発してから既にかなりの距離を南下している。当然それに応じて陽射しもその強さを増してきており、日焼けが心配な女子生徒たちはほとんど外には出てこない。
陽南子の他には、少し離れたデッキチェアで高いぴきをかいている男子が一人いるだけだった。
あの人、あんなところで寝てて大丈夫なのかな?
南国の陽射しの強烈さは、未経験者にはなかなか想像できない。例え曇っていたとしても、ずっと外にいたら火傷と言ってもいいような日焼けになってしまうこともある。あんな無防備に寝っこけていたら、目覚めた時には大火傷なんてことにもなりかねない。
やっぱり声かけてあげた方がいいかな?
男子と面識はなかったが、これから同じ学舎で何年間かを過ごす仲間である。放っておくのも忍びなかった。
見も知らない異性に声をかけるのは、陽南子的にはかなりの冒険だったのだが、意を決して一歩を踏み出した。
が、結局声をかけることはできなかった。
陽南子が声をかけるより早く、陽南子自身に声がかかったのだ。
「奥貫陽南子」
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