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84 生温かい関係

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「し、神獣の主って……」

 信じられないモノを見る目が俺に集まる。

 そうだよね、そういう反応になるよね。

 だからあんまりおおっぴらにしたくなかったんだよな……

 でも、バレちまったらしょうがない。

「ど、どうしたら神獣と契約できるんですか?」

「気づいたらそうなってたんですよ」

「むむう」

 イケメンに似合わぬ唸り声を発したブライト王子だったが、すぐに気を取り直したようだ。

「ぜひお礼をさせていただきたい。皆さんを招待したいのですが」

「えーっと、実はですね、別口でお城に呼ばれてまして」

「え?」

「ローザさんって侍女さんに連れられて来たんですよ」

「ローザ?」

 ブライト王子の目が点になった。

「ローザがあなた方を連れて来たのですか?」

「はい」

「初めてローザを褒めることになりそうだ」

 その言葉には苦笑するしかない。

「いずれにしても、あなた方を歓迎します」

 で、城に案内されることになったのだがーー

「あああああーっ、コータロー様、ご無事だったんですね。よかったぁーっ」

 城に着くなり涙と鼻水で顔をグシャグシャにしたローザさんが突進してきた。

「うおっ!?」

 反射的にかわしてしまい、目標を見失ったローザさんは思いっきり地面にダイブした。

「コータロー様、酷いですぅ……」

「…いや、その、悪い……」

 でも、あの形相で突っ込んでこられたら誰だってよけると思うんだよな、うん。

「おい、ローザ」

 ブライト王子に声をかけられたローザさんは、文字どおりびくんと飛び上がった。

 恐る恐る王子の方に振り返る。

「す、すみません、すみません。何やっちゃったかわかりませんけど、ホントにゴメンナサイ」

 正しい平謝りの見本がここにいた。って、正しくはないか。何やっちゃったかわからないって言っちゃってるもんな。怒りの炎に油を注いでるだけだよな。

 確かなのは、王子からは怒られるのがデフォルトらしいというところか。無理もないけど。

「…おい、誤解を招くから土下座はやめろ」

「え?   怒られるんじゃないんですか?」

「何か怒られるようなことをしたのか?」

「とりあえず心当たりはないんですが、誤っておいた方がよいかと……」

「…おまえは一体俺を何だと思ってるんだ?」

「この世で一番おっかない上司?」

「……」

 あ、青筋浮いた。

「…よくわかった」

 えらい迫力ある声だ。肩が震えてるのは、多分怒ってるんだろうな。

「おまえがこの方々をお連れしたと聞いたから、たまには褒めて、褒美もとらせようかと思ったんだが、要らなそうだな」

「あ、いえ、そんなことないです。ご褒美ください!」

「手遅れ」

「そんなあ。王子、つれないこと言わないでくださいよぉ。今夜いっぱいサービスしますから」

「ばっ、おまえ、何を言い出してーー」

 あー、なるほど。そういうご関係ですか。いやに気安いと思ったんだよねー。

 俺だけじゃなく、皆の王子を見る目が生温かくなった。

「やっぱり男の人はおっぱい大きな女がいいのね」

「ちっぱいはダメなのかしら」

「大丈夫。ニッチな需要は必ずあるわ」

「頑張りましょうね」

「ええ、負けないわよ。強く生きるわ」

 どこで何の勝負をしてるのかという素朴な疑問はあったのだが、余計なことは言うなという本能の警告に従って沈黙を守る。

 ふと思う。

 脱線した先はどこに続いていくんだろう……
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