7 / 22
第4話 - 2
しおりを挟む
「何で、ベッドの上で正座なんかしてるんだ?」
京也は文音の目の前に腰を下ろすと、少し楽しそうな声音で理由を聞いてきた。
「……な、なんとなく」
文音は視線を落としたまま、小さな声で答えた。
(だって、これから京也さんとするって……やっぱり、もう少し待ってもらえば良かったかな……いや、でも……うう……もう、よくわかんない……)
動悸が激しさを増していく。顔が異様に熱くて、頭がくらくらしてきた。
「ちっ……ちょっと、京也さん?!」
京也に両脇を掴まれたと気づいた次の瞬間、文音は身体を抱き上げられ、横抱きの状態で彼の膝の上に乗せられていた。膝から降りようと文音が腰を浮かせる。すると京也は、肩と腰に手を回し、文音の動きを封じたのだった。
「お、降ろしてください! わたし、重いですからっ」
「全然、重くない。重かったら、こんな簡単に乗せられないだろう」
京也がくっと笑う。本当に重くないのなら、それはそれでいい。けれど――。
「恥ずかしいんですっ。なので、離してください」
「文音が、ちゃんとリラックスしたらな」
そう言うと京也は、文音の身体をぎゅっと抱きしめた。
(よ、余計、落ち着かないから!)
文音は、京也のカーディガンを強く握り、目を閉じた。
「ほら、文音。力抜けよ。じゃないと、いつまでもこのままだぞ」
文音の頭を撫でながら、京也が耳元で囁いてくる。文音は薄らとだけ目を開けると、京也の身体に擦りつけるようにして頭を左右に動かした。
「俺も出来る限りのことはする。だから、文音も出来るだけでいい。出来るだけでいいから、俺を信じて身を委ねてみて欲しい」
いつの間にか緩まっていた文音の手を、京也はそっとカーディガンから引き離すと、自身の口元へと引き寄せていった。自分の指先が京也の唇に触れる。文音はその様子を、ただ黙って見つめていた。ゆっくりと京也が口づけを解いていく。それから彼は、こっちに顔を向け、ふっと笑い掛けてきたのだった。
文音は、おもむろに京也から視線を外した後、頭を小さく縦に動かした。
「何かあれば、どんなに小さなことでも、ちゃんと言うんだぞ」
京也はそう告げると、文音を優しくベッドへと寝かせた。そして、添い寝するような格好で、彼も身体を横にする。
なかなか目を合わせようとしない文音に、京也は何も言わず頬を撫でた。ようやく文音が目を見てくるようになったところで、京也は静かに顔を近づけていった。
「…………!」
唇にキスを受けた途端、文音は身体を強張らせ口を引き結んだ。それに対し、京也は唇を優しく擦りつけるようにしてキスを続ける。しばらくすると文音の唇に隙間が生じてきた。その隙間に合わせ、今度は唇を食むように京也はキスをしていく。
「んっ……」
不意にくすぐったさを覚え、文音は身じろいだ。京也が少しだけ舌を挿し入れ、唇をなぞってくる。腰の辺りがぞわぞわとし、眠っていた器官が、じんじんとした疼きを発してきた。
段々と唇がぬめりを帯びていく。心臓が激しく脈を打ち、鼻からの呼吸では酸素が足りなくなってくる。文音は顔を離そうと京也の胸に手を置いた。するとすかさず、京也が頬に置いていた手を後頭部へと移し、口づけを深めてきた。文音は咄嗟に息を吸おうと口を開ける。その瞬間、京也の舌が奥へと入り込んできたのだった。
「ぁ……まっ……きょう……やさん……」
舌を絡め捕られ、文音は言葉を取り上げられる。舌と舌が擦り合わされる度に、ぞくぞくとした感覚が身体の中に起こった。緩やかな舌遣いによって思考が溶かされていく。身体に一切の力が入らなくなったところで、京也が唇を離していった。
ゆっくりと瞼を開ける。うっすらと濡れた自分の睫毛の先に、柔らかい笑みを浮かべた京也の顔が見えた。
「そのまま、文音は感じることだけに集中してろ」
京也はそう言うと、額にキスをしてから覆い被さってきた。ボタンフロントのパジャマワンピース越しに、彼の体温が伝わってくる。気づくと下腹部に感じていた違和感はすっかり消えていた。
「ん……っ」
首筋に京也の唇が触れる。そこから少しずつ下へと向かって、京也はキスを落とし始めた。キスが進んでいくにつれ、パジャマのボタンが外されていく。文音の身体に力がこもっていった。
すべてのボタンを外し終えると、京也はパジャマと素肌の間に手を滑り込ませた。彼の手のひらが優しく乳房を包んでいく。その途端、胸全体にじんわりと熱が広がっていくのを感じた。あまりの心地よさに文音は目を閉じる。不思議と身体が軽くなったような気がした。
「文音、大丈夫か?」
唇に柔らかな感触を受け、文音は目を開けた。するとすぐ目の前に、京也の優しい眼差しがあった。文音が頷きを返すと、京也は唇に軽めのキスをしながら、ゆったりと乳房を揉み始めた。
「ぁ……」
ふと胸元に目を遣ると、いつの間にかパジャマが取り払われ、乳房があらわになっていた。文音は慌てて手で覆い隠そうとした。しかし、京也に手を掴まれ阻止される。京也は、指と指を絡めるようにして文音の両手を握ると、その手をベッドへと押しつけた。
「京也さん……」
文音が消え入りそうな声で名前を呼ぶ。すると京也は、目を細めて笑んだのだった。
「ちゃんと見せてくれないと、チェックが出来ない。だから、隠すのは禁止な」
「でも……恥ずかしっ……いっ……」
京也は耳を貸さず、耳朶を舐めてきた。
「文音の身体だったら、どうであろうと俺には良いんだよ」
耳元でそう囁くと、京也は片方の手を放し、その手で文音の脇腹を撫で始めた。そして、耳から首へ、首から鎖骨へとなぞるようにして彼は唇を滑らせていく。
「んっ……ぁ……ふっ……ん……」
文音の口から喘ぎ声が漏れた。
(さっきよりも……感じて……声が、出ちゃうっ――)
文音は手をぎゅっと握って声を堪えた。ボタンを外された時と似た経路を辿っているハズなのに、今度は触れられるところすべてから、くすぐったいような気持ち良いような何とも言えない感覚が沸き起こっていく。
「んんっ……」
胸の先端から刺激を感じた途端、文音は鼻に掛かったような声を出した。恥ずかしさのあまり、文音は顔を逸らす。
(乳首……まったく感じないと思ってたのに……)
それだけではない。身体を撫でられることが、こんなにも快いことだったなんて知らなかった。
(やっぱり京也さんは、こういうことに慣れてて……それで上手くって……)
「……文音」
京也に名前を呼ばれ、文音はハッとしたように顔を向けた。京也が意地悪そうな笑みを浮かべ、口を開いてくる。
「何か、他の事を考えてたりしてないよな」
「し……てました。すみません……」
「いや、いい。その時に言うのが良いと思って、敢えて言ってなかったことがある。いいか、ちゃんと集中していないと感度が落ちる。だから、色々と頭に浮かんできても、今はいったん全部捨てろ。必要なら、後で一緒にいくらでも考えてやるから。分かったな」
「はい……」
文音は申し訳なさそうに返事をした。それなのに、京也はニヤリと笑ってくる。
「そうだな。それが出来ないと、もの凄く困るんだよな。そうなったら、出来るようになるまで店は休みにして、文音の家にこもって特訓するしかないよな」
「え……」
文音は呆然と京也の顔を眺めた。
(これは……、本気っぽい……)
そう感じ取った途端、文音はハタと我に返った。
「そこまでしていただかなくても大丈夫です! ちゃんと出来ますから、安心してください」
「じゃあ今度は、文音からキスをして、俺を誘ってみろ」
「はい?」
「集中してるのとしてないので、どう違うか、それを知るのに丁度良いだろう」
京也の細まった目を見ながら、文音は何度も目を瞬かせた。
(あれ、今日はチェックするんじゃなかったっけ?)
目的から外れているような気がしたが、そもそも自分が集中を欠いたせいでこうなったのだ。そう納得はしたものの、文音はどうすればいいのか全く分からなかった。
(わたし……エッチはしてたけど、自分と相手が一緒に気持ち良くなるために、どうしたらいいのかっていう努力を、まったくしてこなかったんだ……)
自分は感じにくい身体なのだとずっと思っていたが、もしかしてそれは、ただの思い込みだったのかもしれない。
「わかりました、やってみます。でも、その……うまく出来る自信がないんですけど、それでもいいですか?」
「それなら尚のこと、やってみるしかないよな」
京也がふっと表情を緩めてくる。そんな彼の肩に、文音はそっと手を置くと、少しずつ自分の方へと引き寄せるようにして腕に力を込めた。心臓がドキドキし始める。自分の唇に彼の唇が触れた瞬間、心臓がひときわ大きく脈を打った。
「んっ……」
無意識に声が漏れる。唇をただ重ねただけなのに、興奮している自分がいた。
(京也さんが、少しでも気持ち良いって、思ってくれあたらいいな……)
彼がしてくれたキスを思い出しながら、文音は想いを込めて口づけをする。
明らかにつたない動きにも関わらず、段々と京也が舌を絡めてきてくれた。それがあまりにも嬉しくて、文音は夢中になっていった。
淫らな音が絶え間なく耳に流れ込んでくる。京也が手を強く握ってきた。それに応えるようにして文音も強く握り返す。すると、京也が少しだけ声を漏らし、口を離した。
「っ……文音っ……」
眉間に皺を寄せ、京也が空いていた方の手で自身の口元を拭う。
「あ……ごめんなさい。わたし、何か……」
「ああ、文音のせいで、余裕がなくなった」
「え? ちょ、ちょっと、京也さんっ」
文音が身体を揺らす。京也がショーツの上から、割れ目にそって指を優しく擦り動かしてきた。
「ま、待って……くださいっ……まだ、濡れて……ないっ……かも……」
京也の動きを止めようと文音が手を伸ばした瞬間、京也がクロッチの横から指を中へと滑り込ませた。
「や……ぁ……音……立てちゃ……恥ずかし……ぃ」
ぴちゃぴちゃと水音を立てながら、京也が蜜口を触ってくる。そして京也は、芯芽に潤いを与えるかのように手を動かし始めた。
「んっ……だめっ……きょ、うやさん……それっ」
長い間、忘れ去っていた快感が、あぶり出されるようにして姿を現してきた。文音は無意識に目を閉じ、その姿を追った。
「文音はここで、イッたことあるのか?」
蜜を纏った花芽を、京也が円を描くようにして揺らしてくる。
「なっ……んで、そんな……こと……んっ……」
「チェックに必要なんだよ。だから、ちゃんと答えてくれないと困る」
文音は目を開け、唇をきゅっと閉じてから、京也の目をじっと見つめ続けた。京也が目を細めて笑ってくる。その直後、彼は探るようにして指を動かし始めた。
「あっ……やっ」
京也の指があるポイントに触れた途端、文音は声を発して身体をビクッと震わせた。
「ほら、答えて。文音」
耳朶に唇を押しつけ、京也が優しく囁いてくる。文音が反応を示したポイントに京也は手を添えると、今度はねっとりと捏ねるようにして、そこを触り始めた。
「やぁ……い、っちゃ……」
「ちゃんと答えるまでは、ダメだ」
文音が頭をふるふると左右に動かす。その途端、京也が刺激を弱めた。自分を押し流そうとしていた快楽の波が、すうっと引いていく。
「文音、どっち?」
京也がまた耳元で囁いてきた。彼は同時に、刺激を強めてくる。波が高さを取り戻したところで、文音は小さな声で答えを口にした。
「あ、あるっ……」
「最近だといつだ?」
京也が質問を足し、探るような目つきで顔を覗き込んできた。彼の質問に応えている余裕はもうない。この膨れ上がった快感を、早く自分の中で弾けさせたかった。文音は京也の目を見つめながら、懇願するように言葉を発していた。
「もっ……いかっせ……て、京也さ……んっ」
「最初の質問にはちゃんと答えたしな。イッていいぞ、文音」
視線を絡めとりながら京也が甘い声で告げてくる。文音は目を閉じると、一気に絶頂へと上りつめていった。
「あ……、……んんっ」
京也の手をぎゅっと握りしめる。腰が小さく跳ね上がり、快感が全身に散っていった。
「っ……ぁ……はぁ……はぁ……っ」
文音は瞼を下ろしたまま口で呼吸を繰り返した。握っていた手が解けていく。同時に、京也の手がゆっくりと離れていった。ずっと繋がれていた手が自由になり、文音は寝返りを打つようにして身体を動かす。と、その瞬間、腰から足首へと何かが触れていった。
「え……」
足元を見てみると、ショーツが消えていた。文音は慌てて足を閉じ、下腹部の辺りをパジャマで覆った。
「隠したらチェック出来ないだろ。ほら、大丈夫だから、手をどけろ」
京也はそう言いながら、文音の膝の上に手を乗せた。そして、膝頭に唇を寄せ、おもむろに太股や脹らはぎを手で撫で始める。優しくなだめられるようなその仕草に、文音は大人しく、そろそろと足を開いていった。
文音の足の間に入り込むと、京也は羽織っていたカーディガンを脱いだ。彼の逞しい二の腕が目に入る。その腕が自分の方へと伸びてきた。京也は、また片方だけ指を絡めて握ると、その手に口づけをし、それから、しっかりと目を合わせながら口を開いた。
「少しでも痛みを感じたら、絶対に我慢しないで言うんだぞ? いいな」
文音が小さな頷きを返した後、京也は蜜口にそっと指を当てた。そしてゆっくりと、少しずつ指を沈めていく。文音は無意識に、自由になっていた方の手で京也の肩を掴んだ。
「んっ……」
異物の侵入が痛みに対する恐怖を呼び起こす。文音は目を強くつぶり、指先に力を入れることで耐えようとした。
「文音。俺を見ながら、ゆっくり深呼吸しろ」
諭すような口調で、京也が声を掛けてくる。指示に従って、何とか気持ちを落ちつかせると、彼は額にキスをしてくれた。そのまま、京也は文音の頬や唇にキスをしながら、浅い抜き差しを繰り返し、指を奥へと進めていく。
「痛くないか?」
指が入りきったところで、京也がまた声を掛けてきた。文音が縦に頭を動かすと、彼は握っていた手にふたたび口づけをし、それから身体を起こして、足の間へと顔を寄せていった。
「……きょ、京也さん!? ダメです! 汚いですっ」
「汚くない。それにさっきも言ったろ。文音の身体なら、俺には何だって良いんだよ」
そう言われながらも、文音は繋がれていない方の手で、京也を引き離そうとした。けれど、彼はまったくビクともしなかった。それならと、文音は身をよじらせて逃げようとする。しかし、繋いでいた手を強く引かれ、それも阻止されてしまうのだった。
京也が花芯を舐めながら、指の抽送を再開する。その途端、下腹部に甘い痺れが広がっていった。
「っ……それ、だ……めぇ……」
京也が不規則に指を引き抜き始めた。彼の指が抜ける度に、蜜口に小さな快感が生まれ、とろりと蜜が零れるような感触を得る。自分の口から、次第に色めいた声が漏れていく。文音が素直に反応を返してくるようになると、京也は蜜口にもう一本指を添えた。一本目の時と同様に、彼は慎重に指を奥へと進めてくる。
「……っ」
チリっとした痛みを感じ、文音は反射的に両手をきゅっと握った。するとすぐに、京也が手を止めた。恐る恐る京也の顔を見てみると、彼はとても心配そうな顔をして、こっちを見ていた。
「痛いか?」
「ち、ちょっとだけ。でも、少しずつやれば、慣れてくると思うので、続けてください」
「……分かった」
心配の色を残しながらも京也は笑みを浮かべて見せてくれた。そして、文音の目尻に唇を寄せ、彼は涙を吸い取っていく。
(京也さんは、諦めるどころか、何度もわたしを励ましてくれる……)
なぜ彼は、こんなにも辛抱強く、丁寧にしてくれるのだろうか。告白してきた時の彼の様子を思い出すと、それが不思議で仕方なかった。彼の告白を軽いものとして受け止めていたが、京也はそれなりに自分のことを想ってくれていたのだろうか。
(わからないけど……でも――)
彼のことを信じて最後までしてみたい。その為に、彼がしてくれることは全部、素直に受け取っていこう。そう心に決めた途端、文音は苦痛を感じることなく二本の指を奥まで受け入れることが出来た。指の動きに合わせ、文音の口から甘さを帯びた声が漏れるようになると、京也は握っていた手をそっと放し、指を引き抜いていった。
「ちょっと、待ってろ」
京也はそう告げると、文音の額にキスをしてから服を脱ぎ始めた。彼の引き締まった身体があらわになっていく。文音は、ぼーっと京也の姿を眺めた。
すべての服を脱ぎ終え、用意してきた避妊具をつけると、京也はゆっくりと文音の身体に覆い被さった。そして、真剣な面持ちで彼は口を開く。
「文音、痛かったら言えよ。俺のことは一切気にするな。絶対に我慢だけはするなよ。いいな」
京也の言葉に文音はしっかりと頷いた。それを見て、京也は表情を緩めると、全身に温もりを伝えるようにして身体を重ねていった。文音は、京也の背中に手を回し、静かに目を閉じた。
少しずつ慣らしながら京也が自分の中に入ってくる。最後まで自分のことを気遣ってくれる彼の様子に、文音は胸が熱くなるのを感じた。
「……文音、全部入った。どうだ? 痛くないか?」
優しく頬を撫でながら、京也が反応を窺ってくる。文音は、そっと目を開け、下腹部に意識を向けてみた。
(すごくキツくて……、ちょっとだけピリピリしてるような……。まるで、濡れてないみたい……)
「……大丈夫です」
文音の言葉を聞いた瞬間、京也が表情を曇らせた。やはり、もう乾いてしまっているのだろうか。文音の中に不安が渦巻いていく。
(こんなに良くしてもらったこと、今までないのに……)
それを思うと、ここで止めることに文音は心苦しさを感じた。あと少しだけなら耐えられるかもしれない。文音は不安を払いのけ、口を開いた。
「大丈夫ですから。来てください」
「本当か? 嘘は駄目だからな」
京也が苦悶の表情を浮かべながら目を見てくる。文音は必死に京也の目を見つめ返した。
「ダメだったらダメって言うので、やってみてください。少しでも何かわかるなら……」
「分かった」
京也は、文音の額に少し長めのキスをすると、静かに身体を引き始めた。
(っぅ……)
身体がひりひりとした痛みを訴えてくる。頭の中が恐怖に染まっていった。
抜け落ちる寸前のところで京也が動きを止める。文音は大きく息を吸ってから、口をきつく閉じた。
「……もう充分、分かった。だから、チェックはここで終わりにする」
何かをぐっと堪えるような声音で京也はそう告げると、完全に身を引いていった。
今度は、胸のあたりがズキズキと痛み始める。今にも泣き出してしまいそうな気持ちを抑え、文音は目を開けた。すると、優しい微笑みを浮かべた京也の顔が目に映った。
「よく頑張ったな」
文音の頭を撫でながら、京也が言葉を掛けてくる。彼は、唇にキスをしてから後処理を済ませ、服を着始めた。
「ほら、文音も服着ろ」
服を着終えると、京也は文音を抱き起こし、ベッドに座った。一向に動こうとしない文音に代わって、京也が下から順にパジャマのボタンを閉めていく。文音は黙ったまま、その様子を目で追っていった。ボタンが閉まる度に胸の痛みが増す。ボタンが全て閉じられた後も、文音は俯いたままだった。
「文音?」
京也の優しげな声音が頭の中に流れ込んでくる。その途端、文音の胸は、あの苦しみによって圧し潰された。彼を不幸にしたくない。その想いに駆られて文音は口を開ける。
「やっぱり、付き合うのは、止めた方がいいです。京也さん……すごく良くしてくれたのに……わたしの身体、やっぱりダメみたいで……っ」
出来るだけ明るく振る舞おうと、文音は顔を伏せながらも必死に口角を上げてみた。それなのに声は震え、シーツには水がポタポタと落ちていく。
もう本当に、自分のこの身体が、嫌だ。
文音は目をつぶり、両手で顔を覆った。と、その直後、文音は違和感を覚えた。自分の頬と手の間に、何かが入り込んでいる。文音が目を開けるのとほぼ同時に、京也が掬い上げるようにして文音の顔を持ち上げた。
滲んだ視界の中に、怒ったような京也の顔が浮かび上がってくる。
「文音、いいか、よく聞けよ。今日のチェックで色々と分かったことがある。そして俺は、もう次のプランを立てた。あとはそれに、文音が協力するかどうか、それだけだ」
「……ぷらん」
文音が茫然とした顔で言葉を呟くと、京也は得意気な笑みを浮かべた。
「ああ、何とかしたいと思う気持ちがあるなら、四の五の言わず俺に付き合え」
どうやら彼は、本当に、身体のことは気にしていないようだ。それどころか、楽しそうに、自分の答えを待っている。
(京也さんとなら、乗り越えられるのかも――)
そう感じた瞬間、文音は京也の両手をぎゅっと握った。
「わかりました。わたし、京也さんにとことん付き合います!」
文音がそう宣言すると、京也は一瞬だけ虚を衝かれたような表情をした。そして突然、京也がくっと笑い出す。
「なんで笑うんですかっ」
「いや、表情がコロコロ変わって面白いな、と。さっきまで悲しみに打ちひしがれて泣いてたかと思えば、今度は意気揚々と笑ってる。本当、一緒にいて飽きないよな、文音は」
「……わたしも、京也さんといると楽しいです」
そう口にした途端、感謝の気持ちが胸いっぱいに溢れた。文音は微笑みを浮かべながら京也の手にキスをし、自分の頬を擦りつける。
「あー、じゃあ、俺はこれから準備するから帰るわ」
そう言うなり、京也はベッドからすっと立ち上がって、文音の手をそっと引き抜いた。文音は、下から見上げるようにして京也の顔を見る。すると、なぜか彼は、明後日の方向に顔を向けていたのだった。
「あ、はい。じゃあ、玄関まで……」
首を傾げながらベッドから降りる。と、京也が顎を掬い上げ、唇にちゅっと音を立てるようにしてキスをしてきた。
「今日はいい。文音はそのまま風呂に行け。穿いてないんだしな」
「え? あ……」
文音は顔を真っ赤にして固まった。
「じゃあ、また明日な。楽しみにしておけよ」
文音の頭をくしゃくしゃに撫で回した後、京也は嬉々とした様子で部屋を出て行く。
(とことん付き合うっていうのは、言い過ぎだったかな……)
文音は、ぐしゃぐしゃにされた頭を手で押さえながら、京也の姿を見送った。
京也は文音の目の前に腰を下ろすと、少し楽しそうな声音で理由を聞いてきた。
「……な、なんとなく」
文音は視線を落としたまま、小さな声で答えた。
(だって、これから京也さんとするって……やっぱり、もう少し待ってもらえば良かったかな……いや、でも……うう……もう、よくわかんない……)
動悸が激しさを増していく。顔が異様に熱くて、頭がくらくらしてきた。
「ちっ……ちょっと、京也さん?!」
京也に両脇を掴まれたと気づいた次の瞬間、文音は身体を抱き上げられ、横抱きの状態で彼の膝の上に乗せられていた。膝から降りようと文音が腰を浮かせる。すると京也は、肩と腰に手を回し、文音の動きを封じたのだった。
「お、降ろしてください! わたし、重いですからっ」
「全然、重くない。重かったら、こんな簡単に乗せられないだろう」
京也がくっと笑う。本当に重くないのなら、それはそれでいい。けれど――。
「恥ずかしいんですっ。なので、離してください」
「文音が、ちゃんとリラックスしたらな」
そう言うと京也は、文音の身体をぎゅっと抱きしめた。
(よ、余計、落ち着かないから!)
文音は、京也のカーディガンを強く握り、目を閉じた。
「ほら、文音。力抜けよ。じゃないと、いつまでもこのままだぞ」
文音の頭を撫でながら、京也が耳元で囁いてくる。文音は薄らとだけ目を開けると、京也の身体に擦りつけるようにして頭を左右に動かした。
「俺も出来る限りのことはする。だから、文音も出来るだけでいい。出来るだけでいいから、俺を信じて身を委ねてみて欲しい」
いつの間にか緩まっていた文音の手を、京也はそっとカーディガンから引き離すと、自身の口元へと引き寄せていった。自分の指先が京也の唇に触れる。文音はその様子を、ただ黙って見つめていた。ゆっくりと京也が口づけを解いていく。それから彼は、こっちに顔を向け、ふっと笑い掛けてきたのだった。
文音は、おもむろに京也から視線を外した後、頭を小さく縦に動かした。
「何かあれば、どんなに小さなことでも、ちゃんと言うんだぞ」
京也はそう告げると、文音を優しくベッドへと寝かせた。そして、添い寝するような格好で、彼も身体を横にする。
なかなか目を合わせようとしない文音に、京也は何も言わず頬を撫でた。ようやく文音が目を見てくるようになったところで、京也は静かに顔を近づけていった。
「…………!」
唇にキスを受けた途端、文音は身体を強張らせ口を引き結んだ。それに対し、京也は唇を優しく擦りつけるようにしてキスを続ける。しばらくすると文音の唇に隙間が生じてきた。その隙間に合わせ、今度は唇を食むように京也はキスをしていく。
「んっ……」
不意にくすぐったさを覚え、文音は身じろいだ。京也が少しだけ舌を挿し入れ、唇をなぞってくる。腰の辺りがぞわぞわとし、眠っていた器官が、じんじんとした疼きを発してきた。
段々と唇がぬめりを帯びていく。心臓が激しく脈を打ち、鼻からの呼吸では酸素が足りなくなってくる。文音は顔を離そうと京也の胸に手を置いた。するとすかさず、京也が頬に置いていた手を後頭部へと移し、口づけを深めてきた。文音は咄嗟に息を吸おうと口を開ける。その瞬間、京也の舌が奥へと入り込んできたのだった。
「ぁ……まっ……きょう……やさん……」
舌を絡め捕られ、文音は言葉を取り上げられる。舌と舌が擦り合わされる度に、ぞくぞくとした感覚が身体の中に起こった。緩やかな舌遣いによって思考が溶かされていく。身体に一切の力が入らなくなったところで、京也が唇を離していった。
ゆっくりと瞼を開ける。うっすらと濡れた自分の睫毛の先に、柔らかい笑みを浮かべた京也の顔が見えた。
「そのまま、文音は感じることだけに集中してろ」
京也はそう言うと、額にキスをしてから覆い被さってきた。ボタンフロントのパジャマワンピース越しに、彼の体温が伝わってくる。気づくと下腹部に感じていた違和感はすっかり消えていた。
「ん……っ」
首筋に京也の唇が触れる。そこから少しずつ下へと向かって、京也はキスを落とし始めた。キスが進んでいくにつれ、パジャマのボタンが外されていく。文音の身体に力がこもっていった。
すべてのボタンを外し終えると、京也はパジャマと素肌の間に手を滑り込ませた。彼の手のひらが優しく乳房を包んでいく。その途端、胸全体にじんわりと熱が広がっていくのを感じた。あまりの心地よさに文音は目を閉じる。不思議と身体が軽くなったような気がした。
「文音、大丈夫か?」
唇に柔らかな感触を受け、文音は目を開けた。するとすぐ目の前に、京也の優しい眼差しがあった。文音が頷きを返すと、京也は唇に軽めのキスをしながら、ゆったりと乳房を揉み始めた。
「ぁ……」
ふと胸元に目を遣ると、いつの間にかパジャマが取り払われ、乳房があらわになっていた。文音は慌てて手で覆い隠そうとした。しかし、京也に手を掴まれ阻止される。京也は、指と指を絡めるようにして文音の両手を握ると、その手をベッドへと押しつけた。
「京也さん……」
文音が消え入りそうな声で名前を呼ぶ。すると京也は、目を細めて笑んだのだった。
「ちゃんと見せてくれないと、チェックが出来ない。だから、隠すのは禁止な」
「でも……恥ずかしっ……いっ……」
京也は耳を貸さず、耳朶を舐めてきた。
「文音の身体だったら、どうであろうと俺には良いんだよ」
耳元でそう囁くと、京也は片方の手を放し、その手で文音の脇腹を撫で始めた。そして、耳から首へ、首から鎖骨へとなぞるようにして彼は唇を滑らせていく。
「んっ……ぁ……ふっ……ん……」
文音の口から喘ぎ声が漏れた。
(さっきよりも……感じて……声が、出ちゃうっ――)
文音は手をぎゅっと握って声を堪えた。ボタンを外された時と似た経路を辿っているハズなのに、今度は触れられるところすべてから、くすぐったいような気持ち良いような何とも言えない感覚が沸き起こっていく。
「んんっ……」
胸の先端から刺激を感じた途端、文音は鼻に掛かったような声を出した。恥ずかしさのあまり、文音は顔を逸らす。
(乳首……まったく感じないと思ってたのに……)
それだけではない。身体を撫でられることが、こんなにも快いことだったなんて知らなかった。
(やっぱり京也さんは、こういうことに慣れてて……それで上手くって……)
「……文音」
京也に名前を呼ばれ、文音はハッとしたように顔を向けた。京也が意地悪そうな笑みを浮かべ、口を開いてくる。
「何か、他の事を考えてたりしてないよな」
「し……てました。すみません……」
「いや、いい。その時に言うのが良いと思って、敢えて言ってなかったことがある。いいか、ちゃんと集中していないと感度が落ちる。だから、色々と頭に浮かんできても、今はいったん全部捨てろ。必要なら、後で一緒にいくらでも考えてやるから。分かったな」
「はい……」
文音は申し訳なさそうに返事をした。それなのに、京也はニヤリと笑ってくる。
「そうだな。それが出来ないと、もの凄く困るんだよな。そうなったら、出来るようになるまで店は休みにして、文音の家にこもって特訓するしかないよな」
「え……」
文音は呆然と京也の顔を眺めた。
(これは……、本気っぽい……)
そう感じ取った途端、文音はハタと我に返った。
「そこまでしていただかなくても大丈夫です! ちゃんと出来ますから、安心してください」
「じゃあ今度は、文音からキスをして、俺を誘ってみろ」
「はい?」
「集中してるのとしてないので、どう違うか、それを知るのに丁度良いだろう」
京也の細まった目を見ながら、文音は何度も目を瞬かせた。
(あれ、今日はチェックするんじゃなかったっけ?)
目的から外れているような気がしたが、そもそも自分が集中を欠いたせいでこうなったのだ。そう納得はしたものの、文音はどうすればいいのか全く分からなかった。
(わたし……エッチはしてたけど、自分と相手が一緒に気持ち良くなるために、どうしたらいいのかっていう努力を、まったくしてこなかったんだ……)
自分は感じにくい身体なのだとずっと思っていたが、もしかしてそれは、ただの思い込みだったのかもしれない。
「わかりました、やってみます。でも、その……うまく出来る自信がないんですけど、それでもいいですか?」
「それなら尚のこと、やってみるしかないよな」
京也がふっと表情を緩めてくる。そんな彼の肩に、文音はそっと手を置くと、少しずつ自分の方へと引き寄せるようにして腕に力を込めた。心臓がドキドキし始める。自分の唇に彼の唇が触れた瞬間、心臓がひときわ大きく脈を打った。
「んっ……」
無意識に声が漏れる。唇をただ重ねただけなのに、興奮している自分がいた。
(京也さんが、少しでも気持ち良いって、思ってくれあたらいいな……)
彼がしてくれたキスを思い出しながら、文音は想いを込めて口づけをする。
明らかにつたない動きにも関わらず、段々と京也が舌を絡めてきてくれた。それがあまりにも嬉しくて、文音は夢中になっていった。
淫らな音が絶え間なく耳に流れ込んでくる。京也が手を強く握ってきた。それに応えるようにして文音も強く握り返す。すると、京也が少しだけ声を漏らし、口を離した。
「っ……文音っ……」
眉間に皺を寄せ、京也が空いていた方の手で自身の口元を拭う。
「あ……ごめんなさい。わたし、何か……」
「ああ、文音のせいで、余裕がなくなった」
「え? ちょ、ちょっと、京也さんっ」
文音が身体を揺らす。京也がショーツの上から、割れ目にそって指を優しく擦り動かしてきた。
「ま、待って……くださいっ……まだ、濡れて……ないっ……かも……」
京也の動きを止めようと文音が手を伸ばした瞬間、京也がクロッチの横から指を中へと滑り込ませた。
「や……ぁ……音……立てちゃ……恥ずかし……ぃ」
ぴちゃぴちゃと水音を立てながら、京也が蜜口を触ってくる。そして京也は、芯芽に潤いを与えるかのように手を動かし始めた。
「んっ……だめっ……きょ、うやさん……それっ」
長い間、忘れ去っていた快感が、あぶり出されるようにして姿を現してきた。文音は無意識に目を閉じ、その姿を追った。
「文音はここで、イッたことあるのか?」
蜜を纏った花芽を、京也が円を描くようにして揺らしてくる。
「なっ……んで、そんな……こと……んっ……」
「チェックに必要なんだよ。だから、ちゃんと答えてくれないと困る」
文音は目を開け、唇をきゅっと閉じてから、京也の目をじっと見つめ続けた。京也が目を細めて笑ってくる。その直後、彼は探るようにして指を動かし始めた。
「あっ……やっ」
京也の指があるポイントに触れた途端、文音は声を発して身体をビクッと震わせた。
「ほら、答えて。文音」
耳朶に唇を押しつけ、京也が優しく囁いてくる。文音が反応を示したポイントに京也は手を添えると、今度はねっとりと捏ねるようにして、そこを触り始めた。
「やぁ……い、っちゃ……」
「ちゃんと答えるまでは、ダメだ」
文音が頭をふるふると左右に動かす。その途端、京也が刺激を弱めた。自分を押し流そうとしていた快楽の波が、すうっと引いていく。
「文音、どっち?」
京也がまた耳元で囁いてきた。彼は同時に、刺激を強めてくる。波が高さを取り戻したところで、文音は小さな声で答えを口にした。
「あ、あるっ……」
「最近だといつだ?」
京也が質問を足し、探るような目つきで顔を覗き込んできた。彼の質問に応えている余裕はもうない。この膨れ上がった快感を、早く自分の中で弾けさせたかった。文音は京也の目を見つめながら、懇願するように言葉を発していた。
「もっ……いかっせ……て、京也さ……んっ」
「最初の質問にはちゃんと答えたしな。イッていいぞ、文音」
視線を絡めとりながら京也が甘い声で告げてくる。文音は目を閉じると、一気に絶頂へと上りつめていった。
「あ……、……んんっ」
京也の手をぎゅっと握りしめる。腰が小さく跳ね上がり、快感が全身に散っていった。
「っ……ぁ……はぁ……はぁ……っ」
文音は瞼を下ろしたまま口で呼吸を繰り返した。握っていた手が解けていく。同時に、京也の手がゆっくりと離れていった。ずっと繋がれていた手が自由になり、文音は寝返りを打つようにして身体を動かす。と、その瞬間、腰から足首へと何かが触れていった。
「え……」
足元を見てみると、ショーツが消えていた。文音は慌てて足を閉じ、下腹部の辺りをパジャマで覆った。
「隠したらチェック出来ないだろ。ほら、大丈夫だから、手をどけろ」
京也はそう言いながら、文音の膝の上に手を乗せた。そして、膝頭に唇を寄せ、おもむろに太股や脹らはぎを手で撫で始める。優しくなだめられるようなその仕草に、文音は大人しく、そろそろと足を開いていった。
文音の足の間に入り込むと、京也は羽織っていたカーディガンを脱いだ。彼の逞しい二の腕が目に入る。その腕が自分の方へと伸びてきた。京也は、また片方だけ指を絡めて握ると、その手に口づけをし、それから、しっかりと目を合わせながら口を開いた。
「少しでも痛みを感じたら、絶対に我慢しないで言うんだぞ? いいな」
文音が小さな頷きを返した後、京也は蜜口にそっと指を当てた。そしてゆっくりと、少しずつ指を沈めていく。文音は無意識に、自由になっていた方の手で京也の肩を掴んだ。
「んっ……」
異物の侵入が痛みに対する恐怖を呼び起こす。文音は目を強くつぶり、指先に力を入れることで耐えようとした。
「文音。俺を見ながら、ゆっくり深呼吸しろ」
諭すような口調で、京也が声を掛けてくる。指示に従って、何とか気持ちを落ちつかせると、彼は額にキスをしてくれた。そのまま、京也は文音の頬や唇にキスをしながら、浅い抜き差しを繰り返し、指を奥へと進めていく。
「痛くないか?」
指が入りきったところで、京也がまた声を掛けてきた。文音が縦に頭を動かすと、彼は握っていた手にふたたび口づけをし、それから身体を起こして、足の間へと顔を寄せていった。
「……きょ、京也さん!? ダメです! 汚いですっ」
「汚くない。それにさっきも言ったろ。文音の身体なら、俺には何だって良いんだよ」
そう言われながらも、文音は繋がれていない方の手で、京也を引き離そうとした。けれど、彼はまったくビクともしなかった。それならと、文音は身をよじらせて逃げようとする。しかし、繋いでいた手を強く引かれ、それも阻止されてしまうのだった。
京也が花芯を舐めながら、指の抽送を再開する。その途端、下腹部に甘い痺れが広がっていった。
「っ……それ、だ……めぇ……」
京也が不規則に指を引き抜き始めた。彼の指が抜ける度に、蜜口に小さな快感が生まれ、とろりと蜜が零れるような感触を得る。自分の口から、次第に色めいた声が漏れていく。文音が素直に反応を返してくるようになると、京也は蜜口にもう一本指を添えた。一本目の時と同様に、彼は慎重に指を奥へと進めてくる。
「……っ」
チリっとした痛みを感じ、文音は反射的に両手をきゅっと握った。するとすぐに、京也が手を止めた。恐る恐る京也の顔を見てみると、彼はとても心配そうな顔をして、こっちを見ていた。
「痛いか?」
「ち、ちょっとだけ。でも、少しずつやれば、慣れてくると思うので、続けてください」
「……分かった」
心配の色を残しながらも京也は笑みを浮かべて見せてくれた。そして、文音の目尻に唇を寄せ、彼は涙を吸い取っていく。
(京也さんは、諦めるどころか、何度もわたしを励ましてくれる……)
なぜ彼は、こんなにも辛抱強く、丁寧にしてくれるのだろうか。告白してきた時の彼の様子を思い出すと、それが不思議で仕方なかった。彼の告白を軽いものとして受け止めていたが、京也はそれなりに自分のことを想ってくれていたのだろうか。
(わからないけど……でも――)
彼のことを信じて最後までしてみたい。その為に、彼がしてくれることは全部、素直に受け取っていこう。そう心に決めた途端、文音は苦痛を感じることなく二本の指を奥まで受け入れることが出来た。指の動きに合わせ、文音の口から甘さを帯びた声が漏れるようになると、京也は握っていた手をそっと放し、指を引き抜いていった。
「ちょっと、待ってろ」
京也はそう告げると、文音の額にキスをしてから服を脱ぎ始めた。彼の引き締まった身体があらわになっていく。文音は、ぼーっと京也の姿を眺めた。
すべての服を脱ぎ終え、用意してきた避妊具をつけると、京也はゆっくりと文音の身体に覆い被さった。そして、真剣な面持ちで彼は口を開く。
「文音、痛かったら言えよ。俺のことは一切気にするな。絶対に我慢だけはするなよ。いいな」
京也の言葉に文音はしっかりと頷いた。それを見て、京也は表情を緩めると、全身に温もりを伝えるようにして身体を重ねていった。文音は、京也の背中に手を回し、静かに目を閉じた。
少しずつ慣らしながら京也が自分の中に入ってくる。最後まで自分のことを気遣ってくれる彼の様子に、文音は胸が熱くなるのを感じた。
「……文音、全部入った。どうだ? 痛くないか?」
優しく頬を撫でながら、京也が反応を窺ってくる。文音は、そっと目を開け、下腹部に意識を向けてみた。
(すごくキツくて……、ちょっとだけピリピリしてるような……。まるで、濡れてないみたい……)
「……大丈夫です」
文音の言葉を聞いた瞬間、京也が表情を曇らせた。やはり、もう乾いてしまっているのだろうか。文音の中に不安が渦巻いていく。
(こんなに良くしてもらったこと、今までないのに……)
それを思うと、ここで止めることに文音は心苦しさを感じた。あと少しだけなら耐えられるかもしれない。文音は不安を払いのけ、口を開いた。
「大丈夫ですから。来てください」
「本当か? 嘘は駄目だからな」
京也が苦悶の表情を浮かべながら目を見てくる。文音は必死に京也の目を見つめ返した。
「ダメだったらダメって言うので、やってみてください。少しでも何かわかるなら……」
「分かった」
京也は、文音の額に少し長めのキスをすると、静かに身体を引き始めた。
(っぅ……)
身体がひりひりとした痛みを訴えてくる。頭の中が恐怖に染まっていった。
抜け落ちる寸前のところで京也が動きを止める。文音は大きく息を吸ってから、口をきつく閉じた。
「……もう充分、分かった。だから、チェックはここで終わりにする」
何かをぐっと堪えるような声音で京也はそう告げると、完全に身を引いていった。
今度は、胸のあたりがズキズキと痛み始める。今にも泣き出してしまいそうな気持ちを抑え、文音は目を開けた。すると、優しい微笑みを浮かべた京也の顔が目に映った。
「よく頑張ったな」
文音の頭を撫でながら、京也が言葉を掛けてくる。彼は、唇にキスをしてから後処理を済ませ、服を着始めた。
「ほら、文音も服着ろ」
服を着終えると、京也は文音を抱き起こし、ベッドに座った。一向に動こうとしない文音に代わって、京也が下から順にパジャマのボタンを閉めていく。文音は黙ったまま、その様子を目で追っていった。ボタンが閉まる度に胸の痛みが増す。ボタンが全て閉じられた後も、文音は俯いたままだった。
「文音?」
京也の優しげな声音が頭の中に流れ込んでくる。その途端、文音の胸は、あの苦しみによって圧し潰された。彼を不幸にしたくない。その想いに駆られて文音は口を開ける。
「やっぱり、付き合うのは、止めた方がいいです。京也さん……すごく良くしてくれたのに……わたしの身体、やっぱりダメみたいで……っ」
出来るだけ明るく振る舞おうと、文音は顔を伏せながらも必死に口角を上げてみた。それなのに声は震え、シーツには水がポタポタと落ちていく。
もう本当に、自分のこの身体が、嫌だ。
文音は目をつぶり、両手で顔を覆った。と、その直後、文音は違和感を覚えた。自分の頬と手の間に、何かが入り込んでいる。文音が目を開けるのとほぼ同時に、京也が掬い上げるようにして文音の顔を持ち上げた。
滲んだ視界の中に、怒ったような京也の顔が浮かび上がってくる。
「文音、いいか、よく聞けよ。今日のチェックで色々と分かったことがある。そして俺は、もう次のプランを立てた。あとはそれに、文音が協力するかどうか、それだけだ」
「……ぷらん」
文音が茫然とした顔で言葉を呟くと、京也は得意気な笑みを浮かべた。
「ああ、何とかしたいと思う気持ちがあるなら、四の五の言わず俺に付き合え」
どうやら彼は、本当に、身体のことは気にしていないようだ。それどころか、楽しそうに、自分の答えを待っている。
(京也さんとなら、乗り越えられるのかも――)
そう感じた瞬間、文音は京也の両手をぎゅっと握った。
「わかりました。わたし、京也さんにとことん付き合います!」
文音がそう宣言すると、京也は一瞬だけ虚を衝かれたような表情をした。そして突然、京也がくっと笑い出す。
「なんで笑うんですかっ」
「いや、表情がコロコロ変わって面白いな、と。さっきまで悲しみに打ちひしがれて泣いてたかと思えば、今度は意気揚々と笑ってる。本当、一緒にいて飽きないよな、文音は」
「……わたしも、京也さんといると楽しいです」
そう口にした途端、感謝の気持ちが胸いっぱいに溢れた。文音は微笑みを浮かべながら京也の手にキスをし、自分の頬を擦りつける。
「あー、じゃあ、俺はこれから準備するから帰るわ」
そう言うなり、京也はベッドからすっと立ち上がって、文音の手をそっと引き抜いた。文音は、下から見上げるようにして京也の顔を見る。すると、なぜか彼は、明後日の方向に顔を向けていたのだった。
「あ、はい。じゃあ、玄関まで……」
首を傾げながらベッドから降りる。と、京也が顎を掬い上げ、唇にちゅっと音を立てるようにしてキスをしてきた。
「今日はいい。文音はそのまま風呂に行け。穿いてないんだしな」
「え? あ……」
文音は顔を真っ赤にして固まった。
「じゃあ、また明日な。楽しみにしておけよ」
文音の頭をくしゃくしゃに撫で回した後、京也は嬉々とした様子で部屋を出て行く。
(とことん付き合うっていうのは、言い過ぎだったかな……)
文音は、ぐしゃぐしゃにされた頭を手で押さえながら、京也の姿を見送った。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる