15 / 16
番外編「もふもふと畑と休日と」
しおりを挟む
ヴェルディア連邦が誕生してから、1年。
国は、驚くほどの速さで、安定と繁栄の道を歩んでいた。
アロンが最高農業顧問として立案した食料政策は、見事に機能し、連邦のどこを探しても、飢えている者は一人もいなくなった。
もはや、アロンの名を知らない者はいなかったが、彼自身は、相変わらず、首都の喧騒を離れ、始まりの地であるカペル村の畑にいることが多かった。
今日は、久しぶりの、完全な休日。
アロンは、お気に入りの丘の上で、大きな布を広げ、ピクニックの準備をしていた。
「アロン、まだー?」
丘の下から、二人の少女の声が聞こえる。
一人は、太陽のように明るい、幼馴染のセナ。
もう一人は、月のように儚げな美しさを持つ、元姫君のセレスだ。
すっかり健康を取り戻したセレスは、今ではすっかりアウトドア派になり、よくこうしてアロンたちと村で過ごすようになっていた。二人は、いつの間にか、姉妹のように仲良くなっていた。
「今、準備できたぞー!」
アロンが声を張り上げると、二人は楽しそうに笑いながら、丘を駆け上がってきた。
彼女たちの後を、ぽてぽてと、白い毛玉のような生き物が、十数匹ついてくる。
「も、モフールたち! 待って、そんなに急いだら転ぶわ!」
セレスが、慌てて振り返る。
モフール。
それは、アロンが、羊とアンゴラウサギ(のような生き物)を掛け合わせて生み出した、ヴェルディア連邦の新しい家畜だ。
その名の通り、全身が、信じられないほど、もふもふの毛で覆われている。
性格は温厚で人懐っこく、その愛くるしい姿は、今や連邦のアイドル的存在となっていた。
「もう、この子たち、アロンのことが大好きなんですもの」
セナが、モフールの一匹を抱き上げると、そのもふもふの毛に、うっとりと顔をうずめた。
「ああ、癒される……。この毛で編んだセーター、王都じゃ金貨100枚でも買えないって、バルトさんが言ってたわよ」
「はは、まあ、俺にとっては、ただの可愛い食いしん坊だけどな」
アロンが笑いながらバスケットを開けると、モフールたちが、一斉にくんくんと鼻を鳴らして集まってくる。
「はいはい、お前たちの分は、こっちな」
アロンは、モフール用に用意した、栄養満点の牧草クッキーをばら撒いた。
モフールたちが、夢中でそれに食いついている間に、人間たちのランチタイムの始まりだ。
バスケットの中には、アロンお手製の、豪華なピクニックランチがぎっしりと詰まっていた。
採れたて野菜をたっぷり挟んだサンドイッチ。
揚げたてのフライドチキン。
色とりどりの野菜スティックと、特製のディップソース。
そして、デザートには、イチゴ(これもアロンが品種改良した)をふんだんに使ったタルト。
「わあ……! おいしそう!」
セレスが、目をきらきらと輝かせる。
「アロンの作るサンドイッチ、世界で一番美味しいわ!」
「チキンは、私が一番乗りなんだから!」
セナは、早速、一番大きなフライドチキンにかぶりついている。
三人は、他愛もない話をしながら、笑い、食べた。
国の未来とか、政治とか、そんな難しい話は、今日だけは忘れる。
食事が一段落すると、セナは、草の上に大の字になって寝転がった。
「ああ、お腹いっぱい。幸せ……」
セレスは、そばに寄ってきたモフールを優しく撫でながら、アロンに尋ねた。
「アロンは、これから、この国をどうしていきたいの?」
「んー、そうだなあ」
アロンは、空に浮かぶ雲を眺めながら、答えた。
「もっと、美味いもの、作りたいな」
「え?」
「米、とかさ。パンもいいけど、やっぱり日本人としては、炊き立ての白米が食いたい。それに合う、醤油とか、味噌とかも作りたい。あと、海が近い領地では、魚介類の養殖も本格化させたいし、南の暖かい土地では、バナナとか、マンゴーとか、そういう果物も育ててみたい」
次から次へと、溢れ出す、食に関する夢。
それは、国の指導者としての野望ではなく、一人の農家、一人の料理人としての、純粋な探求心だった。
その、あまりに個人的で、壮大な夢に、セナとセレスは、顔を見合わせて、くすくすと笑った。
「もう、アロンは、本当に、食べることと作ることしか頭にないのね」
「でも、それが、アロンですものね」
二人の優しい眼差しに、アロンは、少し照れくさそうに笑った。
穏やかな風が、丘を吹き抜けていく。
草の匂いと、太陽の光。
可愛い動物たちと、大切な友人たちとの、美味しい食事。
これ以上の幸せが、どこにあるだろう。
『ああ、神様。もし、俺をこの世界に転生させたのが、あなたなら』
アロンは、心の中で、そっと感謝した。
『……最高の職場を、ありがとうございます』
もふもふの毛玉と、二人の少女の笑い声に包まれた、平和な休日は、ゆっくりと、優しく、過ぎていった。
国は、驚くほどの速さで、安定と繁栄の道を歩んでいた。
アロンが最高農業顧問として立案した食料政策は、見事に機能し、連邦のどこを探しても、飢えている者は一人もいなくなった。
もはや、アロンの名を知らない者はいなかったが、彼自身は、相変わらず、首都の喧騒を離れ、始まりの地であるカペル村の畑にいることが多かった。
今日は、久しぶりの、完全な休日。
アロンは、お気に入りの丘の上で、大きな布を広げ、ピクニックの準備をしていた。
「アロン、まだー?」
丘の下から、二人の少女の声が聞こえる。
一人は、太陽のように明るい、幼馴染のセナ。
もう一人は、月のように儚げな美しさを持つ、元姫君のセレスだ。
すっかり健康を取り戻したセレスは、今ではすっかりアウトドア派になり、よくこうしてアロンたちと村で過ごすようになっていた。二人は、いつの間にか、姉妹のように仲良くなっていた。
「今、準備できたぞー!」
アロンが声を張り上げると、二人は楽しそうに笑いながら、丘を駆け上がってきた。
彼女たちの後を、ぽてぽてと、白い毛玉のような生き物が、十数匹ついてくる。
「も、モフールたち! 待って、そんなに急いだら転ぶわ!」
セレスが、慌てて振り返る。
モフール。
それは、アロンが、羊とアンゴラウサギ(のような生き物)を掛け合わせて生み出した、ヴェルディア連邦の新しい家畜だ。
その名の通り、全身が、信じられないほど、もふもふの毛で覆われている。
性格は温厚で人懐っこく、その愛くるしい姿は、今や連邦のアイドル的存在となっていた。
「もう、この子たち、アロンのことが大好きなんですもの」
セナが、モフールの一匹を抱き上げると、そのもふもふの毛に、うっとりと顔をうずめた。
「ああ、癒される……。この毛で編んだセーター、王都じゃ金貨100枚でも買えないって、バルトさんが言ってたわよ」
「はは、まあ、俺にとっては、ただの可愛い食いしん坊だけどな」
アロンが笑いながらバスケットを開けると、モフールたちが、一斉にくんくんと鼻を鳴らして集まってくる。
「はいはい、お前たちの分は、こっちな」
アロンは、モフール用に用意した、栄養満点の牧草クッキーをばら撒いた。
モフールたちが、夢中でそれに食いついている間に、人間たちのランチタイムの始まりだ。
バスケットの中には、アロンお手製の、豪華なピクニックランチがぎっしりと詰まっていた。
採れたて野菜をたっぷり挟んだサンドイッチ。
揚げたてのフライドチキン。
色とりどりの野菜スティックと、特製のディップソース。
そして、デザートには、イチゴ(これもアロンが品種改良した)をふんだんに使ったタルト。
「わあ……! おいしそう!」
セレスが、目をきらきらと輝かせる。
「アロンの作るサンドイッチ、世界で一番美味しいわ!」
「チキンは、私が一番乗りなんだから!」
セナは、早速、一番大きなフライドチキンにかぶりついている。
三人は、他愛もない話をしながら、笑い、食べた。
国の未来とか、政治とか、そんな難しい話は、今日だけは忘れる。
食事が一段落すると、セナは、草の上に大の字になって寝転がった。
「ああ、お腹いっぱい。幸せ……」
セレスは、そばに寄ってきたモフールを優しく撫でながら、アロンに尋ねた。
「アロンは、これから、この国をどうしていきたいの?」
「んー、そうだなあ」
アロンは、空に浮かぶ雲を眺めながら、答えた。
「もっと、美味いもの、作りたいな」
「え?」
「米、とかさ。パンもいいけど、やっぱり日本人としては、炊き立ての白米が食いたい。それに合う、醤油とか、味噌とかも作りたい。あと、海が近い領地では、魚介類の養殖も本格化させたいし、南の暖かい土地では、バナナとか、マンゴーとか、そういう果物も育ててみたい」
次から次へと、溢れ出す、食に関する夢。
それは、国の指導者としての野望ではなく、一人の農家、一人の料理人としての、純粋な探求心だった。
その、あまりに個人的で、壮大な夢に、セナとセレスは、顔を見合わせて、くすくすと笑った。
「もう、アロンは、本当に、食べることと作ることしか頭にないのね」
「でも、それが、アロンですものね」
二人の優しい眼差しに、アロンは、少し照れくさそうに笑った。
穏やかな風が、丘を吹き抜けていく。
草の匂いと、太陽の光。
可愛い動物たちと、大切な友人たちとの、美味しい食事。
これ以上の幸せが、どこにあるだろう。
『ああ、神様。もし、俺をこの世界に転生させたのが、あなたなら』
アロンは、心の中で、そっと感謝した。
『……最高の職場を、ありがとうございます』
もふもふの毛玉と、二人の少女の笑い声に包まれた、平和な休日は、ゆっくりと、優しく、過ぎていった。
62
あなたにおすすめの小説
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません
夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される!
前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。
土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。
当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。
一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。
これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる