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第4話『身体測定という名の処刑台』
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新入生歓迎舞踏会の熱狂も冷めやらぬある日、学園の掲示板に一枚の張り紙が出された。その瞬間、俺、カイトの背筋を氷のように冷たい汗が伝った。
『全学年対象・定期身体測定のお知らせ』
来た。来てしまった。
この日が来ることを、心のどこかで恐れていた。身体測定。それは、俺の秘密が白日の下に晒されかねない、まさに処刑宣告に等しいイベントだ。
(どうする……どうすれば乗り切れる?)
授業も上の空で、俺は必死にシミュレーションを繰り返す。
身長、体重、視力、聴力……ここまではいい。問題は、最後の項目だ。
『メディカルチェック(医師による触診。上半身は脱衣のこと)』
終わった。完全に終わった。俺の人生、ここでジ・エンドだ。
さらしで隠し通せるレベルを遥かに超えている。一瞬で、俺が女だとバレてしまう。
「おいカイト、どうした?顔色が悪いぞ」
ルームメイトが心配そうに声をかけてくるが、「なんでもない」と答えるのが精一杯だった。
測定日当日。俺は最後の抵抗を試みた。仮病だ。
「先生、なんだか頭がくらくらして……熱っぽいみたいです……」
渾身の演技。しかし、保健担当の教師は俺の額に手を当てると、にっこりと微笑んだ。
「平熱ですね。大丈夫、測定が終わったら休ませてあげますから、頑張りましょう」
ああ、無情。鬼か、この教師は。
俺は諦めの境地で、他の男子生徒たちの列に並んだ。次々と進んでいく測定。そして、ついに俺の番が回ってきた。
身長172センチ。女としては高身長だが、男としてはまあ、普通か。
体重……は、言いたくない。見た目よりずっと軽い。筋肉がないからだ。測定員の「細いなあ」という呟きが胸に刺さる。
魔力量測定。これは問題ない。測定器が振り切れんばかりの数値を叩き出し、周囲がどよめいた。だが、そんな賞賛はどうでもいい。
そして、ついに最後の関門、メディカルチェックのブースが目の前に迫る。
カーテンの向こうから、医師の淡々とした声と生徒たちの話し声が聞こえてくる。
(もうダメだ……万事休すか……)
そう思った瞬間、俺は最後の、そして最も古典的な手段に打って出ることを決意した。
カーテンが開けられ、俺の名前が呼ばれる。
俺は一歩前に出ると、腹を押さえてその場にうずくまった。
「ぐっ……!せ、先生……!急に、腹が……!」
迫真の演技。アカデミー賞ものの名演技だったと自負している。
「どうした、カイト君!しっかりしろ!」
周囲が騒然となる中、俺は担架で保健室へと運ばれた。作戦はとりあえず成功だ。医師の診察はもちろん断固拒否。「少し休めば治りますので!」の一点張りで、ベッドに潜り込むことに成功した。
しばらくして、保健室のドアが静かに開いた。入ってきたのは、意外な人物だった。
「カイト、大丈夫か?身体測定の途中で倒れたと聞いて」
ガイアスだった。その手には、見舞いの品らしい果物の入ったカゴがある。
「なんだ、お前か……。大したことない、ただの腹痛だ」
「そうか?だが、顔色がひどいぞ。最近、あまり眠れていないんじゃないか?目の下にクマができている」
鋭い指摘に、俺はドキリとした。確かに、性別がバレる恐怖でここ最近はまともに眠れていなかった。
「……君は、いつも一人で何かを背負いすぎだ。私では、頼りにならないか?」
ガイアスは、心から心配そうな目で俺を見つめていた。その優しい眼差しに、俺の胸は罪悪感でいっぱいになる。こいつは、俺を対等な友として、ライバルとして見てくれている。なのに、俺はこいつに大きな嘘をついている。
(……いつかは、話さなきゃいけないのかもしれないな)
そんな考えが、初めて頭をよぎった。もちろん、今すぐではない。だが、彼らの信頼を裏切り続けるのは、あまりにもつらい。
「……ありがとう、ガイアス。その気持ちだけで十分だ」
俺がそう言うと、彼は少しだけ寂しそうに笑って、「そうか」とつぶやいた。
なんとか最大の危機は乗り切ったものの、俺の心には大きなしこりが残った。性別を偽り、友を欺く。その重圧が、じわじわと俺の精神を蝕み始めているのを、感じずにはいられなかった。
(早く、男に戻る方法を見つけないと……)
保健室の白い天井を見上げながら、俺は改めて強く、強く誓うのだった。
『全学年対象・定期身体測定のお知らせ』
来た。来てしまった。
この日が来ることを、心のどこかで恐れていた。身体測定。それは、俺の秘密が白日の下に晒されかねない、まさに処刑宣告に等しいイベントだ。
(どうする……どうすれば乗り切れる?)
授業も上の空で、俺は必死にシミュレーションを繰り返す。
身長、体重、視力、聴力……ここまではいい。問題は、最後の項目だ。
『メディカルチェック(医師による触診。上半身は脱衣のこと)』
終わった。完全に終わった。俺の人生、ここでジ・エンドだ。
さらしで隠し通せるレベルを遥かに超えている。一瞬で、俺が女だとバレてしまう。
「おいカイト、どうした?顔色が悪いぞ」
ルームメイトが心配そうに声をかけてくるが、「なんでもない」と答えるのが精一杯だった。
測定日当日。俺は最後の抵抗を試みた。仮病だ。
「先生、なんだか頭がくらくらして……熱っぽいみたいです……」
渾身の演技。しかし、保健担当の教師は俺の額に手を当てると、にっこりと微笑んだ。
「平熱ですね。大丈夫、測定が終わったら休ませてあげますから、頑張りましょう」
ああ、無情。鬼か、この教師は。
俺は諦めの境地で、他の男子生徒たちの列に並んだ。次々と進んでいく測定。そして、ついに俺の番が回ってきた。
身長172センチ。女としては高身長だが、男としてはまあ、普通か。
体重……は、言いたくない。見た目よりずっと軽い。筋肉がないからだ。測定員の「細いなあ」という呟きが胸に刺さる。
魔力量測定。これは問題ない。測定器が振り切れんばかりの数値を叩き出し、周囲がどよめいた。だが、そんな賞賛はどうでもいい。
そして、ついに最後の関門、メディカルチェックのブースが目の前に迫る。
カーテンの向こうから、医師の淡々とした声と生徒たちの話し声が聞こえてくる。
(もうダメだ……万事休すか……)
そう思った瞬間、俺は最後の、そして最も古典的な手段に打って出ることを決意した。
カーテンが開けられ、俺の名前が呼ばれる。
俺は一歩前に出ると、腹を押さえてその場にうずくまった。
「ぐっ……!せ、先生……!急に、腹が……!」
迫真の演技。アカデミー賞ものの名演技だったと自負している。
「どうした、カイト君!しっかりしろ!」
周囲が騒然となる中、俺は担架で保健室へと運ばれた。作戦はとりあえず成功だ。医師の診察はもちろん断固拒否。「少し休めば治りますので!」の一点張りで、ベッドに潜り込むことに成功した。
しばらくして、保健室のドアが静かに開いた。入ってきたのは、意外な人物だった。
「カイト、大丈夫か?身体測定の途中で倒れたと聞いて」
ガイアスだった。その手には、見舞いの品らしい果物の入ったカゴがある。
「なんだ、お前か……。大したことない、ただの腹痛だ」
「そうか?だが、顔色がひどいぞ。最近、あまり眠れていないんじゃないか?目の下にクマができている」
鋭い指摘に、俺はドキリとした。確かに、性別がバレる恐怖でここ最近はまともに眠れていなかった。
「……君は、いつも一人で何かを背負いすぎだ。私では、頼りにならないか?」
ガイアスは、心から心配そうな目で俺を見つめていた。その優しい眼差しに、俺の胸は罪悪感でいっぱいになる。こいつは、俺を対等な友として、ライバルとして見てくれている。なのに、俺はこいつに大きな嘘をついている。
(……いつかは、話さなきゃいけないのかもしれないな)
そんな考えが、初めて頭をよぎった。もちろん、今すぐではない。だが、彼らの信頼を裏切り続けるのは、あまりにもつらい。
「……ありがとう、ガイアス。その気持ちだけで十分だ」
俺がそう言うと、彼は少しだけ寂しそうに笑って、「そうか」とつぶやいた。
なんとか最大の危機は乗り切ったものの、俺の心には大きなしこりが残った。性別を偽り、友を欺く。その重圧が、じわじわと俺の精神を蝕み始めているのを、感じずにはいられなかった。
(早く、男に戻る方法を見つけないと……)
保健室の白い天井を見上げながら、俺は改めて強く、強く誓うのだった。
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