TS異世界転移した最強剣士、男に戻るため魔法学園へ。正体を隠して無双していたら求愛が止まらない。

黒崎隼人

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第3話『舞踏会は危険がいっぱい』

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 ルミナス魔法学園には、季節ごとにいくつかの大きな行事がある。その中でも、新入生にとって最初の関門であり、生徒たちの交流を主な目的とした一大イベントが、この『新入生歓迎舞踏会』だった。

(……なんで俺がこんな場所に)

 俺は会場の隅で、シャンパングラス(中身はただの炭酸水だ)を片手に深いため息をついた。
 きらびやかなシャンデリア、優雅に流れるワルツ、そして着飾った貴族の子息令嬢たち。剣道一筋、色恋沙汰とは無縁だった俺にとって、あまりにも縁のない世界だ。

 しかも、今の俺は「カイト」。クールでミステリアスな「氷の貴公子」。当然、男子用のカッチリとした礼服に身を包んでいる。さらしで胸を潰しているせいで、ただでさえ窮屈な礼服がさらに呼吸を浅くしていた。

「きゃあ、カイト様よ」「素敵……!誰かダンスに誘う勇気のある人はいないのかしら」

 周囲の女子生徒から、そんなひそひそ声が聞こえてくる。
 やめてくれ。頼むから、俺をそっとしておいてくれ。俺はダンスなんて踊ったことがない。剣道のすり足なら得意なんだが。

 しかし、俺の願いは無情にも打ち砕かれる。一人の女子生徒が意を決したように、俺の前に進み出てきた。

「あ、あの!カイト様!わ、私と一曲、踊っていただけませんか?」

 来た。来てしまった。どうする、俺。
 ここで無下に断れば、氷の貴公子どころか、ただの感じ悪いやつだ。かといって、リードの仕方など分かるわけがない。相手の足を踏んでしまうのがオチだ。

「すまない、俺は……」

 断りの言葉を口にしようとした、その時だった。

「悪いが、彼は私が予約済みだ」

 凛とした声と共に、俺の肩に手が置かれた。
 振り返ると、そこには完璧なエスコート姿のガイアスが、王子様スマイルを浮かべて立っている。女子生徒は「あ、ガイアス様!?」と顔を真っ赤にして、慌ててその場を走り去っていった。
 ナイスだ、王子!

「助かった、ガイアス。恩に着る」

「気にするな。君がこういう場を苦手としているのは、見ていれば分かる」

 そう言って笑う彼に、俺は少しだけ感謝した。だが、その感謝はすぐに別の感情へと変わった。
 ガイアスは俺の手を取ると、有無を言わさぬ力強さでダンスフロアの中央へと導いた。

「ちょ、おい、ガイアス!?」

「君を助けた礼だ。一曲、付き合ってもらう」

「いや、無理だって!俺は踊れない!」

「私がリードする。君は身を任せていればいい」

 有無を言わさぬまま、ワルツの調べに合わせてステップが始まった。
 周囲が「え?」「男同士……?」とざわめいているのが分かる。だが、そんな喧騒も聞こえなくなるほど、ガイアスの瞳は真剣だった。

「君はいつも、どこか遠くを見ている。まるで、ここにいるべき人間ではないとでも言うように。……何か、抱えているのか?」

 近い。顔が近い。俺の腰に回された彼の手がやけに熱い。
 女の体だからか?いや、違う。俺は、ガイアスの真っ直ぐな視線から目が離せなくなっていた。こいつは、俺をただのライバルとしてだけでなく、一人の人間として深く知ろうとしてくれている。それが分かってしまい、胸が変に高鳴った。

(まずい、このままじゃ……)

 俺が動揺していると、曲の終わりと共に新たな人物が俺たちの間に割って入ってきた。

「ガイアス様、独り占めはずるいわ。その方、次は私が借りるわよ」

 燃えるような赤いドレスをまとったマリアだった。
 彼女は俺の手を掴むと、ガイアスから半ば奪い取るようにして、次の曲のパートナーになった。

「あなた、王子様にリードされて、随分と情けない顔をしていたわね」

「……ほっとけ」

「いい?男なら、女をリードするものよ。私が手本を見せてあげるわ」

 そう言うと、マリアは驚くほど巧みに俺をリードし始めた。そのステップは力強く、それでいて優雅。俺は彼女の動きに翻弄されながら、なんとかついていくのがやっとだった。剣道の体さばきを応用してどうにか格好をつけているが、内心は冷や汗だらだらだ。

「あなた、本当に不思議な人ね。強いのか弱いのか、分からない」

 間近で見るマリアの顔は、普段のきつい印象とは違って、どこか儚げに見えた。彼女もまた、何かと戦っているのかもしれない。
 そんなことを考えていると、ふいに足がもつれてバランスを崩した。

「わっ!」

 倒れる、と思った瞬間、マリアの細い腕が力強く俺の体を支えた。

「……しっかりなさい」

 耳元でささやかれた声に、俺は顔が熱くなるのを感じた。王子にリードされ、令嬢にリードされ、俺は一体何をやっているんだ。

 この夜の舞踏会の一件で、「氷の貴公子カイトを巡る、王子と公爵令嬢の三角関係」というとんでもない噂が、学園中に広まってしまった。

 俺はただ、男に戻りたいだけなのに。
 どうしてこうなるんだ。俺の明日はどっちだ。
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