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第10話『学園、崩壊の序曲』
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二つの告白を受けた日から、俺とガイアス、そしてマリアの関係はぎこちないものになってしまった。俺が明確な答えを出せないでいるため、どう接すればいいのか、お互いに分からなくなってしまったのだ。
創立祭は、もう目前に迫っている。学園全体が浮かれた空気に包まれているが、俺の心は鉛のように重かった。
そんな中、学園に明らかな異変が起き始めていた。
些細なことだ。魔法の授業で呪文が暴発する生徒が続出する。夜な夜な、誰もいない廊下から不気味な声が聞こえるという噂が流れる。生徒たちの間で、原因不明の体調不良を訴える者が増え始めた。
それは、まるで地下の封印から漏れ出す瘴気が、学園全体をゆっくりと蝕んでいるかのようだった。
「……カイト様、緊急の要件です」
創立祭の前日。俺がクラスの準備から逃げ出し、一人で物思いにふけっていると、目の前にローブを目深にかぶった人物が現れた。王家の紋章。ギルフォードの使いだ。
俺は使いの者に連れられ、厳重な警戒網を抜けて学園長室へと向かった。そこには、険しい表情のギルフォードとこの学園の学園長が待っていた。
「……来てくれたか、カイトよ」
ギルフォードは俺の顔を見るなり、重々しく口を開いた。
「単刀直入に言う。学園の地下に封印されしは、『混沌の魔物』。この世界の魔力バランスそのものを司る、古代の存在じゃ」
混沌の魔物。あの声の主の正体か。
「本来、安定しているはずのその存在が、なぜか数十年ほど前から徐々に力を増し、バランスが崩れ始めた。その結果、世界の理に歪みが生じた。……おぬしがこの世界へ召喚され、姿を変えられたのも、その歪みが引き起こした、いわば事故なのじゃ」
俺が女になった理由。それは、世界の危機の前触れだったというのか。
「そして今、混沌の魔物は完全に覚醒しようとしておる。封印はもはや、時間の問題じゃ。もしあれが完全に復活すれば、暴走した魔力が世界を飲み込み、全ては無に帰すじゃろう」
話のスケールが大きすぎる。俺はただ男に戻りたかっただけなのに、いつの間にか世界の命運を左右する話になっていた。
「どうすれば、そいつを止められるんだ」
俺の問いに、ギルフォードは苦渋の表情で答えた。
「……魔物を『再封印』するしかない。そして、それができるのは、世界の魔力バランスの歪みそのものが生み出した、イレギュラーな存在……。すなわち、男性の魂と女性の肉体を併せ持つ、お主だけなのじゃ」
「俺、だけ……」
「うむ。しかし、それには条件がある。再封印の儀式には、膨大かつ完全に調和した魔力が必要となる。今のようにお主の魂と肉体が反発し合っている状態では魔力が安定せず、儀式は失敗する」
ギルフォードは、俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「儀式を成功させるには、お主が、その女性の肉体を完全に受け入れるしかない。男性の魂と女性の肉体。その二つが持つ魔力を、完全に同調させるのじゃ」
――女であることを、受け入れる。
その言葉は、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を俺に与えた。
それは、俺が男としての自分を捨てることと同じ意味だった。元の体に戻るという、俺がこの世界に来てからの唯一の目的を、諦めろということだ。
「そんな……できるわけないだろ……!」
俺は叫んだ。
俺は男だ。相川海人だ。剣の道を歩んできた、男なんだ。それが俺のアイデンティティそのものだった。それを、捨てろと言うのか。
「……選択の時は、近い。決めるのは、お主自身じゃ」
ギルフォードの言葉が、重く、重く俺にのしかかる。
その夜、創立祭の前夜祭で盛り上がる学園を、大規模な地震が襲った。
悲鳴と、何かが崩壊する轟音。俺が駆けつけると、学園のシンボルである時計塔が根元からへし折れて崩れ落ちていた。
そして、その瓦礫の中心、かつて地下遺跡への入り口があった場所から、天を衝くほどの巨大な紫色の魔力の柱が立ち上っていた。
封印は、破られたのだ。
学園の、そして世界の終わりを告げる崩壊の序曲が、今、始まってしまった。
創立祭は、もう目前に迫っている。学園全体が浮かれた空気に包まれているが、俺の心は鉛のように重かった。
そんな中、学園に明らかな異変が起き始めていた。
些細なことだ。魔法の授業で呪文が暴発する生徒が続出する。夜な夜な、誰もいない廊下から不気味な声が聞こえるという噂が流れる。生徒たちの間で、原因不明の体調不良を訴える者が増え始めた。
それは、まるで地下の封印から漏れ出す瘴気が、学園全体をゆっくりと蝕んでいるかのようだった。
「……カイト様、緊急の要件です」
創立祭の前日。俺がクラスの準備から逃げ出し、一人で物思いにふけっていると、目の前にローブを目深にかぶった人物が現れた。王家の紋章。ギルフォードの使いだ。
俺は使いの者に連れられ、厳重な警戒網を抜けて学園長室へと向かった。そこには、険しい表情のギルフォードとこの学園の学園長が待っていた。
「……来てくれたか、カイトよ」
ギルフォードは俺の顔を見るなり、重々しく口を開いた。
「単刀直入に言う。学園の地下に封印されしは、『混沌の魔物』。この世界の魔力バランスそのものを司る、古代の存在じゃ」
混沌の魔物。あの声の主の正体か。
「本来、安定しているはずのその存在が、なぜか数十年ほど前から徐々に力を増し、バランスが崩れ始めた。その結果、世界の理に歪みが生じた。……おぬしがこの世界へ召喚され、姿を変えられたのも、その歪みが引き起こした、いわば事故なのじゃ」
俺が女になった理由。それは、世界の危機の前触れだったというのか。
「そして今、混沌の魔物は完全に覚醒しようとしておる。封印はもはや、時間の問題じゃ。もしあれが完全に復活すれば、暴走した魔力が世界を飲み込み、全ては無に帰すじゃろう」
話のスケールが大きすぎる。俺はただ男に戻りたかっただけなのに、いつの間にか世界の命運を左右する話になっていた。
「どうすれば、そいつを止められるんだ」
俺の問いに、ギルフォードは苦渋の表情で答えた。
「……魔物を『再封印』するしかない。そして、それができるのは、世界の魔力バランスの歪みそのものが生み出した、イレギュラーな存在……。すなわち、男性の魂と女性の肉体を併せ持つ、お主だけなのじゃ」
「俺、だけ……」
「うむ。しかし、それには条件がある。再封印の儀式には、膨大かつ完全に調和した魔力が必要となる。今のようにお主の魂と肉体が反発し合っている状態では魔力が安定せず、儀式は失敗する」
ギルフォードは、俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「儀式を成功させるには、お主が、その女性の肉体を完全に受け入れるしかない。男性の魂と女性の肉体。その二つが持つ魔力を、完全に同調させるのじゃ」
――女であることを、受け入れる。
その言葉は、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を俺に与えた。
それは、俺が男としての自分を捨てることと同じ意味だった。元の体に戻るという、俺がこの世界に来てからの唯一の目的を、諦めろということだ。
「そんな……できるわけないだろ……!」
俺は叫んだ。
俺は男だ。相川海人だ。剣の道を歩んできた、男なんだ。それが俺のアイデンティティそのものだった。それを、捨てろと言うのか。
「……選択の時は、近い。決めるのは、お主自身じゃ」
ギルフォードの言葉が、重く、重く俺にのしかかる。
その夜、創立祭の前夜祭で盛り上がる学園を、大規模な地震が襲った。
悲鳴と、何かが崩壊する轟音。俺が駆けつけると、学園のシンボルである時計塔が根元からへし折れて崩れ落ちていた。
そして、その瓦礫の中心、かつて地下遺跡への入り口があった場所から、天を衝くほどの巨大な紫色の魔力の柱が立ち上っていた。
封印は、破られたのだ。
学園の、そして世界の終わりを告げる崩壊の序曲が、今、始まってしまった。
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