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エピローグ『私の、新しい物語』
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混沌の魔物との戦いが終わり、季節は巡った。
結局、俺が男の体に戻る方法は見つからなかった。ギルフォードの見立てでは、魔物を封印したあの時、俺の魂と女性の肉体は完全に融合し、それが新たな世界の理として固定されてしまったらしい。
でも、俺に後悔はなかった。
「カイトさーん!今日の放課後、魔法の訓練、付き合ってください!」
「ごめんな、今日は先約があるんだ」
廊下を歩いているだけで、後輩の男女から声をかけられる。銀髪の美少女の姿にも、もうすっかり慣れた。
むしろ、剣道で鍛えたせいか、ちょっとやそっとのことでは動じない精神が、この華奢な見た目とのギャップで「クールビューティー」だの「聖女様」だのと呼ばれ、なぜか前より人気が出ている始末だ。解せぬ。
俺は学園に残り、魔法の勉強を続けている。この世界で生きていくと決めたからには、自分の力を誰かを守るために使いたいと思ったからだ。
授業を終え、いつもの訓練場へ向かう。そこには、すでに見慣れた二人の姿があった。
「遅いぞ、カイト。今日の訓練は、私との模擬戦だったはずだ」
ガイアスが、木剣を片手に笑っている。
「何を言っているの、ガイアス様。今日は私と、新しい連携魔法の練習をする約束よ」
マリアが、腕を組んでむくれている。
「あー、はいはい、分かった分かった。二人まとめて、俺が、いや、私が稽古をつけてやるよ」
俺がそう言って光の剣を構えると、二人は待ってましたとばかりに目を輝かせてそれぞれの武器を構えた。
やれやれ、と俺は思う。相変わらず騒がしい毎日だ。
でも、悪くない。むしろ、こんな毎日が愛おしくてたまらない。
ガイアスもマリアも、いまだに俺へのアプローチを続けている。俺は、そのどちらにも答えを出していない。出す必要なんてないと思っているからだ。今の、この三人の関係が、俺にとっては一番心地いい。
訓練を終え、夕日に染まる空を見上げる。この空は、俺がいた世界の空と同じように青くて、広い。
(男とか、女とか、もうどうでもいいか)
俺は、相川海人という男だった。そして今は、カイトという女だ。
でも、どっちも本当の俺だ。
俺は、私。私は、ここにいる。
確かな居場所と、かけがえのない絆を手に入れた。私の新しい物語は、まだ始まったばかりだ。そしてその隣には、いつだって最高の笑顔を向けてくれる二人がいる。
それで、十分じゃないか。
私は夕日に向かって、今日一番の笑顔でそっと微笑んだ。
結局、俺が男の体に戻る方法は見つからなかった。ギルフォードの見立てでは、魔物を封印したあの時、俺の魂と女性の肉体は完全に融合し、それが新たな世界の理として固定されてしまったらしい。
でも、俺に後悔はなかった。
「カイトさーん!今日の放課後、魔法の訓練、付き合ってください!」
「ごめんな、今日は先約があるんだ」
廊下を歩いているだけで、後輩の男女から声をかけられる。銀髪の美少女の姿にも、もうすっかり慣れた。
むしろ、剣道で鍛えたせいか、ちょっとやそっとのことでは動じない精神が、この華奢な見た目とのギャップで「クールビューティー」だの「聖女様」だのと呼ばれ、なぜか前より人気が出ている始末だ。解せぬ。
俺は学園に残り、魔法の勉強を続けている。この世界で生きていくと決めたからには、自分の力を誰かを守るために使いたいと思ったからだ。
授業を終え、いつもの訓練場へ向かう。そこには、すでに見慣れた二人の姿があった。
「遅いぞ、カイト。今日の訓練は、私との模擬戦だったはずだ」
ガイアスが、木剣を片手に笑っている。
「何を言っているの、ガイアス様。今日は私と、新しい連携魔法の練習をする約束よ」
マリアが、腕を組んでむくれている。
「あー、はいはい、分かった分かった。二人まとめて、俺が、いや、私が稽古をつけてやるよ」
俺がそう言って光の剣を構えると、二人は待ってましたとばかりに目を輝かせてそれぞれの武器を構えた。
やれやれ、と俺は思う。相変わらず騒がしい毎日だ。
でも、悪くない。むしろ、こんな毎日が愛おしくてたまらない。
ガイアスもマリアも、いまだに俺へのアプローチを続けている。俺は、そのどちらにも答えを出していない。出す必要なんてないと思っているからだ。今の、この三人の関係が、俺にとっては一番心地いい。
訓練を終え、夕日に染まる空を見上げる。この空は、俺がいた世界の空と同じように青くて、広い。
(男とか、女とか、もうどうでもいいか)
俺は、相川海人という男だった。そして今は、カイトという女だ。
でも、どっちも本当の俺だ。
俺は、私。私は、ここにいる。
確かな居場所と、かけがえのない絆を手に入れた。私の新しい物語は、まだ始まったばかりだ。そしてその隣には、いつだって最高の笑顔を向けてくれる二人がいる。
それで、十分じゃないか。
私は夕日に向かって、今日一番の笑顔でそっと微笑んだ。
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