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番外編『初めてのドレスと、二つのエスコート』
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混沌の魔物との戦いから数週間後。王都では、学園を救った英雄たちを称えるため、王宮主催の盛大な祝賀舞踏会が開かれることになった。当然、俺、ガイアス、マリアは主賓として招待された。
……問題は、俺の服装だ。
「いいこと、カイト?あなたはもう男装する必要なんてないのよ。世界を救った英雄として、堂々と胸を張って、一番美しいドレスを着るの!」
マリアはそう言うと、俺を王都で一番と名高いドレスショップに引きずり込んだ。
ずらりと並んだ、色とりどりのドレス。フリル、レース、リボン。俺の人生に、これまで全く縁のなかったものたちだ。
「ちょ、待てマリア!こんなヒラヒラしたの、俺には似合わないって!」
「黙りなさい!素材は最高なのよ。あとは、どう調理するかだけ!」
俺は着せ替え人形のように、次から次へとドレスを試着させられた。淡いブルー、情熱的なレッド、気品のあるパープル。鏡に映る見慣れない自分の姿に、なんだかむず痒い気持ちになる。顔が熱い。
結局、マリアと店のデザイナーが満場一致で選んだのは、俺の銀髪と蒼い瞳が最も映えるという、月の光を思わせるシンプルなデザインの純白のドレスだった。
「……どう、だ?」
おずおずと感想を求めると、マリアはうっとりとした表情で大きくうなずいた。
「……完璧よ。ええ、完璧だわ。これなら、ガイアス様も、きっと……」
彼女は何かを言いかけたが、ふいっと顔をそむけてしまった。
そして、舞踏会当日。
俺が会場に姿を現した瞬間、それまでの喧騒が嘘のように静まり返った。
全ての視線が、俺一人に注がれているのが分かる。その中には、息をのむガイアスの姿もあった。
彼はゆっくりと俺の元へ歩み寄ると、騎士のように片膝をつき、俺の手にそっと口づけをした。
「……きれいだ、カイト。月の女神が舞い降りたのかと思った」
「や、やめろよ、がらにもない」
本気で照れてしまい、俺は思わず顔を伏せた。その時、もう一方の手をふわりと誰かに取られた。マリアだ。
「抜け駆けはずるいわよ、ガイアス様。カイトの最初のダンスの相手は、この私でしょう?」
「いや、私が先に声をかけたはずだ」
俺の手を挟んで、王子と公爵令嬢が火花を散らしている。
まったく、いつも通りの光景だ。以前なら、どうしていいか分からずオロオロしていただろう。
でも、今の俺は、もう迷わない。
俺は困ったように笑いながら、二つの手を取ったままこう言った。
「ありがとう、二人とも。それじゃあ、一曲ずつお願いできますか?」
俺の言葉に、ガイアスとマリアは一瞬きょとんとした後、顔を見合わせて楽しそうに笑った。
その夜、俺は生まれて初めて心からダンスを楽しんだ。一人は王子様のように優しく、もう一人は女王様のように情熱的に、俺をリードしてくれた。
少し変わった俺たちの関係は、まだ始まったばかり。この先どうなるかは分からないけれど、きっとこの二人となら、どんな未来も楽しいものになるだろう。そんな予感がしていた。
……問題は、俺の服装だ。
「いいこと、カイト?あなたはもう男装する必要なんてないのよ。世界を救った英雄として、堂々と胸を張って、一番美しいドレスを着るの!」
マリアはそう言うと、俺を王都で一番と名高いドレスショップに引きずり込んだ。
ずらりと並んだ、色とりどりのドレス。フリル、レース、リボン。俺の人生に、これまで全く縁のなかったものたちだ。
「ちょ、待てマリア!こんなヒラヒラしたの、俺には似合わないって!」
「黙りなさい!素材は最高なのよ。あとは、どう調理するかだけ!」
俺は着せ替え人形のように、次から次へとドレスを試着させられた。淡いブルー、情熱的なレッド、気品のあるパープル。鏡に映る見慣れない自分の姿に、なんだかむず痒い気持ちになる。顔が熱い。
結局、マリアと店のデザイナーが満場一致で選んだのは、俺の銀髪と蒼い瞳が最も映えるという、月の光を思わせるシンプルなデザインの純白のドレスだった。
「……どう、だ?」
おずおずと感想を求めると、マリアはうっとりとした表情で大きくうなずいた。
「……完璧よ。ええ、完璧だわ。これなら、ガイアス様も、きっと……」
彼女は何かを言いかけたが、ふいっと顔をそむけてしまった。
そして、舞踏会当日。
俺が会場に姿を現した瞬間、それまでの喧騒が嘘のように静まり返った。
全ての視線が、俺一人に注がれているのが分かる。その中には、息をのむガイアスの姿もあった。
彼はゆっくりと俺の元へ歩み寄ると、騎士のように片膝をつき、俺の手にそっと口づけをした。
「……きれいだ、カイト。月の女神が舞い降りたのかと思った」
「や、やめろよ、がらにもない」
本気で照れてしまい、俺は思わず顔を伏せた。その時、もう一方の手をふわりと誰かに取られた。マリアだ。
「抜け駆けはずるいわよ、ガイアス様。カイトの最初のダンスの相手は、この私でしょう?」
「いや、私が先に声をかけたはずだ」
俺の手を挟んで、王子と公爵令嬢が火花を散らしている。
まったく、いつも通りの光景だ。以前なら、どうしていいか分からずオロオロしていただろう。
でも、今の俺は、もう迷わない。
俺は困ったように笑いながら、二つの手を取ったままこう言った。
「ありがとう、二人とも。それじゃあ、一曲ずつお願いできますか?」
俺の言葉に、ガイアスとマリアは一瞬きょとんとした後、顔を見合わせて楽しそうに笑った。
その夜、俺は生まれて初めて心からダンスを楽しんだ。一人は王子様のように優しく、もう一人は女王様のように情熱的に、俺をリードしてくれた。
少し変わった俺たちの関係は、まだ始まったばかり。この先どうなるかは分からないけれど、きっとこの二人となら、どんな未来も楽しいものになるだろう。そんな予感がしていた。
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