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第6話「雪解けの兆しと温かな食卓」
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アイス・オーガの一件以来、アレクセイと私の距離は急速に縮まった。
というか、物理的な距離が近すぎる。
執務中も、食事中も、彼は私の姿が見えないと不機嫌になり、見つけると磁石のように引き寄せられてくる。
彼曰く「充電が必要だ」とのことだが、単に甘えているようにしか見えない。
もちろん、私はまんざらでもない。
今日の夕食は、市場で買った「火炎キノコ」と「アザラシ肉」を使った特製鍋だ。
アザラシ肉は臭みが強いと聞いていたが、酒と生姜、そして火炎キノコのピリッとした辛味で煮込むことで、驚くほど濃厚でコクのある味になった。
土鍋の蓋を開けると、赤いスープがグツグツと煮えたぎり、スパイシーな香りが食欲をそそる。
「……赤いが、大丈夫なのか?」
アレクセイが警戒したように鍋を覗き込む。
「大丈夫です。見た目ほど辛くありませんよ。さあ、食べてみてください」
彼が恐る恐る一口食べる。
瞬間、カッと目を見開き、額にうっすらと汗が滲んだ。
「……熱い。だが、美味い」
「でしょう? これは血流を良くして、冷え切った内臓を活性化させます」
「箸が止まらん。……お前の料理は、いつも俺の予想を超えてくる」
アレクセイは黙々と鍋を食べ進めた。
私も一緒に突く。
一つの鍋を二人で囲む。
それは、家族のような、恋人のような、温かな時間だった。
足元ではスノーが専用のボウルに盛られた肉を夢中で食べている。
「リリアナ」
食後のお茶を飲んでいる時、アレクセイが静かに口を開いた。
「俺は、お前が来るまで、この呪いに殺される運命だと思っていた。誰も信じず、誰にも頼らず、一人で死んでいくのだと」
彼はカップを見つめながら、自嘲気味に笑う。
「だが、お前がその運命を変えた。……俺は今、もっと生きたいと思っている。お前の作る料理を、明日も明後日も食べたいと」
それは、今までで一番素直な、彼の心からの言葉だった。
私は胸が熱くなり、涙がこぼれそうになった。
「私もです。アレクセイ様が美味しそうに食べてくれる姿を見るのが、私の一番の幸せです」
「……そうか」
彼は優しく微笑み、テーブル越しに私の手に自分の手を重ねた。
その手は温かかった。
もう、氷の公爵の手ではない。
ただの恋する男の手だ。
その夜、アレクセイは私を図書室へと案内してくれた。
そこは、膨大な魔導書と古文書が眠る、知識の宝庫だった。
「ここにある本は、全て好きに読んでいい。お前の知識なら、俺の呪いを解く手がかりを見つけられるかもしれん」
「ありがとうございます! 私、本が大好きなんです!」
私は目を輝かせて書架を巡った。
古の魔法、失われた薬草、伝説の聖獣……興味深い本ばかりだ。
その中に、一冊の古ぼけた本を見つけた。
『聖女と守護者の契約』というタイトルだ。
ページをめくると、そこには驚くべき記述があった。
『真の聖女は、愛する者との口づけにより、その魔力を最大化させ、あらゆる呪いを浄化する光となる』
口づけ……?
私は思わず顔を赤くして本を閉じた。
いやいや、まだそんな段階じゃ……でも、愛する者って……。
チラリとアレクセイを見ると、彼は難しそうな顔で別の本を読んでいた。
横顔が綺麗だ。
まつ毛が長い。
唇の形が良い。
『……だめだめ、何を考えているの私!』
私は首を振り、邪念を追い払った。
だが、心の奥底で、何かが芽生え始めているのを否定できなかった。
彼の呪いを完全に解く方法。
それは、料理だけでは足りないのかもしれない。
もっと深い、魂の繋がりが必要なのかもしれない。
図書室での穏やかな時間の最中、窓の外で吹雪が激しさを増していた。
北の空が、不気味に赤く染まっている。
スノーが不安そうに唸り声を上げた。
何かが、近づいている。
王都からの不穏な気配か、あるいはもっと悪いものか。
「……風が変わったな」
アレクセイが顔を上げ、鋭い眼差しで窓の外を見つめた。
その瞳には、守護者としての覚悟が宿っていた。
私は彼の隣に立ち、そっと寄り添った。
どんな嵐が来ようとも、私はこの人を守る。
美味しいご飯と、私の全てをかけて。
というか、物理的な距離が近すぎる。
執務中も、食事中も、彼は私の姿が見えないと不機嫌になり、見つけると磁石のように引き寄せられてくる。
彼曰く「充電が必要だ」とのことだが、単に甘えているようにしか見えない。
もちろん、私はまんざらでもない。
今日の夕食は、市場で買った「火炎キノコ」と「アザラシ肉」を使った特製鍋だ。
アザラシ肉は臭みが強いと聞いていたが、酒と生姜、そして火炎キノコのピリッとした辛味で煮込むことで、驚くほど濃厚でコクのある味になった。
土鍋の蓋を開けると、赤いスープがグツグツと煮えたぎり、スパイシーな香りが食欲をそそる。
「……赤いが、大丈夫なのか?」
アレクセイが警戒したように鍋を覗き込む。
「大丈夫です。見た目ほど辛くありませんよ。さあ、食べてみてください」
彼が恐る恐る一口食べる。
瞬間、カッと目を見開き、額にうっすらと汗が滲んだ。
「……熱い。だが、美味い」
「でしょう? これは血流を良くして、冷え切った内臓を活性化させます」
「箸が止まらん。……お前の料理は、いつも俺の予想を超えてくる」
アレクセイは黙々と鍋を食べ進めた。
私も一緒に突く。
一つの鍋を二人で囲む。
それは、家族のような、恋人のような、温かな時間だった。
足元ではスノーが専用のボウルに盛られた肉を夢中で食べている。
「リリアナ」
食後のお茶を飲んでいる時、アレクセイが静かに口を開いた。
「俺は、お前が来るまで、この呪いに殺される運命だと思っていた。誰も信じず、誰にも頼らず、一人で死んでいくのだと」
彼はカップを見つめながら、自嘲気味に笑う。
「だが、お前がその運命を変えた。……俺は今、もっと生きたいと思っている。お前の作る料理を、明日も明後日も食べたいと」
それは、今までで一番素直な、彼の心からの言葉だった。
私は胸が熱くなり、涙がこぼれそうになった。
「私もです。アレクセイ様が美味しそうに食べてくれる姿を見るのが、私の一番の幸せです」
「……そうか」
彼は優しく微笑み、テーブル越しに私の手に自分の手を重ねた。
その手は温かかった。
もう、氷の公爵の手ではない。
ただの恋する男の手だ。
その夜、アレクセイは私を図書室へと案内してくれた。
そこは、膨大な魔導書と古文書が眠る、知識の宝庫だった。
「ここにある本は、全て好きに読んでいい。お前の知識なら、俺の呪いを解く手がかりを見つけられるかもしれん」
「ありがとうございます! 私、本が大好きなんです!」
私は目を輝かせて書架を巡った。
古の魔法、失われた薬草、伝説の聖獣……興味深い本ばかりだ。
その中に、一冊の古ぼけた本を見つけた。
『聖女と守護者の契約』というタイトルだ。
ページをめくると、そこには驚くべき記述があった。
『真の聖女は、愛する者との口づけにより、その魔力を最大化させ、あらゆる呪いを浄化する光となる』
口づけ……?
私は思わず顔を赤くして本を閉じた。
いやいや、まだそんな段階じゃ……でも、愛する者って……。
チラリとアレクセイを見ると、彼は難しそうな顔で別の本を読んでいた。
横顔が綺麗だ。
まつ毛が長い。
唇の形が良い。
『……だめだめ、何を考えているの私!』
私は首を振り、邪念を追い払った。
だが、心の奥底で、何かが芽生え始めているのを否定できなかった。
彼の呪いを完全に解く方法。
それは、料理だけでは足りないのかもしれない。
もっと深い、魂の繋がりが必要なのかもしれない。
図書室での穏やかな時間の最中、窓の外で吹雪が激しさを増していた。
北の空が、不気味に赤く染まっている。
スノーが不安そうに唸り声を上げた。
何かが、近づいている。
王都からの不穏な気配か、あるいはもっと悪いものか。
「……風が変わったな」
アレクセイが顔を上げ、鋭い眼差しで窓の外を見つめた。
その瞳には、守護者としての覚悟が宿っていた。
私は彼の隣に立ち、そっと寄り添った。
どんな嵐が来ようとも、私はこの人を守る。
美味しいご飯と、私の全てをかけて。
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