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第12話「黄金の波と、未来への種」
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俺が農務大臣に就任してから、季節は一つ巡った。
リーフランド王国は、劇的な変化の時を迎えていた。
俺がモデル地区として指導した中央平原の畑は、やがて見事な黄金色の小麦で埋め尽くされた。
収穫の日、国王陛下も視察に訪れ、その奇跡的な光景を目の当たりにした。
乾ききった大地に広がる、黄金の波。
それは、王国の誰もが見たことのない、希望の光景だった。
「見事だ、アレン・クローバー。そなたは、まさにこの国の救世主だ」
国王は、心から俺の功績を称えてくれた。
この成功を皮切りに、『クローバー農法』は王国全土へと急速に普及していった。
俺は、指導者を育成するための農業学校を設立し、リリアナは、収穫された作物を公平に分配するための新しい流通システムを構築した。
ガルガンは、量産可能で高性能な新しい農具を開発し、シルフィは、自然環境を保護しながら収穫量を増やすための研究を進めた。
俺たちの改革は、食料問題の解決だけに留まらなかった。
農業が活性化したことで、村々は活気を取り戻し、経済は潤い、人々の顔には笑顔が戻った。
かつて俺を陥れようとしたバルカス侯爵は、その地位と財産をすべて没収され、辺境の地へと追放された。
旧態依然とした考えに固執していた貴族たちも、時代の変化を認めざるを得なくなり、俺たちのやり方に協力するようになっていった。
***
そして、王国が落ち着きを取り戻したある日。
俺は、国王陛下に一つの願い出をした。
「陛下。私は、農務大臣の職を、辞したいと存じます」
その言葉に、玉座の間は騒然となった。
「何を言うか、アレン!そなたがいなくては、この国の農業は……!」
慌てる国王に、俺は静かに首を振った。
「ご安心ください、陛下。後任は、すでに育ててあります。私が設立した農業学校には、私以上に情熱と知識を持った若者たちが、大勢育っています。彼らならば、きっと、この国の農業をさらに発展させてくれるでしょう」
俺の役割は、終わったのだ。
俺がやりたかったのは、国のてっぺんに立って、権力を振るうことじゃない。
土に触れ、植物の声を聞き、仲間たちと笑い合いながら、美味しい作物を作ること。
それこそが、俺が望んだスローライフなのだから。
「それに、私には、守るべき大切な『畑』がございますので」
俺はそう言って、悪戯っぽく笑った。
国王は、最初こそ反対したが、俺の固い決意を知ると、最後には寂しそうに、しかし、理解ある笑みを浮かべて、うなずいてくれた。
「……わかった。そなたの好きにするがよい。だが、忘れるな。このリーフランド王国は、永遠にそなたの味方だ。何かあれば、いつでも余を頼るがよい」
「はっ。ありがたき幸せにございます」
こうして、俺はわずか一年という短い期間で、農務大臣の座を降りた。
歴史上、最も早く引退した大臣として、後世に名を残すことになるのだが、それはまた別の話だ。
俺は、すべての荷物をまとめ、王都を後にした。
向かう先は、もちろん、俺の始まりの場所。
『恵みの谷』だ。
谷の入り口では、リリアナ、ガルガン、シルフィ、そして、村人たちが、満面の笑みで俺を迎えてくれた。
「おかえり、アレン!」
「おかえりなさいませ、アレン様!」
「……ああ、ただいま」
懐かしい顔ぶれに、俺の胸は熱くなった。
王都での生活は、刺激的で、やりがいもあった。
だが、やはり、俺の居場所はここだ。
俺のいない間も、谷はさらに発展していた。
畑は美しく整備され、新しい品種の野菜や果物が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
家畜の鳴き声、子供たちのはしゃぐ声、そして、風にそよぐ作物の葉の音。
そのすべてが、俺にとって、何よりの癒やしだった。
俺は、久しぶりに自分の畑に足を踏み入れた。
ふかふかの土の感触が、足の裏に心地いい。
俺は、そこに実っていた、真っ赤なトマトにそっと触れた。
『おかえり、アレン!待ってたよ!』
トマトくんが、嬉しそうな声で話しかけてくる。
『ああ、ただいま。俺がいない間、いい子にしてたか?』
『もちろん!みんなで、アレンが帰ってくるのを待ってたんだ!』
植物たちの温かい歓迎に、俺は思わず涙がこぼれそうになった。
***
その日の夜は、俺の帰還を祝う、盛大な宴会が開かれた。
食卓には、谷で採れた新鮮な食材を使った、豪華な料理が並ぶ。
俺たちは、夜が更けるのも忘れ、飲み、食べ、語り合った。
「それにしても、アレン。あっさり大臣の座を捨てちゃうなんて、あなたらしいわね」
リリアナが、呆れたように笑う。
「ワシとしては、王都の堅苦しい暮らしは、もうこりごりだ。ここの土の匂いが一番だな」
ガルガンが、豪快に酒を煽る。
「ええ。ここが、私たちの還る場所です」
シルフィが、穏やかに微笑む。
そうだ。ここが、俺たちの還る場所だ。
俺たちが、ゼロから作り上げた、理想郷。
俺は、満天の星空の下、仲間たちの笑顔に囲まれながら、幸せを噛み締めていた。
ブラック企業で過労死した、かつての俺には、想像もできなかった光景だ。
人生、何が起こるかわからない。
俺の戦いは、終わった。
これからは、愛する仲間たちと共に、この豊かで平和な領地で、理想のスローライフを送るんだ。
もちろん、農業の研究は、これからも続ける。
もっと美味しくて、もっと人々の役に立つ作物を、この谷から生み出していく。
未来への種は、今、まさに芽吹いたばかりなのだから。
俺は、グラスに注がれた葡萄酒を、高々と掲げた。
「俺たちの『恵みの谷』に、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
仲間たちの陽気な声が、星空の下に響き渡った。
こうして、俺の異世界農業成り上がりストーリーは、最高のハッピーエンドを迎えたのだった。
リーフランド王国は、劇的な変化の時を迎えていた。
俺がモデル地区として指導した中央平原の畑は、やがて見事な黄金色の小麦で埋め尽くされた。
収穫の日、国王陛下も視察に訪れ、その奇跡的な光景を目の当たりにした。
乾ききった大地に広がる、黄金の波。
それは、王国の誰もが見たことのない、希望の光景だった。
「見事だ、アレン・クローバー。そなたは、まさにこの国の救世主だ」
国王は、心から俺の功績を称えてくれた。
この成功を皮切りに、『クローバー農法』は王国全土へと急速に普及していった。
俺は、指導者を育成するための農業学校を設立し、リリアナは、収穫された作物を公平に分配するための新しい流通システムを構築した。
ガルガンは、量産可能で高性能な新しい農具を開発し、シルフィは、自然環境を保護しながら収穫量を増やすための研究を進めた。
俺たちの改革は、食料問題の解決だけに留まらなかった。
農業が活性化したことで、村々は活気を取り戻し、経済は潤い、人々の顔には笑顔が戻った。
かつて俺を陥れようとしたバルカス侯爵は、その地位と財産をすべて没収され、辺境の地へと追放された。
旧態依然とした考えに固執していた貴族たちも、時代の変化を認めざるを得なくなり、俺たちのやり方に協力するようになっていった。
***
そして、王国が落ち着きを取り戻したある日。
俺は、国王陛下に一つの願い出をした。
「陛下。私は、農務大臣の職を、辞したいと存じます」
その言葉に、玉座の間は騒然となった。
「何を言うか、アレン!そなたがいなくては、この国の農業は……!」
慌てる国王に、俺は静かに首を振った。
「ご安心ください、陛下。後任は、すでに育ててあります。私が設立した農業学校には、私以上に情熱と知識を持った若者たちが、大勢育っています。彼らならば、きっと、この国の農業をさらに発展させてくれるでしょう」
俺の役割は、終わったのだ。
俺がやりたかったのは、国のてっぺんに立って、権力を振るうことじゃない。
土に触れ、植物の声を聞き、仲間たちと笑い合いながら、美味しい作物を作ること。
それこそが、俺が望んだスローライフなのだから。
「それに、私には、守るべき大切な『畑』がございますので」
俺はそう言って、悪戯っぽく笑った。
国王は、最初こそ反対したが、俺の固い決意を知ると、最後には寂しそうに、しかし、理解ある笑みを浮かべて、うなずいてくれた。
「……わかった。そなたの好きにするがよい。だが、忘れるな。このリーフランド王国は、永遠にそなたの味方だ。何かあれば、いつでも余を頼るがよい」
「はっ。ありがたき幸せにございます」
こうして、俺はわずか一年という短い期間で、農務大臣の座を降りた。
歴史上、最も早く引退した大臣として、後世に名を残すことになるのだが、それはまた別の話だ。
俺は、すべての荷物をまとめ、王都を後にした。
向かう先は、もちろん、俺の始まりの場所。
『恵みの谷』だ。
谷の入り口では、リリアナ、ガルガン、シルフィ、そして、村人たちが、満面の笑みで俺を迎えてくれた。
「おかえり、アレン!」
「おかえりなさいませ、アレン様!」
「……ああ、ただいま」
懐かしい顔ぶれに、俺の胸は熱くなった。
王都での生活は、刺激的で、やりがいもあった。
だが、やはり、俺の居場所はここだ。
俺のいない間も、谷はさらに発展していた。
畑は美しく整備され、新しい品種の野菜や果物が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
家畜の鳴き声、子供たちのはしゃぐ声、そして、風にそよぐ作物の葉の音。
そのすべてが、俺にとって、何よりの癒やしだった。
俺は、久しぶりに自分の畑に足を踏み入れた。
ふかふかの土の感触が、足の裏に心地いい。
俺は、そこに実っていた、真っ赤なトマトにそっと触れた。
『おかえり、アレン!待ってたよ!』
トマトくんが、嬉しそうな声で話しかけてくる。
『ああ、ただいま。俺がいない間、いい子にしてたか?』
『もちろん!みんなで、アレンが帰ってくるのを待ってたんだ!』
植物たちの温かい歓迎に、俺は思わず涙がこぼれそうになった。
***
その日の夜は、俺の帰還を祝う、盛大な宴会が開かれた。
食卓には、谷で採れた新鮮な食材を使った、豪華な料理が並ぶ。
俺たちは、夜が更けるのも忘れ、飲み、食べ、語り合った。
「それにしても、アレン。あっさり大臣の座を捨てちゃうなんて、あなたらしいわね」
リリアナが、呆れたように笑う。
「ワシとしては、王都の堅苦しい暮らしは、もうこりごりだ。ここの土の匂いが一番だな」
ガルガンが、豪快に酒を煽る。
「ええ。ここが、私たちの還る場所です」
シルフィが、穏やかに微笑む。
そうだ。ここが、俺たちの還る場所だ。
俺たちが、ゼロから作り上げた、理想郷。
俺は、満天の星空の下、仲間たちの笑顔に囲まれながら、幸せを噛み締めていた。
ブラック企業で過労死した、かつての俺には、想像もできなかった光景だ。
人生、何が起こるかわからない。
俺の戦いは、終わった。
これからは、愛する仲間たちと共に、この豊かで平和な領地で、理想のスローライフを送るんだ。
もちろん、農業の研究は、これからも続ける。
もっと美味しくて、もっと人々の役に立つ作物を、この谷から生み出していく。
未来への種は、今、まさに芽吹いたばかりなのだから。
俺は、グラスに注がれた葡萄酒を、高々と掲げた。
「俺たちの『恵みの谷』に、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
仲間たちの陽気な声が、星空の下に響き渡った。
こうして、俺の異世界農業成り上がりストーリーは、最高のハッピーエンドを迎えたのだった。
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