婚約破棄された元悪役令嬢、前世が淀殿だったので慰謝料のクズ領地で治水・商業チート炸裂!元婚約者?もう知りません

黒崎隼人

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第十一章:炎のトラウマ、そして決別

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 中央からの経済的な圧力が、思ったほどの効果を上げていないことに焦れたのだろう。ユリウス王子は、ついに最も愚かで、そして卑劣な手段に打って出た。
 ある風の強い夜だった。
「火事だー!倉庫の方から火が出てるぞ!」
 けたたましい鐘の音と叫び声に、私は眠りから跳ね起きた。窓の外を見ると、特産品の醤油や織物、そして収穫した麦が保管されている一番大きな倉庫が、赤い炎を天に噴き上げて燃え上がっていた。
「傭兵だ!何者かが火を放ったぞ!」
 自警団の叫び声が聞こえる。
 その、燃え盛る炎を見た瞬間。私の全身は凍り付いた。
(……あ、あつい……炎が……城が、燃える……!)
 ドクン、と心臓が大きく跳ねる。視界がぐにゃりと歪み、目の前の倉庫の炎が、かつて自分を焼き尽くした大坂城の業火と重なった。
 鬨の声、人の断末魔、熱風、そして絶望。
 淀殿としての最後の記憶が、強烈なフラッシュバックとなって私を襲う。
「……いや……いやぁっ!」
 立っていられないほどの恐怖に襲われ、その場にへたり込んでしまう。手足が震え、呼吸が浅くなる。頭では、消火の指示を出さなければと分かっているのに、体が全く動かない。
「シャーロット様!」
 パニックに陥る私の体を、力強い腕がぐっと抱きしめた。アランだった。彼は私を炎から遠ざけるように抱きかかえると、私の耳元で叫んだ。
「シャーロット様!しっかりしてください!」
「……こわい……燃える……また、全部……」
「過去に何があったかは知らない!だが今は前を向け!あなたの民が、あなたを待っている!あなたが守ると誓った、あなたの城が燃えているんだぞ!」
 アランの必死の叫び声。その言葉が、炎の記憶に囚われていた私の意識を、無理やり現実に引き戻した。
 はっと顔を上げると、必死に火を消そうと走り回る領民たちの姿が見えた。バケツリレーで水を運び、燃え移りそうな建物を壊し、懸命に戦っている。私の民が。私の仲間たちが。
 ――そうだ。ここは、大坂城じゃない。私の、ヴァイス領だ。
 ――私は、淀殿じゃない。この地の領主、シャーロットだ!
「……アラン、ありがとう。もう、大丈夫」
 私は震える足で立ち上がると、彼の手を振り払った。瞳にはもう、恐怖の色はない。
「風下にある建物から、延焼を防いで!水路から直接水を引けるよう、溝を掘りなさい!女子供は負傷者の手当てを!傭兵どもは、アラン、あなたに任せます!」
 恐怖を振り払い、私は的確な指示を次々と飛ばし始めた。その声には、もう一切の迷いはない。私のその姿を見て、混乱していた領民たちも落ち着きを取り戻し、組織的な消火活動を開始した。
 夜通しの戦いの末、夜が明ける頃には、火はなんとか消し止められた。倉庫は半焼し、被害は甚大だった。しかし、民の団結のおかげで、人的な被害は最小限に抑えられた。
 朝日の中で、黒く焼け焦げた倉庫の残骸を前に、私は静かに佇んでいた。
 全てを失う恐怖。それは、私の魂に深く刻まれたトラウマだった。だが、私はもう一人ではない。共に戦ってくれる民がいる。私を支えてくれる仲間がいる。
 この忌まわしい事件は、私の中で燻り続けていた過去の亡霊と、完全に決別するきっかけとなった。
 私はもう、落城の悪夢に怯える女ではない。
 民と共に、自らの城を守り抜く、領主だ。
 そして、その決意を新たにした私の元に、アランが生け捕りにした傭兵の一人を引きずって、報告に来たのだった。
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