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第1章 アタナシアの聖女と魔女
第4話 不条理な国
しおりを挟むオルト・アタナシア。
このアタナシア王国の第二王子。
女好きのクズ。
以上がフィーネにとっての婚約者像である。
今も彼の両腕には豊満な胸を惜しげもなく押しつける品のない女性たちがおり、王子としてその姿は恥ずかしくないのかとフィーネは白い目を向けた。
こっちとしてもこのクズとの婚約には不満しかないがそれは相手も同じなのだろう。
婚約者のいる身でありながら不特定多数の女性と関係を持っていることは国中の知るところであり、それでも尚同情の眼差しはこの王子へと向けられた。
世間での私は一体どれほどの悪女となっているのかただただ疑問である。
ちなみにこの婚約は王命であり、ちょっとやそっとでは覆らないのはフィーネとしても痛かった。
国王が自らの子供を贄としてもこの魔女を繋ぎ止めていたい理由。
それは単純に強大な力を持つフィーネを手元に置いておきたいからである。
闇魔法の持ち主は総じて魔力量が多く、危険視されているが大事な使い道があった。
それはーー魔物退治のための兵器。
アタナシア王国の王都は聖女による結界で護られており魔物の出現はまずない。
しかし、それ以外の町には度々魔物の襲撃があり普段は騎士団や場合によっては聖女を出陣させることもあった。
ではそんな彼らでも全滅の危険があるSランクの魔物が現れた時どうするか。
結界の要である聖女を犠牲にすることは断じて許されず、国の大事な兵力である騎士団も失う訳にはいかない。
そこで投入されるのが闇の魔法使いである。
普段は虐げておきながら有事の際にはその力で国を護らせる。なんとも吐き気のするシステムだったが逆らう術はない。
アタナシアでは産まれたばかりの子はすぐに魔法適性を調べられ、そこで闇と判定された子は漏れなく国に奪われる。
そしてその高い魔法力を兵器のためと育てられるのだ。
闇属性を持つ者は国中を調べても一年に一人いるかいないかの稀少さで、国にとっては嫌悪と兵器の象徴でもあった。
フィーネのように黒髪、血赤の瞳、闇の力の三つを備えた者は百年に一人の存在であり、かの魔女の生まれ変わりとされ歴史上ではすぐに殺されたとされている。
同じく黒髪や血の色をした瞳を持つ子供も嫌悪の対象であるが、大抵の場合は色変えの魔法によって隠蔽され守られていた。
最もよっぽど信心深い両親だと子を殺す者たちすらいるのだから、フィーネが今日まで生きているのはある意味奇跡に近いだろう。
そんなフィーネにもせめて色変えの魔法で見た目だけでもマシにしようと王宮の魔法士が送られたが、いくら試しても魔法は効かなかった。
まるで呪いのようにすぐに元の色へと戻ったのである。そのこともあり、さらにフィーネは魔女の生まれ変わりだと後ろ指を刺されることとなったのだ。
「お前みたいなのと婚約なんて死んでもごめんだが、父上の命令だから仕方なく生かしてやっているんだ。それならせめて、その醜い姿を見せないよう努力するべきじゃないか?」
オルトはゆっくりとフィーネに近づくと前置きもなく彼女を蹴り飛ばした。
咄嗟に後ろに下がったため直撃は免れたが理不尽な暴力に思わず王子を睨みつける。
「生意気な目だ。力を封じられている分際で俺に盾突く気か」
その封印を施したのは他の誰でもない、オルトの父でありこの国の王だ。
現在この国で一番の魔力の持ち主は聖女であるセレナだった。圧倒的な光の力にアタナシアは安泰だと喜んだ矢先のフィーネの誕生。
しかもその力はセレナと引けを取らないほど強大なものだった。
セレナの懇願によりフィーネの最低限の権利は約束されたが、それでももしもがあっては国が滅びる。
そう言って幼い頃に魔力を封印する儀式を施された。フィーネの背中に刻まれている魔法陣がその印だ。
ほとんどの力が封じられた今の状態では低級の魔法さえ思う様に使えなかった。
それを知っているからこそオルトはフィーネを見下し、会う度に日頃の鬱憤を晴らすのである。
街に出ても心無い言葉を投げつけられ、何の力もない弱者だと好き放題に踏み躙られる。そのくせ、やれ自然災害があっただの疫病が流行っただのと不幸があればすべて魔女のせいだと責任転嫁された。
こんな理不尽な世の中などいっそ壊れてしまえと思ったのも数えきれないほどだ。
それでもこの国は姉が賢明に守っている地だから、だから私も頑張れると自分に言い聞かせていた。
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