45 / 66
Ⅱ.未編集
第43夜
しおりを挟むねぇ、と控えめに秋斗に声をかけられる。
「スイちゃん、ここ分かる?」
「あぁ、ここはまずこの数式を解いて、そこで出た数字を代入して…」
「こう?…あ、解けた!」
「正解」
ポンと秋斗の頭を撫でれば、照れたようにはにかみ「教え方が良いからだよ」と言ってくれる。
(アキは可愛いな。それに比べて…)
ちらりと蓮の方へ向き直ると、
「秋斗に甘いぞ!俺も褒めろー」
「…1問も解いていない奴をどう褒めろと?」
喧嘩相手に向けるような冷ややかな視線で返せば、蓮はぐっと詰まった。
「ほら、ここはこの公式を使って…」
「うぅ…次はこうか?」
「そうだ。やれば出来るじゃないか」
ふっと微笑んでみせれば、飴と鞭がヤバイ!!と叫びだす。
(…とうとう壊れたか?)
「ね、スイちゃん。次は英語なんだけど…」
「ん?」
「ここに入る単語って、過去形で合ってる?」
「ああ。この訳はややこしいが、入るのは過去形で正解だ」
「ありがとう!……スイちゃんは勉強出来るのに、どうしてテストでは手を抜いてるの?」
秋斗は前々から疑問に思っていたことをぶつけた。
「不良は勉強が出来ない、って固定観念を持っている奴が多いからだな」
(ま、本気を出さないって決めたのは別の理由があるけど…な…)
ふっと自嘲する。
それでも、1年の最初はそこそこ真面目にテストの回答を書いていたので50位くらいには入っていた。
けれど、当初からすでに不良としての地位を有難くないことに獲得しており、カンニングを疑われたのだ。
もちろん否定はしたのだが、完全に誤解は解けず…その次からはもっと手を抜くことを覚えた。
今では基本平均を狙い、350人中200位前後の成績で落ち着いている。
それでも意外と頭が良いのだと評価されている方だった。
ちなみに爽は毎回5位以内、秋斗は70位前後、蓮は…最後から5本の指に入るほどの実力だ。
「まぁ、そこそこの評価はされているし、サボっている割には良い方だと思うから気にしていないけどな」
「サボらなければもっと良いんだけどね!その点では田場先生に感謝だよ。先生のお陰でスイちゃんのサボり回数が減ったし」
しみじみと言われ、彗は苦虫を潰したような表情になる。
「1度大目玉を食らったからな。あんな課題は2度とやりたくねぇ」
この間久々(と言っても3日ぶりくらい)に授業を抜け出したのだが、宣言通り田場に報告された。
そしてイヤににこやかな顔で押し付けられた課題は、「平和」についての論文を作文用紙5枚以上書くというものだった。
それが嫌なら留年か、この先卒業まで花壇の世話をするか選べとも言われた。
もちろん論文の方を選び、四苦八苦しながらも提出したのだ。
その時にもニヤリとした顔で田場は「次にも豪華な課題があるから、それをやりたいならサボっていいぞ」と宣った。
彗の話を聞いて、秋斗は苦笑いを浮かべる。
それと同時にスイちゃんの扱いが上手いな、とも思うのだった。
「…それよりも、だ。蓮は解けたのか?」
一緒になって彗の話を聞いていた幼馴染をジト目で見遣る。
「おぅ、バッチリよ!」
自信満々にノートを差し出してくるが、見事に全滅だ。
(これは…骨が折れるな…)
おそらく泊まりでシゴいてもギリギリだろう。
今日、明日の地獄を想像して、彗はため息を吐いた。
いつの間にか辺りは暗くなり、下校時間を知らせるアナウンスが流れた。
「今日はここまでだな」
「そうだね。スイちゃんありがとう!お陰でとても捗ったよ」
「アキは勉強が出来る方だし、コツさえ掴めばもっと点を伸ばせると思う。それに比べて…蓮、お前本気でやらないとマジで留年するぞ?」
秋斗も同意とばかりに頷く。
「分かってるって。そうだ!赤点を全て回避したらご褒美くれーーごふっ」
蓮の台詞はしかし、言い終わる前に突然現れた爽によって阻まれる。
「何を寝ぼけたこと言っているのかな?僕の彗を借りた挙句、ご褒美?むしろ彗が君に請求すべきだよね?」
黒い笑みを浮かべた魔王様は、たった今、蓮の後頭部を殴った拳をさらに握り締め静かに立っていた。
「ひっ!!」
その真剣さから蓮は飛び跳ね、俺の背後に回る。
「怖いよ!この子ガチだよ!?助けて、彗!」
「知らん。それより、生徒会の集まりは終わったのか?」
幼馴染をバッサリと切り捨て、代わりに弟へと問いかけた。
「うん。一緒に帰ろう、彗」
途端に笑顔を見せる姿に、先ほどまでの黒い空気は感じない。
彗たちが教室で勉強をしていたのは、爽を待つ時間つぶしの意味もあった。
未だに登下校を一緒にする、という例の決まりは有効である。
「じゃあ、俺も…」
「…諏訪部くんは家までついてくる気かな?」
「おう、彗に徹夜で勉強を見てもらうつもりだからお邪魔するぜ」
ピリッとした爽に笑顔で応える蓮。
「そっか。なら、僕も協力するよ!いっぱい鍛えてあげるから、今夜は寝かさないよ?」
普通に聞けばドキリとするような台詞を吐き、爽は悪魔よろしくな笑顔を浮かべる。
「彗と2人っきりにはさせないし、僕は厳しいから覚悟してね?」
「こ、こんな助っ人望んでねーよっ!!」
予想外の展開に蓮は叫ぶ。
おそらく、彼の悲痛の叫びが一晩中響き渡ることになるだろう。
(ま、頑張れ)
心の中で手を合わせ、自業自得ではあるものの憐れな男の結末に幸あれと思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる