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Ⅱ.未編集
第54夜
しおりを挟むどう話せばいいのだろうか?
昨日からその問題が頭の中でグルグルと回っている。
幼馴染にーー蓮に、爽とヤっているところを見られた。
今思い返しても思考は真っ白になり、何と言っていいのか分からなくなる。
実の弟と肉体関係を持つ。
その事が世間ではどれだけ受け入れがたいものか想像するのは容易い。
しかもそれが男同士ともなれば嫌悪感は倍増する筈だ。
酷く蔑まれ、縁を切られてもおかしくはないだろう。
(……っ)
蓮は大切な幼馴染であり、初めての友だ。
そんな彼からどんな言葉が飛び出すのか、それを想像しただけで正直怖い。
けれど、欲に負けて溺れたのは他でもない己自身だ。
全てを爽のせいにしてしまいたいが、それはお門違いである。
(本当に嫌なら殴ってでも止めるべきだった…)
口では否定しながら、しかし身体はその逆を求めていた。
弟にドロドロに溶かされ快楽に思考が塗り潰される感覚。
一度味わうと抜け出せない、麻薬のような中毒性が忘れられない。
最初はイヤだと思っていた。
でもそれは決して嫌悪からではない。
今ならわかる。
重なる肌が、分かち合う熱が心地よく、理性もモラルも何もかもを飲み込まれてしまう感覚が怖くて、爽に溺れるのが怖くて、それを知ってしまえばもう戻れないと悟るのが怖くて、怖くて、嫌だった。
爽を拒否出来ないのは、きっと彼を手放したくない、独りになりたくないと思う自分の甘さ故だ。
こんな感情はオカシイ。
捨てなきゃいけないのに…。
名前すら付けられない想いの渦に、彗自身戸惑っていた。
ここまで考えて、そしてまた最初の「蓮にどう話せばいいのだろうか」という問題に戻ってくる。
ずっとその堂々めぐり。
(…旭たちにも悪いことをした)
折角、家に来てくれたのに、客人を放ったらかして俺はナニをしていた?
…俺は、爽とどうなりたいのだろうか。
すでに頭の中はぐちゃぐちゃで、脈絡のない思考が駆け巡る。
疲れているはずなのに、結局この日は一睡も出来なかった。
いつの間にか朝日が昇りカーテンの隙間から光が差している。
一晩考えても結論は出なかった。
もう、こうなってしまえば俺に出来るのは一つしかない。
当たって砕ける。
うじうじ悩み続けるのも性に合わないし、何より手っ取り早く「変なもん見せてすまん、忘れてくれ」と伝えてしまえばいいのだ。
そうと決まれば彗の行動は早かった。
スマホを開き、蓮宛にメッセを飛ばす。
内容は至ってシンプル。
『朝一で屋上に来い。来なかったら…分かってるな?』
どうしても不良の呼び出しっぽい内容になってしまうが、そこは勘弁してもらおう。
蓮にしては珍しく朝から起きていたらしい。
すぐに既読がつき、数秒後には「分かった」とだけ返信された。
(…朝飯でも作るか)
とりあえず既読無視をされなかった事に安堵し、少しの現実逃避も兼ねて俺は手の込んだ物を作ろうと自室を後にするのだった。
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