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Ⅱ.未編集
第58夜 ???side
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今の感情を一言で表すならそれに尽きる。
桐生 彗、それがボクたちから王子を奪った奴の名前だ。
あいつさえいなければ王子ーーもとい爽くんは側にいてくれたはずなのに…。
あいつと一緒に過ごすようになってから爽くんは変わってしまった。
前までは爽くんを慕う者たちに優しく、甘美な夢を与えてくれた。
しかし今では話しかけても相手にされず、それどころかどこか冷たい瞳で対応するのだ。
王子と呼ばれ憧れの対象であった彼の姿は見る影もない。
と言っても、それで人気がなくなるほど爽くんの人望は薄くなかった。
それでもいいと慕う者たちは沢山いる。
けどこのボク、爽くん親衛隊の隊長であり、彼のお気に入りだったーー結城 涼は許せなかった。
この南星高校には大小様々なファンクラブが存在する。
それはクラス内だったり、部活動や委員会内だけのものもあった。
男子だけの限られた空間。
憧れや尊敬、禁断の想いを秘めた者はそうやって熱を晴らしていたのだ。
そして他学年だけではなく、教師陣すら巻き込んで校内で特に人気があるのが、三年の神里 龍、一年の如月 海斗、そして二年の桐生 爽である。
その中でも校内だけでなく他校にまでその名が轟く爽は王子のあだ名で慕われていた。
そう、爽くんはみんなのもの。
一部の教師もその魅力に取り憑かれ、こっそりファンクラブに入る者さえいる始末。
それを兄だからと彼の眼差しも微笑みも一身に受ける、彗が憎い。
しかも前までは不良だ何だと恐れられ、学校中の嫌われ者だったくせに、最近ちょっと怖い噂を聞かなくなったからと彼を支持する者まで現れるようになったのだ。
その事実がさらに苛立たせる。
実は頭が良い、話してみればそんなに悪い奴じゃない、笑うと可愛いかも、そんな言葉が飛び交うようになった。
最初はクラス内での株が上がり、そんな噂を聞きつけた周りの者まで賛同し、さらに前は誰も口にしなかったクセに今になって「実は絡まれてたところを助けてもらったことが…」なんて事を言い出す。
文化祭の準備期間に入り、意外と真面目に働く姿や料理の腕前を見せつける様に、さらに周りの目は変わり始めた。
風の噂ではすでにちょっとしたファンクラブが発足しつつあると聞き、なんであんな奴がと憤りを覚える。
悔しい、悔しい、悔しいっ!!
悪い話題しかなかった頃は鼻で笑えたし、何なら野蛮な不良めと馬鹿にしていた。
けれど、彗の人柄が認められる度に嫌な予感が募り、それはすぐに的中する。
ーーあれは爽くんの見たことのない表情だった。
あいつといる時の楽しそうな顔、自然な態度、何よりその熱い視線はボクたちの前では決して見せない王子の素顔だった。
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