【BL】クレッシェンド

花夜

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Ⅱ.未編集

第57夜 蓮side

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彗の顔面偏差値は認めるのは悔しいが、カナリ高い方である。

 けれど普段は仏頂面で、その鋭い瞳に隠されているのだが…それ故に笑った時の破壊力は凄まじいと断言出来る!

 ここ最近その餌食になる者が増えており、こいつは根っからのタラシだと思ったものだ。

 そして、今の俺はそれをモロに食らってしまい正直ツライ。

 何がって?

 そりゃ下の方がーーじゃなくて!!

(…重症だわ…マジで、この…)

「…この、天然タラシめ」

 恨めしい気持ちを混ぜつつ、これ以上一緒にいたら色々とヤバい。

「ああ、もう!いいからお前は教室に戻れ。爽との事は誰にも言わないし、もうこの話は終わりな」

 強引にまとめて彗を屋上から追い出す。

 俺はその姿が消えたのを確認してからその場に座り込んだ。

(うおおおおぉぉぉーー!!)

 どこに向けて発散すればいいのか。

 とりあえず心の中で雄叫びを上げていた。

 すると屋上の扉が開き、彗が戻って来たのかとヒヤリとしたが、そこに立っていたのは失礼ながら胡散臭い笑みを浮かべた生徒だった。

「諏訪部 蓮くん、やろ?」

 まさか自分に用がある奴だとは思ってもみなかったことと、突然名を呼ばれた驚きで咄嗟に返せなかった。

「わいは黒崎。双子の関係を知ってるもんや。なぁ、わいと楽しい話しせいへん?」

 その生徒は俺に近づき、やはり胡散臭い笑顔のままこちらに視線を寄越す。

(なんか爽とどこか似た雰囲気を感じるなぁ)

 嫌な予感がしつつも、逃げられそうにもない空気に諦める蓮だった。




で、黒崎だっけ?俺に何の用?ってか双子の関係ってそれ以外に何かあんの?」

 どこかで見覚えがあると思ったら、こいつはちょっと前に隣のクラスに転入してきた奴だ。

 こんな中途半端な時期に珍しいと話題になっていた。

 それでもいきなり話しかけられる覚えはないし、内容も内容なだけに惚けるしかなかった。

 爽には失礼かもしれないが、胡散臭さで言ったら彼に匹敵すると思う。

「隠さなくてもええで。あの2人が肉体関係を持ってるのは最初から知ってるし、ついでに爽くんからも釘は刺されとる」

「…そんな奴が俺に話し?」

 嫌な予感というものは何故か大概当たるもので、黒崎の次の言葉に頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「蓮くんは、彗くんにホの字やろ?」

 今時使わない表現方法だが、意味は通じる。

 狐のように弧を描く顔に、咄嗟に殴りかかりたくなる衝動を必死に抑えた。

「…はっ!?」

「隠さなくてもええよ。わいには全部お見通しや」

 いや、ちょっと待て、今こいつは何て言った?

 俺が彗に惚れてるって??

 ま、まぁ、間違っちゃいねぇーけど、俺ですらやっと自覚した事を何で今日まで話したことのない奴に知られてるんだ!?

 瞬時に様々な疑問が頭の中を飛び交う。

「…は??」

 結果、俺の口から出た返答は何とも間抜けな疑問符だった。

「せやから、蓮くんは彗くんに惚れてるんやろ?」

「っ~~~!!?」

 いや、もう言わなくていいです!!

 ってか2度も言わないで下さい!!

 おそらく顔だけではなく耳まで真っ赤になっているだろう。

 風が冷んやりしてくる季節の筈なのに、熱くて暑くて仕方がなかった。

 俺の反応を肯定として受け取った黒崎は、更に混乱する言葉を吐き出す。

「その恋路、手伝ってやろうか?」

「!?」

 初対面の相手に言われる台詞ではない。

 俺は目をつり上げ、からかってるのかと黒崎に詰め寄る。

「落ち着きや。わいはこれでも真面目やで!真面目に手伝ってやろうと思っとる。何せライバルはあの爽くんや。彼が見張っている限り、彗くんには手ぇ出せへんやろ?」

 確かにそれはそうだが…。

 しかし、あやしすぎる。

「お前のメリットは?こんな事をして、お前に何の得がある?」

 どう見ても慈善活動の一種ではないだろう。

 絶対裏がある筈だ。

 そう構えていたのだが、黒崎の答えは想像以上にあっさりしたものだった。

「わいは彗くんをイジるのが趣味やねん。せやから単純に彗くんの反応を楽しみたいだけや」

「………」

「あとは、爽くんに一杯食わしたいって気持ちもあるな。ま、わいが面白そうと思ったから、ってのが一番の理由や」

 あー、うん。

 何か変な奴に捕まったっぽい。

 それだけしか今の蓮には理解出来なかった。

「まぁ難しく考えんでええよ。彗くんと2人っきりになりたいとか、そんな時に協力したるって言うてるの。とりま、これわいの連絡先な」

 そう言って強引にIDの書かれた紙を渡される。

「ちょっ…」

「ほな、気軽に声かけてや。ちょうど文化祭も近いし、祭りの騒ぎに乗じて…ってのも、アリなんとちゃう?」

 バイバイと手を振り、嵐のように去って行く黒崎の背中を見つめる。

 その間、蓮は何の反応も返せずにただ突っ立っていることしか出来なかった。

(何だったんだ…マジで…)

 黒崎、かぁ。

 胡散臭いという思いは拭いきれないが、しかし彼の言っていた事は引っかかる。

(…彗、俺はどうしたらいいんだ…)

 途方に暮れつつも、渡された紙切れを捨てきれずにいた。


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