ユビラーテの夜に ~クレッシェンド・オブ・スターズ~

葉月奈津・男

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第4話:捕らわれの地球人 

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「オレって、なんて間抜けなんだよ……」

 オレは、完全に腐っていた。
 逃げ出したときは、ちょっとカッコつけたつもりだった。
 でもその直後、まさかの古典的な罠に引っかかって、あっさり捕まるなんて。

 安全だと思って飛び込んだ裏路地の倉庫。
 そこに、あいつらは待っていた。
 まるで最初から、オレたちの動きを読んでたみたいに。

 ネズミ捕りにでも引っかかった気分だった。
 いや、それ以上に情けない。
 ゴキブリホイホイのほうがまだマシかもしれない。

 しかも、何が起きたのかもわからないうちに、アミルナと引き離されて、気づけばオレは、狭い金属の箱の中に押し込まれていた。


 腐るなってほうがムリだろ。

 箱の中は真っ暗で、冷たくて、狭い。
 でも、かすかに伝わってくる振動で、どこかに運ばれてるのはわかった。

 車にしては縦揺れがない。
 船ならもっと揺れるはずだし、飛行機……いや、飛行機なんて乗ったことないし、そもそもこの辺に空港なんてあったっけ?

 もう、どうでもいいや。

 オレは腹をくくった。
「死にたいか?」って聞かれたら、そりゃ死にたくはない。
 でも、死ななきゃならないなら、まあ仕方ないかって思うくらいには、腹が据わってた。

 怖くないわけじゃない。
 でも、それよりも――気になることがあった。

 アミルナは、無事だろうか?

 出会って、まだ一時間も経ってない。
 顔を合わせてたのなんて、せいぜい三十分くらい。
 それなのに、オレは彼女のことが気になって仕方なかった。

 ……そういえば、名前、ちゃんと聞いてなかったな。

「アミルナ」って、さっきやっと知ったばかりなのに。
 オレ、何やってんだか。

 オレは、狭い箱の中で、ひとり苦笑いを浮かべた。

 ヴゥーン…… ヴゥーン……

 低く唸るような音が響いて、箱の振動がピタリと止まった。
 その直後――

 バシュッ!

 箱の蓋が開き、目を焼くような強烈な光が差し込んできた。

「うっ……!」

 思わず顔を背け、目をぎゅっと閉じた。
 光源から視線を外しながら、うめくように声を漏らす。

「おっと、すまぬ。これ、明かりを落とせ」

 その声――聞き覚えがあった。
 まさか……?

 胸の奥がざわつく。
 目を細めながら、光の向こうを見つめた。

 やがて、光が少しずつ弱まり、視界がゆっくりと輪郭を取り戻していく。
 そして――そこに、彼女がいた。

 アミルナ。

 でも、どこか違う。
 黒髪だったはずの髪は、淡い茜色に。
 瞳は、氷のような青に変わっていた。
 それでも、彼女の気品と美しさは、むしろ増していた。

「すまなかったな。わたしの浅はかさで、迷惑をかけた。……許せよ」

 その言葉に、思わず「ハハーッ」とひれ伏しそうになる。
 それくらい、今のアミルナには威厳があった。
 まるで、どこかの姫君みたいに。

「……説明して、もらえる?」

 自分の声が震えそうになるのを、なんとか抑える。
 卑屈になるな、と心の中で自分を叱りながら、平静を装った。

「うむ。お主には、その権利がある。……ちこうよれ」

 アミルナは、ガラス張りの壁のそばに立っていた。
 その向こうには、漆黒の闇。
 そして、無数の星々が瞬いていた。

 街では見えないような、小さな星までが、まるで手を伸ばせば届きそうなほどにくっきりと見える。
 その光景に引き寄せられるように、の足が自然と前へ進んだ。

 ガラスのすぐそばまで近づいたとき、ふと気づく。

 ……星が、横に見える?

 おかしい。
 地上にいたら、星は見上げるものだ。
 たとえ山の上でも、こんなふうに正面から星を眺めることなんて、ありえない。

 首をかしげながら、何気なく足元――眼下に視線を落とした瞬間。

 オレは、すべてを悟った。

 自分が今、どこにいるのか。
 どんな場所に連れてこられたのか。

 そう、オレは――地球の外にいる。

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