『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
34 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第33話 妖怪制作③ ~泥田坊~

しおりを挟む
 

「服が汚れたら可哀そうでしょ?」
 遠い記憶が蘇った。

 中学一年のときだっただろう。
 小学校を卒業したばかり。

 周辺の四つの小学校から、一つの中学校に入学してくる。
 違う小学校からの生徒と知り合う機会だ。

 中には友達になれる子がいるかもしれない。
 小さな希望を胸に、通学し始めた頃だった。

「手伝ってくれない?」
 声をかけられた。

 活発そうな女の子だ。
 一つ先輩だろうか?
 健康的な小麦色の肌と、キリっとした目が印象的だった。

 大チャンス!
 一も二もなく頷いた。
 そして・・・。

 手伝い当日。
 連れていかれたのは田んぼだ。
 彼女は何代も続く農家の娘だった。
 広大な田んぼを有している豪農だ。

「わたし、機械でするの嫌いなの。田植えは手植えが一番よ」
 なにか強いこだわりがあるようで、稲苗の塊を押し付けられた。

 その時だ。
 あの言葉を聞いたのは。
 言葉には続きがあった。

「汚れたらダメなものを全部剥いて放り込みなさいな」
 オレ以外に参加していた、先輩だろう男女に囲まれて尊厳が奪われた。

 自分の体だけにされ、田んぼに投げ込まれた。
 頭の先から全身が泥だらけになる。

「そうなっちゃえばもう、転ぼうがどうしようが問題ないわね」
 満足そうにうなずき、思い出したように付け加えた。

「転ぶのはいいけど、植えた苗を折ったら承知しないわよ!」
 ギロリと睨まれ、否応なく田植えをやらされた。

 なぜそんなことを思い出したのか?
 防御陣の一角で、土に埋もれた一団を発見したからだ。
 九大魔女が一人、『土属性』の『稲田美水穂(みずほ)』と、その農夫たち――下っ端どもだ。

 彼女は九大魔女に名を連ねているが、攻撃よりも防御。
 それも拠点防衛に特化した魔法使いだ。

 最前線に立つよりも、後衛向きの能力。
 だから、ここでの防御に回されていた。

「いいね。水魔法の第一人者の次は土魔法か」
 顔がにやけてしまう。
 もう、作る妖怪は決定だ。


『泥田坊』。
 北国に住む翁が、子孫のために田を買って耕作し、その田を遺して亡くなったが、その息子は農業を継ぐどころか酒を飲んでばかりで果ては田を売り払ってしまい、その後、夜な夜な田に一つ目の者が現れ「田を返せ、田を返せ」と罵ったとある。

 これが、出典だ。
 これ以外には何の伝承も残っていないそうだけど、小説の題材になったりしているので学校の図書館にはその本があった。
 舞台が地元なのだ。


「田んぼが好きだったんだし、本望でしょ?」
 汚れを物理的に外し、彼女自身についた泥を優しく撫でつける。
 貶めように、泥と交わるように。

 泥遊びを楽しみながら、『システム』のデータを呼び出し編集していく。
 彼女の体、彼女たちの想いや生存の残滓、その他のモノを吸収した泥。

 それらを統合して、一匹の『妖怪』に編纂する。
 だいぶ慣れてきた作業が進んでいく。


 泥の塊は巨大なウシガエルに。
『彼女の農夫』たちは『腕の形』に整えられた泥に。
 自身は泥まみれの制服姿に。
 変換され、実体化していく。

 泥の腕たちが、彼女の背後でざわめく。
 それは、かつて隣にいた者たちの残滓。
 笑い合った、支え合った、戦った——でも、助けられなかった。

 泥に沈んだその瞬間、彼女は叫ばなかった。
 叫べなかった。
 声を出せば、喉まで泥が流れ込んでしまう気がしたから。

『人ならざるもの』に、自分がなってしまったとき。
 彼女は泣かなかった。
 泣けなかった。
 涙は泥に混ざって、誰のものかもわからなくなるから。

 今、彼女の背に伸びる腕たちは、「助けて」と言っているのか、「許して」と言っているのか、それとも「一緒に堕ちよう」と囁いているのか——わからない。

 でも彼女は、片膝を立てて座っている。
 まだ立ち上がるつもりでいる。
 オレの手下として使われようとしていても、その膝はまだ、『自分の意志』のために曲げられている。

 彼女の目は、濁っていない。
 月明かりに照らされて、はっきりと『怒り』と『悲しみ』を映している。
 それは、仲間たちの腕が彼女を引きずり込もうとする泥の中で唯一、空を見ている目だ。

 泥は記憶の海だった。
 彼女はその中で、祈りを抱えて座っていた。

 彼女の膝は空を向いていた。
 それは、まだ終わっていないという意思だった。

 その膝は、まだ誰かを支えるために曲げられていた。
 泥の中でも、彼女は誰かのために立とうとしていた。

 名前は変えないでおこう。
 ぴったりすぎる名前だから。

 ただし、美水穂はひらがなにする。
 美しい水は、もう彼女の中にはない。
 でも、みずほという響きだけは、泥の中でも残っていた

『稲田みずほ』。
 それが、新たに生まれた泥田坊という妖怪の名前だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

処理中です...