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第32話 最前線攻略者たち③ ~祈りを切り落とす剣~
しおりを挟む「次の獲物が決まらない?」
「隙のある所から抜いていく、意味は分かるけど『隙』というものが曖昧過ぎるわ」
ウィンドウ上にマルチウインンドウになった映像を見据えて、しらゆきが言う。
「ああ。いいのがいるじゃないか」
ウィンドウに目を落として、カルマはすぐにパーティを一つ指さした。
「マップ埋め係?」
「彼女らの適正探索階層は55より下になっていたはずだ。なのに64階層のマップ埋めをさせられている。崩せば一発で沈むよ」
「そんな簡単にいく?」
「いく」
確信のこもった頷き。
カルマは何度かこのパーティに参加したことがあった。
その経験が、狙い目だと言っていた。
◆30階層の追憶◆
「さっさとする!」
後ろからケリが入った。
パーティのサブリーダーだ。
リーダーが先に行ってしまったので早く追いつきたいらしい。
「あの高慢ちきのための気が進まない採取クエスト。ただでさえイラついてんだから手間かけさせんな!」
元から苛立っていたようだ。
それでは機嫌の回復は望めない。
今日は一日こんな調子なのだろう。
彼女たちはモンスター討伐よりも、採取や採鉱で稼ぐタイプ。
これまでも何度かクエストに同行したことがある。
校内の他パーティや郊外のスポンサー企業から依頼されて、特定のアイテムを規定量集めて納品するというものだ。
目的物を見つけるために探知。
採取や採掘にもそれぞれにスキルを使う。
量が多かったり、時間がかかるものだったりすると『無限魔力』を当てにされて、駆り出されるのだ。
普段は気の合う同性ばかりのパーティで活動しているため、たまにこうして異物が入ると・・・かなりヒドイ。
ホラネ。
採掘場に来た途端。
掘り出された鉱物が飛んできた。
硬く、それなりに重い石。
一つ一つ運ぶのは手間だ。
わかりやすい位置決めをして、投げるのは道理に合っている。
位置を決め、円状にラインを引く。
手間だ。
床はダンジョン。
アスファルトではなく、コンクリートでもない。
腐葉土を固めたような土となっている。
ラインは引けない。
かといって土をえぐっただけでは明るいとは言えない中での視認が難しい。
ハッキリと視認できて、投げ損なってもその場に落としてくれる壁があるのが望ましい。
その壁の登場で、手元に貯めていた物を降らせている。
そんな場面だ。
跳ねた石が当たるが、彼女たちは気にしない。
壁も気になどしないだろう。
「ほら! さっさと集めて!」
アイテムボックスを渡された。
大きさや品質で揃えて袋詰め、アイテムボックスにも入れていく。
けっこう手間のかかる作業だが手伝っては貰えない。
「早くしろよ、ノロマ!」
「グズグズしない!」
「サボんな!」
「働けよ!」
地面に膝をついて作業をしていると採掘の終わった者たちに取り囲まれ、作業の間は言葉ではない侮辱が与えられ続ける。
頭上からクスクス笑いが降り注いだ。
本気の罵声ではない。
ふざけているだけの嘲りではある。
しかし、人数と回数が多い。
地味だが、確実にダメージが蓄積されていく。
◆
「いやー、役得だね!」
「テンション上がってるー?」
「もしかして、何か浮かせてない?」
「それはアヤシイ」
「それはコワイ!」
「「「「「キャハハハハハハハ!!!!!」」」」」
鉱石の選別と収納が終われば、魔力の補充だ。
今度は顔や背中を言葉に拠らない侮辱に晒されながらの作業である。
やられることは同じだ。
石から声になるだけ。
報酬ももらえず、侮辱された痕跡だけが増える。
そんな記憶が蘇った。
◆現在◆
「ああ、そうか」
ポン! と手を打った。
「もらい損ね続けていた報酬をもらうときが来たんだな」
彼女たちの存在が、そのまま報酬と言える。
ダンジョンの性質上、永遠に働いてもらえるのだ。。
「大丈夫。数日で何も感じなくなるさ」
『ダンジョン属性』を『学園祭』として、モンスターを『妖怪』にする。
虫の養殖は止めるから、負担が少なくなるのだ。
現行の者たちよりは楽なはずだろう。
「しらゆきちゃん、作戦開始!」
「了解。静寂の幕を、今、開けます」
雪女が、ウィンドウを叩き、虫たちを配置する。
『お客様』のおもてなしが始まった。
◇
「この先の通路は、まだ見てなかったよね」
アイパッド片手に、そう言ったのは後詰C班、通称『マップ埋め係』のリーダーだった。
探知スキル持ちの小柄女子である。
彼女の役目は係名の通り、未踏破の通路を発見・確認してマップを埋めることだ。
有益な採取物や鉱物が見つかる可能性もある。
マップ埋めは必要なことなのだ。
「なにか貴重なものがある予感がしますよー!」
ニヒヒッと笑い、発見した通路へと飛び込んだ。
「待ってくださーい!」
リーダーが探知に集中する間、壁となってもスターの相手をしていたメンバーが悲鳴を上げた。
場所は64階層。
E班メンバーには少々荷が重い。
そこへもってきて、属性変化のこともある。
だいいち、場合によっては初見のモンスターもいる。
気が抜けない戦闘の連続だった。
階層踏破の正規ルートから外れたところでの活動であるため、先駆けの露払いの恩恵が皆無なのだ。
「お宝さがしとなると、見境が無くなるんだから、あの子は!」
苦労人のサブリーダーが、グチをこぼしつつ最後のモンスターを斬り伏せた。
「さっさと追いかけるわよ!」
「人使い荒い—!」
「鬼―!」
メンバー全員が女子という珍しい構成のE班ならではの、黄色い声が飛び交うが動きは速い。
すぐにリーダーの背中を負って走り出した。
◇
「おおっと。カミキリムシさんですか! 聞いてますよー。水魔法が弱点になったんですって?」
語尾を上げ、問いかけるように言いつつ、手には水でできた魔法が用意されている。
探知が得意な彼女だが、特化しているわけではない。
まともに戦うこともできる。
使える魔法は水と火。
そのことが、彼女を救った。
「え?」
水の魔法がいいところに当たり、勝利を確信した直後。
カミキリムシの反撃を受けて飛びのいた。
属性が逆になっているなら、致命的なダメージが入っているはずなのに。
「なら、こっちは?」
同じく、手の平に火の魔法を用意。
投げつける。
今度もいいところへ当たった魔法がカミキリムシを消し飛ばした。
「なによ。逆じゃないじゃない!」
聞いていた話と違う!
憤慨したリーダーだが。
直後に青褪めた。
「あの子たちじゃ対応しきれないかも!?」
属性が逆になっていると聞き、対策をとった。
カミキリムシで言えば、接敵と同時に水属性魔法の使い手が前に出て、火属性魔法の使い手は後方に下がるというものだ。
姿を見た瞬間に苦手な属性の魔法で囲む、止めて嵌め殺す。
それが後詰E班の戦術。
これで確実に勝ってきた。
事前に属性情報があること前提の戦い方だが、今回のように先行して情報集めする見方がいれば、推奨レベルに達していない彼女たちでも立ち回れる。
荷が重くても、やっていける。
もちろん、自分たちでも属性の変化については検証した。
そして、事実だと確認できたから、行っている戦術だ。
なのに、その前提は崩れた。
属性情報が当てにならない。
「ヤバッ!」
リーダーは道を引き返した。
今来たばかりの通路の奥で、何かが動いていた。
音は聞こえていない。
ただ、空気の質が通った時と明らかに異なっている。
通路に響く足音が、何か違って聞こえてくる。
なにかが、ひたひたとついてきている感覚を拭えない。
「間に合え!」
リーダーは全速を超えて加速した。
◇
パーティを置き去ってわずか数分。
その数分が痛すぎた。
リーダーが合流を果たした時、パーティは既に半壊していた。
視界は赤く染まり、耳には静寂がある。
自分の呼吸と、鼓動が聞こえるだけだ。
ところどころに仲間の痕跡は見えている。
確かにここいた。
それは確かだ。
「この!」
沈んでいた『仲間の痕跡』をモンスターが狙っている。
取り戻そうとした動きが、空を切る。
「クッ!」
悔しいが足を止めるわけにはいかない。
『痕跡』は、今はいい。
今はその元となる仲間の救出が先だ。
静寂に沈む通路の奥。
微かに届く音、そして声。
彼女のパーティはまだ戦闘中だった。
まだ、終わっていない!
緩みかけていた足を鼓舞して進んだ。
通路のうす闇の先。
仲間たちのシルエットがおぼろげに確認できた。
整った陣形を保っている。
サブリーターの苦心が窺えた。
あの陣形ならまだもつ。
まだ間に合う!
リーダーは更に加速した。
「エ?」
脳が思考を止め、無意味な声が漏れ落ちた。
整えられていた陣形が、一瞬で弾けた。
直径3メートルにもなろうという大玉が転がってきて、パーティメンバーが激しく押しのけられた。
勢いの強さに、少女たちが枯葉のように宙を舞う。
そこへ、影が押し寄せようと蠢いている。
「や・め・ろー!」
刀身が短く、幅の広い剣を抜き放ち突貫する。
迎え撃とうというのだろう。
何か大きなものが、空気を押し退けて迫ってくる。
「邪魔をするな!」
それがなんであれ、怯むものか!
剣で振り払った。
サクッ!
意外に軽い音がして、何かを切り落とせた。
「あぐ!」
短く、苦しげな・・・声?
「え?」
人の・・・声?
慌てて目を向けると、背中を巨大トンボに捕まれ運ばれる途中の仲間だった。
制服の袖が失われている。
「あ・・・」
リーダーは自分が何を切り落としたかを察して恐怖した。
切り落としたのは、助けを求めて伸ばされた仲間の『届かなかった祈り』。
助けを求める手が、届く前に風に散った。
「そ、そんな・・・」
呆然として、動きを止めたリーダー。
その小さな体が横からの衝撃で宙を舞う。
仲間の一人を前足で引っ掛けて振り回したフンコロガシさんによって。
躱そうと思えば躱せたはずだった。
だが、そのためには振り回されている仲間を剣で受けなくてはならなかった。
自分の手で仲間の体を切ることを拒絶した結果、衝撃に包まれた。
「あ、あぐっ!」
なんとかして、立ち上がろうとするリーダーの足が掴まれた。
思い切り振り上げられる。
眼下にサブリーダーが横たわっていた。
空気が沈み、音のない衝撃が広がった。
リーダー自身、その存在が利用されようとしている。
仲間に対して。
抗おうと振った手足は空を切るばかりだ。
できたことは、手にしていた剣を捨てる事だけ。
その判断は、戦うことを放棄し、傷つけないことを選択するものだった。
この瞬間、『生』への可能性は潰えた。
振り上げられては空気を裂く。
光と影が交錯し、静寂が広がる。
リーダーにできたのは、仲間と運命を共にすることだけだった。
◇
「美しい終わり方ね。音は雪に消えるものなの」
しらゆきは、そっとウィンドウを切り替えた。
『次』を探すために。
雪を降らせる舞台を求めて。
「彼女たちから、報酬は受け取れましたか?」
しらゆきが確認してくる。
未払いの報酬があった。
それを回収すると言ったのを覚えていたようだ。
「ああ、充分に」
彼女たちの記憶が、迷宮の演出に変わる。
それが、報酬だった。
「今度は、誰にスポットライトを当てましょうか?」
しらゆきは、ウィンドウに映る少女の顔を見つめた。
その瞳に、かつての自分の影が揺れていた。
「誰でもいいさ。 ただ、悲鳴が綺麗に響く子がいいだろうね」
さぞや、美しい鎮魂歌を聴けることだろう。
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