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第36話 最前線攻略者たち⑤ ~足が滑った不運のせい~
しおりを挟む「チクショウ! あの女、いつの間にか居やがらねぇ!」
ムカデに追われながら、リーダーが歯ぎしりした。
ふと後ろを見たら、メンバーが一人少なかったのだ。
悲鳴が聞こえなかったことを考えると、やられたとは思えない。
どこかでトンズラされたのだ。
「なんで声かけてくんないかな?!」
もう一人の女性メンバーが恨み言を口にする。
逃げた女性のすぐ前にいたのだ。
抜けるときに肩の一つも叩いてくれれば一緒に逃げられたのに!
彼女の現状を知らなければ、恨みたくもなる。
彼女の方も後悔しているはずだ。
せめて、一人連れ出していれば・・・と。
「やってられるか!」
男性メンバーが一人。
たまりかねて怒鳴るついでに、目についた横道に駆け込んだ。
「あ、あのヤロウ!」
他のメンバーが声を上げたが、引き返してあとを追うわけにもいかず見逃すしかない。
ただ一人。
最後尾だった女子だけが、後についていった。
ムカデから追いかけられ続けるのは四人になった。
こうなると、もう全員がいつ抜け出すかを考え始める。
ムカデの気を惹く役をいつ降りるか。
このままでは、逃げ切れそうになかったからだ。
ムカデは、その巨体にもかかわらず速度を落としもせずついてきている。
スタミナ切れは期待できそうにない。
「クソ! よろしくやりやがって」
毒づいてリーダーは残りのメンバーを見た。
男ばかりが4人だ。
なにを間違えても、わが身と引き換えにして守ろうとするなんて思えない野郎どもだ。
潮時か。
なんとか逃げる算段を付ける頃合いだ。
つまり、他の奴にムカデを押し付けて、離脱する。
ガシッ!
「あ゛?!」
肩を掴まれた。
サブリーダーが、いい笑顔で顔を寄せてくる。
「まさか、リーダーがトンズラとかないよな?」
「も、もも、もちろんだ! あたりまえだろ!」
「だよなぁ?」
「ソウダトモ!」
お互いに白々しい笑みでの応酬だった。
「オオッと! いけねぇ、足が滑りやがったぁ!」
二人とは関係なく、三人目が声を張り上げる。
故意以外ない動きで、最後の一人に足を払うように蹴りを入れた。
「そいつは、大変だ!」
四人目が足元を狙った三人目の蹴りを躱した。
同時に相手の肩を引き寄せる。
「な?!」
三人目がバランスを崩してよろめいた。
そのままひっくり返る。
「足が滑った不運を恨みな!」
一声かけて四人目が走り去・・・。
「させるかぁー!」
懸命に伸ばした三人目の指が、四人目のズボンに届いた。
ビダン!
足を取られた四人目が垂直に倒れた。
「わりぃな。足が滑った不運のせいなん、ダッ!」
冗談のように言った三人目が、床に接吻した。
圧しつけられたのだ。
ムカデが追いついていた。
「ぐッ! ヴハッ! グボッ!」
ムカデさん自慢の『百足』が連続で頭の上を通り過ぎた。
あとにはボロ雑巾のような『二人』が残された。
仲良く並んで。
混ぜ合うように。
◇
「ああ、やっちまった」
「足の引っ張り合いはよくない、よくないよ」
残った二人が頭を振り合う。
お互いに相手を差し置いて助かりたいと思っている。
そして、どちらも相手がそう考えていると知っている。
目に見えないところでせめぎ合っていた。
長距離走での全力で走りながら、互いの動きに目を光らせている。
「こ、このままじゃ、埒が明かねぇ。どうだ? 恨みっこなしの一発勝負といこうじゃないか」
「どうするってんだ?」
「横道が左右同時にある場所がたまにある。この時、いっせーのせで左右に分かれるんだ」
「ムカデがどっちを追いかけるかの運勝負か?」
「このまま体力消耗するよりかはいいだろ?」
「違いないな」
互いが納得できる提案だった。
どちらかが生き残れる。
二人して自滅するよりはいい。
むろん、どちらも自分こそが生き残ると信じてのことだ。
そして、その時が来る。
「よし、ここだ」
「あばよ!」
二人、合図をして・・・どちらもすっころんだ。
足にロープが巻き付いている。
二人とも、相手の足にロープ(ボーラ)を投げつけていたのだ。
運試しではなく、確実に生き残りたかったらしい。
「テメ! 裏切りやがって!」
「テメェもだろうが!」
言い合いながら、二人はムカデに追い詰められ、バラバラに分かれるのだった。
相手とはもちろん、自分の手足とも。
彼らの輪郭が、舞台の照明から外れていくようだった。
◇
ウィンドウで観覧していたカルマが、爆笑したことは言うまでもない。
涙が出るほど笑った。
でも、目は乾いたままだった
「いい喜劇だった。でも、悲劇も欲しいな」
笑いだけで舞台は成り立たない。
涙と別れも欲しいところだ。
出逢い(危険との)と、笑い(滑稽な命の喪失)だけではスパイスが足りないと思うのだ。
「あ。ラブロマンスはありですか?」
誰かが、『思わず』という響きで口にした。
『妖怪』たちの中の『誰か』の声だったかもしれない。
「悪くないな。愛もまた、命を燃やすにはちょうどいい」
ラブロマンス案は、採用だ。
「ふむ。みんなでよさそうな子探してくれる?」
『誰』が『どんな子』を選ぶのか。
興味深い。
『妖怪』たちは、顔を見合わせて黙り込んだ。
ただ、冷たい指だけが、その冷たさに似合わぬ正確さと速さで動いていた。
冷たい指が動くたび、誰かの目がほんの少しだけ揺れた。
まるで、かつての名前を思い出したかのように。
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