『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
41 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第40話 最前線攻略者たち⑤ ~静かな崩壊、大広間にて~

しおりを挟む
 

 残り二班となった後詰は64階層中央、『大広間』にいた。
 当初『中ボス』がいるものと思われていたが、モンスターはいない。
 謎の空間となっている。
 
 本来は『サブマスター』が陣取るための部屋なのだが、63階層に追いやられていたことで無主の部屋となっているというのが真相。
 だが、彼らには知る機会もない。

 後詰の役目は、主力の速やかな移動を支援するための環境づくりだ。
 周囲のモンスターを粗方駆逐し終えた彼らは、ここで休憩がてら『待機』に入っている。
 主力が戻るまですることがないのだ。

 目的を果たしての凱旋であるにしても。
 不意のトラブルによる撤退であっても。

 「他の奴ら遅くね?」

 「チャットも既読つかねーな」

 「なにしてんのかしら?」

 「ミスってんじゃねーだろうな?」

 「全員? さすがにそれはないでしょうよ」

 「それもそうか」

 最後の予想が一番現状に近いのだが、あり得ないと一蹴された。
 昨日でさえも無傷でできていたことだ。
 一度は攻略した階層である。

 属性の変化があるとはいえ、不覚をとるだろうか?
 一人や二人ならともかく、4パーティ全てとなると考えにくかった。
 
 「Eは宝探しに夢中、Fはお昼寝かもな」
 「それだ!」
 「あとの奴らも似たようなものか」
 「どっかで、お金になる素材の採取でもしているんでしょ。意地汚いんだから!」
 サイテー!
 鼻息を荒くするが、裏返せば「その手があったか」と悔しさが滲んでいる。
 
 「金になる採取ポイントか。そういや近くにもあったな」
 「ウソ! どこ?!」
 男子Aがこぼした言葉に、悔しそうにしていた女子Aが食いついた。

 「ほら、あそこだよ。部屋中糸まみれの」
 「は? あの部屋って奥に宝箱あるだけでしょ?!」
 それも微妙な性能のアイテムが出る宝箱だ。
 
 発見当初には、糸だらけの部屋がスパイ映画のワンシーンを想起させて期待されたが、まるっきりの『ハズレ』宝箱だったのだ。
 一応、何人かで何度も開けてみもした。
 『レア』があるかもしれないと思ったからだ。
 なのに出るものは変わらず。
 『ハズレ』と断定された。

 「あんなもん、高くなんて売れないっての!」
 ふざけてるのか! 女子Aの目が怒りでつり上がった。
 
 「宝箱のことじゃねーよ」
 落ち着けと宥めるように腕を振る。
 
 「周りの糸が実は『レア』だったって話!」
 「糸?」
 あの邪魔ものが?
 女子Aは不審そうだ。

 「極上のナノファイバーなんだと。科宮研(科学的迷宮研究所の略)からの最新報告だそうだ。『コレ』より上質なものが作れるんだとよ」
 『コレ』と襟をつまんで見せる。

 学校指定の学生服のことだ。
 全世界共通、最上位と言われている素材で作られているとされるダンジョン装備である。
 
 「マジ?」
 「おおマジ」
 「くっ、宝箱はブラフってわけ?」
 「そういうことだろ。底意地が悪いよな。ま、ダンジョンなんだから、当然と言えば当然なんだが」
 男子Aが肩をすくめた。

 「回収してくる!」
 シュタ!
 片手をあげ宣言する女子A。
 
 「ショウガナイワネ、ツキアウワ」
 
「あ、アタシも!」
 
「オレモ」
 
「オレモ」
 便乗する者たち。

 「あんたたちだけで行かせるのは不安すぎるわね」
 手を上げた者たちを見回して、腕を組むB班リーダー。

 「ついて行ってやれ」
 あとは任せた!
 思い切り押し付けるA班リーダー。

 「お目付け役も一緒かぁ」
 不満そうに口を尖らせるA子だが、拒否して止められても困るのだろう。
 いそいそと準備を始めた。
 食料などの嵩張る荷物を残して、身軽になって出かけようということだ。
 
 「ささっと行って、とっとと帰るんだからね?!」
 「・・・はーい!」
 敵はもう駆逐してある。
 その確信から、彼女らの言動は軽い。
 お目付け役とされたB班リーダーであってすらも。

   ◇

 「静かになったな」
 「女どもはみんな行っちまったからな」
 6人と6人。
 人数はちょうど半々となっているが、採取に女子が全員参加していた。
 女リーダーが付けられた理由でもあり、彼女が不安だといった理由でもある。
 
 「モンスターが湧くにも、本隊が戻って来るにも、時間あるんだろ?」
「ああ。なにかヘマして逃げてくるとかしないならな。ま、昨日攻略したばかりなんだし、ヘマもないだろ」
 「なら、俺はひと眠りさせてもらうぜ」
 大きく欠伸をして、言ってのける。

 男どももまた、行動が軽率になっていた。
 
『大広間』の暗がりに、尻尾を失くした『沈黙の刃』。
 オオサソリが潜んでいるとも知らずに。
 
『天井』には『静かな破壊者』。
 オオメクジも這っているのだが、これにも気づかずに。

 時を置かず、寝ると宣言した男がイビキをかき始め、しばらくして沈黙した。
 深い、深すぎる眠りについたことに気付いた者はいなかった。

 同じころ、別の男も沈黙していた。
 頭上から、狙い定めて落下してきた『何か』の衝撃で気を失っていたからだ。
 
 大ナメクジがゆっくりと這いより、ヌメヌメした体で口と鼻をふさぐ。
 6人中2人が、音もなく闇に溶けていった。


 「モンスターだ!」
 音はしなかったが、隠蔽できていたわけでもない。
 ナメクジが発見された。
 
 「ちっ、上層のとはいえ、ボスのお出ましか?」
 広い空間を一瞥し、男子Aが皮肉気な笑みを浮かべた。

 違和感のありすぎる構造ではあった。
 長い時間かけて、何度も調べたのもそのためだ。
 「なにもない」という結論だったが、やはり『無意味』ではなかったのだと、そう理解したのである。
 
 完全に誤解だ。
 だが、彼には『真実』なんてどうでもよかった。
 目の前に、一人で倒すにはあまりある敵がいる。
 理由なんて、それこそ無意味だ。

 たった一人で、『フロアボス』と対峙しているのだから。
 仲間の援護もなく。

 「だけどな。勝てないにしても、時間稼ぎぐらいはできるんだぜ!」
 逃げるという案は浮かんだ瞬間に却下した。
 このナメクジの移動速度が、見た目の割に速いことは有名だった。
 的確な判断だと言っていいだろう。
 
 「『真空牙』!」

 短槍に風を纏わせての遠距離攻撃。
 距離を置いての先制という意味とともに、周囲にいる仲間への警告と援護要請だ。

 ほんの少し持ちこたえていれば、五人は援護に来てくれる。
 キツイが、戦えないこともない。
 そう考えた。
 6人中2人が既に亡くなっているなど、思いもしなかったのだ。

 「無事か!」
 「待たせた!」
 ほどなく、二人が駆けつけてきた。
 
  「囲め! 遠距離から削っていこう!」
 まともに戦っては不利。
 可能な限り距離を置いて、間合いの外から耐力を削る。
 そんな作戦だ。

 「「おお!」」
 二人が呼応し、戦いが始まった。

 この時、もう一人。
 A班リーダーが駆けつけようとしていたが、闇に潜んだサソリと戯れていて、参加できなかった。

 結果を言えば、ナメクジは倒れた。
 弾力のある体組織のおかげで打撃と魔法には強いが、この体には斬撃が有効だった。
 三方から囲んで斬撃を叩き込めば、ボスといえどハメられる。

 切り刻んで灰にした。
 ただ、被害は深刻だった。

 主要な攻撃手段である『粘液噴射』によって腐食性の粘液をまき散らされて、装備が使い物にならなくなるほど損傷した。
 地面を滑るように高速移動する『体当たりスライド』での体当たりで、ダメージを蓄積された。見た目以上に重く、衝撃力も強いのだ。
 追い詰めたところで使われる『分裂突撃』。自分の体を小さく分裂させての、包囲攻撃にも少なからぬ被害を受けている。

「ちっくしょうが!」

 男子Aが、地面を叩きつけた。

 救援に来てくれた仲間二人は、体を休めている。
 肺も、心臓も、動かさずに。

「リーダーはなにしてやがる!?」

 ナメクジ相手なら、最も頼れるはずだった人物の不参加に憤っていた。
 ボロボロの体を引きずって、リーダーを探し回る。


 「リー・・・ダー?」

 リーダーは見つかった。
 なぜか、体が複数に分かれていたけれど。

 その一片が、折れた剣を握り締めたままサソリと向き合っている。
 そばには、尻尾だけでなく、ハサミの片方をも失った『オオサソリ』がいた。
 残ったハサミで、今もリーダーの分割に勤しんでいる。

 切れ味鋭い斬撃が自慢のリーダーだったが、サソリの甲殻には歯が立たなかったようだ。
 サソリの甲殻は、斬るより叩く方が効く。
 『斬る』ことに特化したリーダーには、相性最悪の敵だったことだろう。

 「ちく・・・しょう・・・が!」

 槍を構え、跳び上がる。
 サソリの背中に乗って突き刺した。
 狙い違わず、胴体の真ん中を貫いている。
 サソリの心臓が、モンスターの『核』があるポイントだった。
 
 サソリもまた、灰になる。
 しっかりと仇を討って見せたのだ。

 ただ、彼の体もまた、休みを欲していた。
 彼は、自分の血の上に座り込んだ。
 槍を握ったまま、まるで祈るように目を閉じていた。

 そして、二度と立つことはなかった。
 彼の槍は、祈りのように突き刺さった。
 誰かのためではなく、自分の誇りのために。

 後詰は残り1班、6人となった。



 糸の部屋へ向かう彼女たちは、まだ知らなかった。
 その糸が、何を織り上げるのかを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...