『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
108 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第106話 残された探索者たち③ ~記憶を導く~

しおりを挟む
  

 ◇元B班年少の子(記憶の灯)◇

 彼女は、油の染みを見つめたまま、ぽつりと呟いた。

「・・・ボクも、呼ばれたことがある。手を引いてくれた人がいた。・・・でも、今は、もういない」

 誰もが、彼女の言葉に耳を傾ける。
 それは、語りというより、記憶の断片のようだった。

「その人は、ボクより年上で、いつも前を歩いてた。迷宮の中でも、怖い時でも、ずっと手を引いてくれてた」

 彼女の声は、静かだった。
 でも、その静けさの中に、ぽっかりと空いた穴のような喪失感があった。

「ある日、ボクが転んだ時、すぐに戻ってきてくれた。・・・でも、それが、最後だった」

 沈黙の少女が、彼女の手を見つめた。

「その人は、強かったから役目があった。・・・それで、帰ってこなかった」

 彼女は、拳を握った。

「ボクは、何もできなかった。泣くことしかできなかった。・・・でも、あの人は、最後まで笑ってた」

 沈黙が落ちる。
 冷静な少女が、眼鏡を拭いていた。

「・・・ボク、今でも、手を引かれてる気がする。誰もいないのに、前に進めるのは・・・その人が、まだ、ボクの手を握ってるからだと思う」

 彼女のスマホが、静かに光った。
 誰かが、そっと自分の手を握りしめた。

『語り終了得点:4/5』

 彼女は、そっと手を開いた。
 そこには、何もなかった。
 でも、彼女の目には、誰かの手が、まだそこにあるように見えていた。

 違う。

 誰かが息を呑んだ。
 白くて細い腕が、するりと影の中へ消えていった。
 消える直前、その腕は年少の少女の頭を撫でたようだった。


 語り終了得点:4/5


   ◇旧先駆けB班のリーダー(導きの灯)◇

 場が静まり返る。
 スマホの画面には、変わらず『語り終了得点:4/5』の文字。

 誰かが、ぽつりと呟く。

「・・・あとひとり。リーダーが語れば、終わる」

 でも、彼女は口を開かない。
 その胸の奥で、ずっと響いていた言葉があった。


「あなたが、生き残った者たちを導きなさい。私には、もうその資格がない」


 それは、真梨華が姿を消す寸前に言った言葉だった。
 彼女は、ずっと自問し続けていた。

「私に、その資格はあるのか?」

 語ることは、選ばれること。
 選ばれることは、導くこと。
 でも、彼女は、誰かを選ぶことが怖かった。

 沈黙の灯が語った。
 理性の灯が語った。
 記憶の灯が語った。
 それぞれの痛みが、彼女の中に積もっていく。

「・・・真梨華は、強かった。だから、選べた。だから、背負った。・・・でも、私は、選べなかった」

 彼女は、拳を握った。
 彼女は、誰の視線にも応えず、ただスマホを見つめていた。
 画面には、変わらず『語り終了得点:4/5』の文字。

「誰かを守るために、誰かを犠牲にする。それが『導き』なら、私はそんな資格、いらない」

 誰もが、彼女の言葉に耳を傾けていた。
 でも、誰も口を開かなかった。

「でも・・・違う。みんな、語った。迷って、苦しんで、それでも語った」

 彼女は、顔を上げた。

「導くって、選ぶことじゃない。背負うことでもない。・・・ただ、前に進むこと。誰かの声を、手を、痛みを、忘れずに」

「私は、進む。迷っても、怖くても。・・・それが、私の『導き』だと思うから」
 それは『犠牲』を選ばない覚悟。
 それは『自分』を犠牲にする覚悟。

 進む先で何かがあれば、最初につまずくのは自分。
 そこに『犠牲』が必要なら、使われるのは『自分』。
『選ばない』という『選択』とはそういうこと。

 その言葉が落ちた瞬間、彼女のスマホが静かに光った。

『語り終了得点:5/5』

 場の空気が、静かに震えた。
 誰かのスマホに、新たな通知が届く。
 スマホが淡い青に光り、微かな振動が指先をくすぐった。


『システムチャット:更新』

『運命の選択権、発動準備完了』


 彼女は、画面を見つめながら、そっと呟いた。

「・・・真梨華。私は、進んでいるよ」

 

『語り終了得点:5/5』

 その文字が、全員のスマホに表示された瞬間、場の空気が変わった。

 迷宮の壁が、わずかに震える。
 誰かがそっと周囲をうかがった。
 誰かが、スマホを見つめたまま動けなくなる。

 そして——

 リーダーのスマホが、青く光った。

 それは、淡く、静かで、でも確かに『違う』色だった。
 画面はゆっくりと消え、代わりに彼女の瞳が、青く淡く輝き始める。

「・・・なに、これ・・・?」

 誰かが呟いた。
 その声に、誰も答えなかった。

 迷宮の壁に、青い火が灯る。
 ぽつり、ぽつりと、語りの場を囲むように。
 まるで、彼女の語りが空間そのものを染めていくようだった。

 彼女は、静かに立ち上がる。
 その背後に、青い灯が揺れる。
 誰かが、震える声で言った。

「語りの終わりに現れる者・・・え? これ『百物語』なの?」

 怪談なんてしてないのに!
 そう非難する響きがあった。
 同時に納得の和音が伝わる。

 今、自分たちが語っていた内容は、『怪談』より怖い。
 なにより、『この場はそういう場』という認識と完全に和合している。

 彼女は、振り返らなかった。
 ただ、前を見つめていた。
 正確には、脳内のチャット画面に意識が向いている。

『システムチャット』にメッセージが羅列されていたのだ。

『【語りの最後を担いし者】の称号が与えられます』
『選択権付与、【妖怪:青行灯】』

『妖怪化を受け入れますか? 【YES/NO】』

(もしYESを選んだら、もう人間には戻れないかもしれない。だけど・・・)

「私は、語りを終えた。だから、語りを始める者になる」

 その声は、静かで、澄んでいた。
 でも、誰もがその言葉の重さを感じていた。

「どういうこと?」

 年少の子が、ぽつりと呟いた。
 彼女は、少しだけ微笑んだ。

「ただ、前に進むこと。それが・・・私の『導き』」

 それは、たったいま語られた覚悟。

「私たちは、地上を目指す。それは変わらない」

 誰かが地上に出て、『変化』を知らせなくてはならない。
 それは、自分たちであるべき。

 彼女の言葉に、誰かが小さく頷いた。
 そして、ぽつりと呟いた。

「・・・進まなきゃ」

 その声に、青い火が揺れた。
 語りの場が、再び動き始める。

『青行灯』となった彼女は、静かにその中心に立っていた。 
 青行灯は、語られた記憶を灯す者。
 忘れられた声を、静かに照らす存在。

 語りの導き手として。
 語りの終着点として。
 そして、語りの始まりとして。

 迷宮の空気が、静かに震えた。
 語りの灯が、次の者へと渡されていく。

『話す』ことではなく『進む』ことによって。
『語り』とは音ではないから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...