『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
110 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第108話  観客のいない観客席 ~堕落した裏方たち~

しおりを挟む
  

 ◇即興劇を台本に起こす者◇

 その教師は、迷宮の隅に座り、タブレットを操作している。
 指は震えていない。
 目は冷静だが、どこか虚ろ。
 彼は、教師としての責任を果たすために記録している――そう信じている。

「記録しておけば、責任は果たしたことになる・・・はずだ」

 でも、その言葉には自分への言い訳が混じっている。
『生徒』の、『妖怪たち』の、問いに答えることが怖い。
 答えれば、自分の『加担』が明るみに出る。
 だから、記録に逃げる。

 その教師は、かつて『問いを持つことの大切さ』を教えていた。
 作文指導、発表会、討論――—生徒に「言葉の力」を教えていた。
 でも、カルマの事件のとき、彼は黙っていた。
 それが、今も彼の胸を締めつけている。

「問いを持つことは、自分にも相手にも責任を持つことだ。・・・だから、俺は問いを持てない、答えられれない」

 彼は、自分が『語る資格を失った』と判断している。
 でも、記録することで、語る者の背中を支えようとしている。
 
「俺は問わない、答えない、ただ・・・証明する。ここに、『誰か』いた、と」

 彼は、最後まで『記録』し続けた。
 いつ『終わった』のか。
 知る者は少ない。

 ただ、カルマの呟きが残るのみだ。

「台本の但し書きは消さない。上書きするだけだ」

 筋書だけで舞台はできない。
 動きの記録だけでは演じられない。
 演出があって、舞台になる。

 最後の一文は、途中で途切れていた。
『ここに、いたのは——』。


『記録』は、誰かの『演出』を待っている。


 ◇元照明さん◇

 彼女は、教室の隅に膝をつき、手を合わせている。
 目は閉じられ、声はかすれている。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・」 
 その言葉は、誰にも届かない。
 誰に向けたものかも、彼女自身わかっていない。

 彼女は、かつて『心のケア』を担当していた教師だった。
 生徒の悩みに耳を傾け、言葉を選び、寄り添っていた。
 でも、カルマの事件のとき、彼女は沈黙した。

「何も言えなかった。何もできなかった」
 その後悔が、彼女を“語れない者”に変えた。

「謝ることで、何かが戻るなら・・・」

「誰に、何を、謝っているの?」
 問いは、迷宮の壁に消えた。
 彼女が答えを持っていないことは明らかだった。

 漠然と何かに謝罪している『ような行動』をとっているだけだった。
 もう、カルマのことも頭にはない。
 ただ、『祈る』ことで無心になれる。
 そんな自分の心の迷路、その奥に引きこもっているだけだ。

『鬼』が背中から抱きしめた。
 彼女は小さく息を吐いて、横になった。


 暗転。
 彼女の祈りは、舞台の奥へと沈んでいった。


『鬼』は目をつぶっていた。
 だけど、その腕の感触を『鬼』は決して忘れないだろう。

 かつては、生徒たちに出口は無理でも、歩き方は伝えられていたはずだった。
 だけど、今の彼女の手に、足元を照らす明りはない。
 迷路から解放された彼女の魂がどこへ行くか、それは迷宮だけが知っている。

 ◇パントマイム◇

 彼は、教室の中央に立っている・・・つもりになっている。
 存在しない黒板に向かって、ペンを持ち、何かを書こうとしている。
 でも、手は止まる。

「次のテストでは・・・いや、テストはしない、何を試せばいいかわからない・・・」
 その言葉は、語りのようで語りではない。
 彼は、かつての『教師』という役割を演じ続けているだけ。

 彼は、かつて『厳格な指導』を信条としていた。
 ルール、評価、指導――それが教育だと信じていた。
 でも、カルマの事件で、その『教育の形』が崩れた。
 彼はそれを認められず、崩れた記憶の中で演技を続けている。

「教師であることが、俺のすべてだった。・・・それ以外、何もない」

 彼の目には映っていた。
 妖怪たちが同僚に歩み寄る姿が。
 なのに、何も見てはいなかった。
 彼の目には、『一生懸命に勉学に励む愛すべき生徒たち』しか映らない。

 幕は降りない。
 彼だけが、舞台に残された。


 のちに、木造校舎で授業を続ける教師のうわさが広がる。
 ただ、その『名前』は誰も知らない。


 ◇大道具◇

 彼は、迷宮の片隅に座っている。
 目を閉じ、呼吸は浅く、動きはない。

 妖怪たちは彼に問いを投げない。
 カルマも、彼に目を向けない。

 それは、語りの場が彼を『語る対象』として認識していないことの証。
 迷宮は、語りの場。
 語られなかった者は、迷宮の記憶に溶け込む。

 でも、沈黙を選んだ者は、記憶としても残らない。
 ただ、空間の一部として、静かに溶けていく。

 彼は消える。
 彼が置いた道具は残された。


「・・・」
 木造校舎のダンジョン。
 その一角に、巨石が鎮座する部屋がある。
 他にこれといった特徴のない部屋だ。
 ただ、時折、『この岩が話し始めるときがある』そんな話を聞くことがある・・・らしい。


「観客(生徒)のいない役者(教師)か、みじめなものだな」
 カルマが、総評を口にした。

「誰も見ていないのに、演じ続ける。・・・それが、彼らの最後の『役』だったんだね」
  悠の声は、誰にも届かない舞台に落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

処理中です...