『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
165 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第47話 沢辺みどりの独白 ~制服と笑顔と、私の名前~

しおりを挟む
 
 本当に人間ではなくなってしまった。
 殺人の共謀に加担した罰なのかな?

 天罰ってやつ?
 復讐で殺されなかっただけ、ありがたいと思うべき?
 開きっぱなしのウィンドウには、いまも魔力を吸われ続けているみんながいる。
 
 そうだね。
 あれよりはマシなんだよね。

 幸運なんだよね。
 自分に言い聞かせて、マスターに付き従う。
 それが、これからの私。
 だって・・・。

「かなりイケてる。可愛いよ!」
 その言葉が、胸の奥に落ちた。

 人間じゃなくなった。
 妖怪になった。
 それでも——いや、だからこそ。

 今の私を、見てくれた。
 今の私を、褒めてくれた。

 制服の袖を、そっと握る。
 その手は、もう人間の温もりを持っていない。
 でも、冷たくもなかった。
 それは、どこか『生きている』とは違う、別の命の感触だった。

 これは、もう『人間の服』じゃない。
 妖怪になった私が、着ている『私の服』だ。

 それが、嬉しかった。
 こんな気持ち、忘れてた。

 だから、笑えた。
 だから、足踏みした。

 それは、妖怪になった私の、最初の喜びだった。
 制服を着るって嬉しいことだったんだ・・・。
 ただの『装備品』になってたなぁ。

「ん?」
 制服の袖を握ったまま、ふと、思い出す。

 ——あのとき。
 カルマを、爆弾として使い捨てる計画を聞いたとき。
 私は、何も言わなかった。

 でも、あの沈黙が、誰かの命を奪った。
 その重さが、今も制服の裾に絡みついている気がする。
 洗っても、落ちない染みのように。

 それが『正しい』と思ってた。
 それが『人間』として『探索者』としての判断だと思ってた。

 でも今、こうして妖怪になって。
  制服を着て。
「可愛いよ」って言われて。
 胸の奥が、あったかくなった。

 あれ?
 どちらが私?

 あのときの、黙って従った『人間の私』?
 それとも今、笑ってしまった『妖怪の私』?

 どちらが正しいの?
 わからない。

 でも、今の私は、少なくとも、カルマに「可愛い」って言ってもらえた。
 それだけは、確かだ。


「ああ、そうか」
 わかった。

 わたしが『可愛い』理由。
 答えは単純。
 すでに出てた。

 だって、『笑えてた』!
『探索者』として活動し始めてから、笑ったことなんてある?
『嗤った』ことはある。
 でも『笑った』ことはない。

 功績を上げて。
 儲かって。
 皆で騒いだあの日。

『笑って見せた』ことはある。
 でも、『笑えてた』ことはない。

 それが、さっきは自然に『笑えて』た。
 意識して作った『笑顔』じゃない。
 『笑った』からできた顔だった。

 だから、『可愛い』って言ってもらえる顔になってたんだ!
 私は『妖怪』の方が『見てもらえる』んだ。

 私は『妖怪』。
 私は『河童』。
 私は『沢辺みどり』。
 
 私はカルマの・・・なんだろ?
 仲間?
 友達?
 それとも・・・もっと特別な何か?

 わかんないけど、『可愛い』って言ってもらえる存在。
 『笑顔』の無かった『仁科悠』はもういらない。
 カルマを、『仲間』を、死地に向かわせることを認めてしまうような、そんな『人間』はいらない。

 わかっちゃった。
 『本当はわかっちゃダメ』なのかもしれないけど。
 カルマが『人間』を拒み否定するのは、この為なのだろう。

 『私』は一歩踏み出した。
 
 「次は誰?」
 
『学園祭』をするのなら、もっと人——んーん『妖怪』を増やさなきゃ!
 その子もきっと、笑えるようになる!
 だって、私も、ずっと笑えなかったから。

 胸元で赤いリボンが揺れている。
 動いているのかよくわからないけど、心臓が高鳴っているような気がする。

 この制服が、誰かの涙を笑顔に変える日が来る。
 そう信じてる。
 
『制服』って所属する学校を示すもの。
 学友との連帯感の象徴。
 これから、この制服は私たち『妖怪』の『誇り』になるんだ!

 制服を着るって、嬉しいことだったんだ・・・。
 でも、今のこれは、ただの布じゃない。

 これは、私が『人間だった』ことを忘れないための、最後の証。
 そして、『妖怪として生きる』ことを選んだ、最初の証。

「この制服が、私たちの旗になる」
 そう思った瞬間、ふと気になった。

「でも、もう少しだけ・・・私らしさを入れてもいいのかな?」
 完全に、元の『学校指定制服』なのだ。

『仁科悠』なら、それでいいけど。
『沢辺みどり』には少しだけ、窮屈に思える。

 袖にワンポイントの刺繍とか、リボンの色を少し変えるとか。
 それだけで、もっと『私の制服』になる気がした。

 言ってもいいかな?
 怒られる?

 ちょっとためらった。
 だけど!

『可愛いよ』に勇気をもらう。

「あのね、制服のデザインって変えてもいい?」
 せっかく作ってくれた制服が、無駄になるって言われちゃう?

「でざいん?」
 不思議そうな顔をされた。
 拒否ではないことに、ほっとする。

「・・・あー、そうか」
 腕を組んで、悩まれてしまった。
 悩ませるつもりはなかったのだけど・・・。

「そういうのよくわからないから任せるよ。ただ・・・」
 私の胸元に視線が来た。
 ドキッとする。

「うん。校章のデザインは確かに変えないとだね」
「あ、ああ。うん」
 制服の刺繡を見ていたのか。

 でも、そうだ。
『あの』学校の校章が付いたままはおかしい。

 でも・・・。

「うー。校章の変更は、私もわかんない」
 リボンの色とかを変えるぐらいならできるけど、校章のデザインとかは無理だ。

「これから何体か『妖怪』を作ることになるだろうし、そいつと相談するといいよ」

 困っていると、そう言ってくれた。
 そうだ、これは私『たち』の制服なのだ。

 みんなで着られる。
 みんなが着たい。
 そんな制服でないと!

「うん。そうするね」
 だけど・・・。

「なにかないの? こういうのがいいって要望」
 スカートの丈は短くとか。
 胸元開けてとかありそうなんだけど。
 男の子って、そういうの好きだったりしない?
 偏見かな?

「・・・・・・」
 黙られた。
 あるんだ!

「どういうの? 教えて!」
 思いきって顔を近づけた。
 近すぎて自分まで赤面しそうだけど、耐える。

「・・・大正ロマン。女学生制服・・・」
「たいしょう?」
 首を傾げた。

 でも。
 わかった!

「袴女子だ!」
 確かに可愛いかも!

 妖怪女子っぽい!
 それ、すごくいい!

「考えてみるね!」
「あ、ああ。うん」

 視線を逸らして、指先で頬を搔いてる。
 なんだろ?
 すごく近くなったって感じがする!

 制服を作ろう。
 きっと素敵になれる。

 みんなで作る制服。
 みんなで着る制服。

 それが、迷宮の中で、私たちが『ここにいる』って証になる。
 その制服があれば、私はもう一度、誰かと並んで歩ける気がした。

 仁科悠は、笑えなかった。
 でも、あの子がいたから、今の私がいる。
 この制服を着て、私は『ずっと』笑える自分になる!

 ずっと『愛される』私でいる!
『私』のために!
 『カルマ』のために!

 その誓いが、迷宮の空気を、ほんの少しだけ、柔らかくした。

 それが、旧校舎の空気をまた、ほんの少し揺らしていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...