『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第55話 妖怪制作② ~テケテケ~ 後編

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『私』は今、地面に仰向けで横たわっている。
 そう言っていいのだろうか?

 へその上から下が無くなった身体だ。
 驚くほど小さい。

 でも。
 腕で這うことになるのに、胸が邪魔ね。
 もう少し大きくなってほしいって思ってたはずなのに。
 今はなくなってほしい。
 
 どうせ体が半分になったんだ。
 これも切ってしまえばいいのに。
 でも、それはもういい。


「ここなら、もう苦しまなくていいのね」
 これが、『妖怪』としての最初の言葉だった。

 「そうだね。苦しむ必要はないね」
 『マスター』が頷いた。
 
 腹から下がないのは仕様になった。
 痛みなんてないはずだ。
 『妖怪』には苦痛も悲しみも学校もないのだから、と。

 そう言って笑いかけてくる。
 横には『彼女』もいて、ガラス玉のような目を向けてきていた。

 そして・・・そして?
 
 ありえないことに寒気がした。
 『彼女』の腰にある・・・ううん。
 『いる』、あの虫は何?

 白いふわふわな、ストラップみたいな『アレ』は何?!

 怖気が走る。
 コワい!

 その虫が、フワリと飛んだ。
 ゆっくりと、下りてきて・・・地面に投げ出されているモノにとまった。


『ソレ』が、ふわりと舞い降りたその瞬間。
 気が付いた。
『アレ』は『彼』なのだと。

 あの足。
 私の足を褒めてくれていた。

 陽の光を跳ね返す、しなやかな筋肉。
 走るたびに空気を裂く、誇りある形。

 そんな風に褒められたから、笑って見せつけていた。
 あの足。

 彼の視線が、どれほど熱を持っていたか。
 わたしは覚えている。

 でも今は違う。
 血に濡れ、動かないその足。
 まるで『供物』のように横たわっている足。
 そこで、『彼』は翅を休めている。

「食べてしまいたい」
 そんな言葉が、不意に思い出された。

 あれは、比喩ではなかった。
 本気だったんだ。

 彼の体は雪に包またように美しい。
 でも、心は飢えていたのだ。

 わたしの命の残り香。
 生きていた証。

 彼は抗い得ず吸い寄せられている。
 その足を、わたしを、自分のモノにしようとしている。

 雪虫は、そっと足に口づけた。
 それは、愛でも、哀れみでもない。
 ただの、渇望だった。

 あれは、わたしの足。
 誰よりも速く走れた。
 誰よりも高く跳べた。
 誰よりも、彼に見せたかった。

 なのに。
 今、あの虫が、わたしの足に顔を埋めている。

 音がする。

 しゃくしゃくと、柔らかい肉を噛む音。

 わたしは、彼がかつて言った言葉を、そっと思い出していた。
「君の足、風みたいだね」。
 その言葉が、 今、しゃくしゃくと消えていく。

 わたしは叫べない。
『人間』ではないから。

『アレ』と同じ。
 化け物だから。

 でも、心が叫んでる。
「やめて」って。

「それは、わたしの誇り、わたしの生きた証よ」って。
 でも、彼は止まらない。

 雪虫は、わたしの足を喰らう。
 まるで『愛してる』って言ってるみたいな顔で。

 そばで、『雪女』が何も言わず。
 ただ静かにその光景を見つめていた。
『食べるほどに求められる』ことに、嫉妬めいた気持ちがあったのかもしれない。


 気持ち悪い。
 そして、哀しい。

 わたしの足が、誰かの欲望で消えていく。
 生きていた証が消えていくような感覚。

 あれは、わたしの足。
 間違いない。
 膝の傷も、ふくらはぎの筋肉の形も、全部覚えてる。

 走るたびに風を切って、彼に褒められた。
 心が崩れていく音がする。

 わたしは、『妖怪』になった。
 足は『人間』のまま葬られるのね。
 食べられることで・・・。



「テケテケの完成です!」
『ダンジョンマスター』がそう告げた。

 その言葉が、 私の耳に届いたとき、
 一瞬だけ、 心が叫んだ。

『違う』って。
 でも、 声は出なかった。
 その声は、雪の下に沈んでいった。
 もう、 人間じゃないから。

 私の名は『テケテケ』となった。

 ——と思ったんだけど・・・?

「んー・・・『園下ひろ』、かな?」
 名前を貰えた。

『園下ひろ』。
『園』はもともとの名前からかな?

 で、『下』はなんとなくわかるかな?

『ひろ』は何だろう?
 空間が『広く』空いているから?

 わからない。
 でも優しい響き。

 私は『園下ひろ』になった。

   ◇

「ひろちゃん、ひろちゃん」
 カルマが背を向けると、ゆ・・・しらゆきと誰かが寄ってきた。

「絵は得意?」
「え? えって、絵?」
 下手なダジャレみたいな会話になった。

 へそから下がない体なのに、突然和まされた。
 なに、この仕打ち?

 だけど・・・。

 私は無言で、地面に絵を描いた。
 そばに落ちていた何か細い棒で。

「・・・ちゃぶ台?」
 名前を知らない子が首を傾げる。

「・・・豚」
 端的に答えて棒を投げ捨てた。

「ああ・・・」
 視線を泳がせている。

「ぷふっ!」
 すまし顔をしていたしらゆきまで噴き出している。
 白い手で口を押さえて。

 ぷくっ。
 ほほを膨らませてしまった。
 期待に沿えなかったのだろうが、書かせたのは彼女たちなのに。

「ふふっーー」
 思わず笑った。

 こんな姿になったのに。
『日常』が戻ってきた。
 何年かぶりに。

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