『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第74話 最前線攻略者たち④ ~光の中でほどける輪郭~ 前編

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 後詰が、ひとつ、またひとつと潰されていく。
 カルマの視線が、次の標的を捉えた。

 F班。
 物資輸送を担う、最も軽んじられた班。

 探索者の中でも最下層。
 戦うことも、発見することもない。
 ただ、荷物を運ぶだけの存在。

 それでも、彼らは必要とされた。
 ――書類の中で、だけ。

 ダンジョン攻略は国家主導の公的事業。
「子どもたちを危険に晒すな」と叫ぶ団体への、ただの言い訳。
「安全対策は万全です」と胸を張るための、飾り。
 そのために、F班は存在していた。

 討伐計画書に名前を載せた以上、動かさなければならない。
 動かしたという実績と、記録が必要だ。
 だから、彼らは今日も歩く。
 誰にも望まれず、誰にも期待されず、ただ「いた」と証明するために。

 それが、F班の全てだった。

    ◆37階層の追憶◆

「ほらよ。そこ置いとくから、勝手にやっとけ」
「広げられると邪魔なんだよ、マジで」

 ドン、と無造作に床へ落とされたアイテムボックス。
 中身の確認も、仕分けも、全部カルマの仕事。

 誰も手伝わない。
 誰も礼を言わない。
 それが、いつものことだった。

「予備の武器って言ってもさ、何でもいいわけじゃねぇんだよ!」
「回復ポーションは? 傷用じゃなくて、状態異常のやつ! わかってんの?」
「肉ばっかで飽きたんだよ! 魚! 魚素材どこだよ!」

 次々に押し寄せる要求。
 自分で探すのは面倒くさい。
 でも、文句を言うのは楽しいらしい。

「早くしろよ、ノロマ」
「お前、何のためにいるんだよ?」
「ほんと、邪魔なだけだな。いっそ消えてくれよ」

 その言葉に、カルマの手が一瞬止まる。
 指先がかすかに震えた。

 罵声は、もう慣れたはずだった。
 けれど、慣れたつもりでいただけだった。

 耳を塞ぎたくても、塞げない。
 言葉は、音としてではなく、意味として突き刺さる。
「役立たず」――その一言が、胸の奥に沈んでいく。
 静かに、確実に、心を削っていく。

 ポーションで癒せるのは、肉体だけだ。
 心の傷は、消えない。
 すり減ったまま、ひび割れたまま、ただ黙って作業を続ける。

    (回想終わり)

「・・・そういうことだったのか」

 やたらと刺々しかった理由が、いまになってようやく腑に落ちた。
 俯瞰で見ると、視野が広がるようだ。

 危険はない。
 けれど、精神はすでに限界だったのだろう。
 誰にも必要とされず、ただの飾りとして歩かされる。
 そんな日々が、心をじわじわと腐らせていく。

「・・・でもさ、それで他人に牙を剥いていい理由にはならないよね」

 痛みを知っているからこそ、許せない。
 自分がどれだけ耐えてきたか、彼らは知らない。
 知ろうともしない。

 同情なんて、するだけ無駄だ。
 もう、とうに愛想は尽きている。

 沈黙の中、ふと浮かんだ疑問が、胸の奥を揺らした。

「・・・役に立つって、なんだったんだろうな?」

 誰かのために動くこと?
 黙って耐えること?
 どちらも、もう十分すぎるほどやった。

「ああ、両方だよ」

 答えは、すでに自分の中にあった。
 そして、それを体現してくれる存在も。

『役立たず』ではない『彼ら』なら。
 カルマのために働き、命令に従い、黙って耐えてくれる。
 たとえ、どんな姿に変えられても。

「次は・・・誰にしようか」

 問いかけるような声に、迷いはなかった。
 決意は、すでに水底のように澄んでいた。

 傍らでは、白く冷たい指が、迷いなくコマンドを叩いている。
 蒼い河童が、濁った水面を揺らしながら、にやりと笑う。
 赤い舌が、ぬめりを残して地を這い、 茶色い泥の腕が、まだ見ぬ獲物を、静かに、確実に、手招いていた。

 ◇現在・・・ウィンドゥ越しの観察◇

 F班が、通路を進んでいる。
 モンスターはすでに他のパーティが掃討済み。
 周囲に敵の気配はない。
 本隊との距離も、縮まることはない。
 だから、歩みは遅い。
 気も、抜けきっていた。

「・・・ダリィな」
「言うなって。余計にダルくなる」
「俺ら、何してんだっけ?」
「レイド中だろ」
「嘘つけよ。こんなの、ただの運搬作業じゃねぇか」

 誰もが、心のどこかで思っていた。
 これは戦いじゃない。
 ただの、荷物運びだ。

「俺たちは人型ドローンだ。荷物積まれて、黙って歩くだけ」
 リーダーが、笑いもせずに言い放つ。
 その言葉に、空気が一瞬ざわついた。

「ロボットかよ!」
 突然、ひとりが声を荒げた。
 沈んでいた感情が、いきなり爆ぜる。

「頭、悪すぎんだろ!」
 苛立ちが、怒鳴り声に変わる。

「爆弾にされるよりマシだろ! 頭吹き飛ばされたいのかよ!?」
 リーダーも、堪えきれずに怒鳴り返す。
 声が通路に反響する。

 ――気が緩んでいたんじゃない。
 緩めていなければ、壊れてしまうからだ。
 張り詰めたままでは、心が持たない。

「頭だけじゃねぇ・・・全部、消された奴もいるんだぞ」
 リーダーの声が、低く、重く響く。

「ダラダラ運べてることに感謝しろ。あの荷物を積んだ奴は、もういないんだ」

 沈黙。
 空気が凍りつく。
 さっきまでの軽口が、嘘のように消えた。

「・・・それは・・・」
 誰かが口を開きかけて、すぐに閉じる。
 言ったら終わりだ。
 全員、それを知っていた。

 後ろめたさが、ようやく顔を出す。
 けれど――

 カルマの心は、冷えたままだった。

「・・・だから、何?」

 いまさらだ。
 遅すぎた。
 何もかもが。
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