『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第83話 最前線攻略者たち⑤ ~静かな崩壊、大広間にて~ 後編

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「静かになったな」

「女どもはみんな行っちまったからな」

 6人と6人。
 人数はちょうど半々だが、採取に向かったのは女子全員プラス男子だ。
 その軽率さに、誰も疑問を抱かなかった。
 女リーダーが同行したのも、彼女自身が『何か』を感じ取っていたからかもしれない。

「モンスターが湧くにも、本隊が戻ってくるにも、時間あるんだろ?」

「ああ。なにかヘマして逃げてくるとかしないならな。ま、昨日攻略したばかりなんだし、ヘマもないだろ」

「なら、俺はひと眠りさせてもらうぜ」

 大きな欠伸とともに、男が床にごろんと横たわる。
 その音が、やけに大きく響いた。
 広すぎる空間に、音が吸い込まれていく。

 男たちの気配も、どこか緩んでいた。
 警戒心は、すでに薄れていた。

『大広間』の暗がりに、尻尾を失くした『沈黙の刃』―― オオサソリが潜んでいるとも知らずに。

『天井』には、『静かな破壊者』――オオメクジが、音もなく這っていた。

 時を置かず、眠ると宣言した男がイビキをかき始め、そして、しばらくして――沈黙した。

 深い、深すぎる眠り。
 それが『永遠』であることに、誰も気づかない。

 同じころ、別の男も沈黙していた。
 頭上から落ちてきた『何か』の衝撃で、意識を手放していた。

 大ナメクジが、ゆっくりと這い寄る。
 そのヌメる体が、口と鼻を覆っていく。
 呼吸が、音もなく奪われていく。

 6人中2人が、音もなく、闇に溶けていった。



 「モンスターだ!」
 音はしなかったが、隠蔽できていたわけでもない。
 ナメクジが発見された。
 
 「ちっ、上層のとはいえ、ボスのお出ましか?」
 広い空間を一瞥し、エンタが皮肉気な笑みを浮かべた。

 違和感のありすぎる構造ではあった。
 長い時間かけて、何度も調べたのもそのためだ。
 「なにもない」という結論だったが、やはり『無意味』ではなかったのだと、そう理解したのである。
 
 完全に誤解だ。
 だが、彼には『真実』なんてどうでもよかった。
 目の前に、一人で倒すにはあまりある敵がいる。
 理由なんて、それこそ無意味だ。

 たった一人で、『フロアボス』と対峙しているのだから。
 仲間の援護もなく。

 「だけどな。勝てないにしても、時間稼ぎぐらいはできるんだぜ!」
 逃げるという案は浮かんだ瞬間に却下した。
 このナメクジの移動速度が、見た目の割に速いことは有名だった。
 的確な判断だと言っていいだろう。
 
 「『真空牙』!」

 短槍に風を纏わせての遠距離攻撃。
 距離を置いての先制という意味とともに、周囲にいる仲間への警告と援護要請だ。

 ほんの少し持ちこたえていれば、五人は援護に来てくれる。
 キツイが、戦えないこともない。
 そう考えた。
 6人中2人が既に亡くなっているなど、思いもしなかったのだ。

 「無事か!」
 「待たせた!」
 ほどなく、二人が駆けつけてきた。
 
  「囲め! 遠距離から削っていこう!」
 まともに戦っては不利。
 可能な限り距離を置いて、間合いの外から耐力を削る。
 そんな作戦だ。

 「「おお!」」
 二人が呼応し、戦いが始まった。

 この時、もう一人。
 オオタが駆けつけようとしていたが、闇に潜んだサソリと戯れていて、参加できなかった。

 結果を言えば、ナメクジは倒れた。
 弾力のある体組織のおかげで打撃と魔法には強いが、この体には斬撃が有効だった。
 三方から囲んで斬撃を叩き込めば、ボスといえどハメられる。

 切り刻んで灰にした。
 ただ、被害は深刻だった。

 主要な攻撃手段である『粘液噴射』によって腐食性の粘液をまき散らされて、装備が使い物にならなくなるほど損傷した。
 地面を滑るように高速移動する『体当たりスライド』での体当たりで、ダメージを蓄積された。見た目以上に重く、衝撃力も強いのだ。
 追い詰めたところで使われる『分裂突撃』。自分の体を小さく分裂させての、包囲攻撃にも少なからぬ被害を受けている。

「ちっくしょうが!」

 エンタが、地面を叩きつけた。

 救援に来てくれた仲間二人は、体を休めている。
 肺も、心臓も、動かさずに。

「リーダーはなにしてやがる!?」

 ナメクジ相手なら、最も頼れるはずだった人物の不参加に憤っていた。
 ボロボロの体を引きずって、リーダーを探し回る。


 「リー・・・ダー?」

 リーダーは見つかった。
 なぜか、体が複数に分かれていたけれど。

 その一片が、折れた剣を握り締めたままサソリと向き合っている。
 そばには、尻尾だけでなく、ハサミの片方をも失った『オオサソリ』がいた。
 残ったハサミで、今もリーダーの分割に勤しんでいる。

 切れ味鋭い斬撃が自慢のリーダーだったが、サソリの甲殻には歯が立たなかったようだ。
 サソリの甲殻は、斬るより叩く方が効く。
 『斬る』ことに特化したリーダーには、相性最悪の敵だったことだろう。

 「ちく・・・しょう・・・が!」

 槍を構え、跳び上がる。
 サソリの背中に乗って突き刺した。
 狙い違わず、胴体の真ん中を貫いている。
 サソリの心臓が、モンスターの『核』があるポイントだった。
 
 サソリもまた、灰になる。
 しっかりと仇を討って見せたのだ。

 ただ、彼の体もまた、休みを欲していた。
 彼は、自分の血の上に座り込んだ。
 槍を握ったまま、まるで祈るように目を閉じていた。

 そして、二度と立つことはなかった。
 彼の槍は、祈りのように突き刺さった。
 誰かのためではなく、自分の誇りのために。

 後詰は残り1班、6人となった。



 糸の部屋へ向かう彼女たちは、まだ知らなかった。
 その糸が、何を織り上げるのかを。

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