『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第87話 片翼の焦がれ ~迷いと選択の双翼~ 中編

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「わたし・・・あんなふうに見えてたんだ」

 羞恥が、魂を焼いた。
 あの頃の自分を思い出すたび、胸が締めつけられる。
 誰かに見透かされるのが怖くて、虚勢を張って、空っぽの強さを振りかざしていた。

 そして今、その『空っぽの強さ』が、完璧な形で完成してしまった。
 中身のない器が、最も美しく、最も強い存在として、世界に立っている。

「わたしは・・・わたしを、間違って作ったんだ」

 その気付きは、風よりも鋭く、魂を貫いた。

 でも、だからこそ。
 だからこそ、あの背に手を伸ばした。

 完璧な彼女は、振り返らない。
 風を纏い、羽根を揃え、迷いなく進む。
 その背中は、かつての自分が演じようとした『強さ』の完成形。
 中身が空でも、痛みを切り捨てても、誰かのために立ち続ける姿。

 それは、もう自分ではない。
 でも、自分が生み出したもの。
 自分の体が核となり、自分の願いが形となった存在。

「だったら・・・せめて、支えたい」

 魂の彼女は、半歩遅れてその背に付き従う。
 それは、赦しでも、愛でもない。
 ただ、自分の過ちを受け入れた者が、責任を果たすための歩み。

 風が吹くたび、羽根の欠片が彼女の痛みをなぞる。
 それでも、影はついてくる。
 完璧な彼女が振り返ることはない。
 でも、影はそれを望まない。

「わたしは、わたしの罪の形」
 そう呟いて、魂は風に削られながらも、歩みを止めなかった。
 この妖怪は、もう言葉を持たない。
 喉は潰れ、声帯は風に擦り切れ、音を紡ぐ術を忘れてしまった。
 それでも、風の音に合わせて、かすかな呻きが漏れる。
 それは、かつての詠唱の残響。
 祈りにも似た、断末魔にも似た、名もなき声。

「・・・まもりたい」
「・・・いきたい・・・」

 その声は、もはや音ですらなかった。
 風に紛れ、空気に溶け、誰の耳にも届かない。
 完璧な彼女は、前だけを見ている。
 その背に、何も感じさせず、何も背負わず、ただ進む。

 その背後に、腐り落ちた良心が、風に削られながら付き従う。
 かつて『守りたい』と願った心。
 かつて『生きたい』と叫んだ魂。
 それらは今、形を失い、ただの影となって、地を這うように彼女の後を追っていた。

 風が吹くたび、影の表面が剥がれ落ちる。
 皮膚のようなものが裂け、内側の虚無が露わになる。
 それでも、影は止まらない。
 止まることが、存在の終わりを意味するから。

 前を歩くのは、完璧な彼女。
 風を纏い、羽根を揃え、迷いなく進む。
 その歩みは、まるで機械のように正確で、冷たく、止まることを知らない。

 その背後に、半歩遅れてついてくるのは、不完全な亡霊。
 制服は裂け、布の端からは乾いた血がこびりついている。
 濁った瞳は焦点を持たず、ただ前をなぞるように動くだけ。
 肌は風に削られ、ところどころ透けて、魂の輪郭が滲み出していた。

 二つは、同じ魂から生まれた。
 一方は『選択』を受け入れ、痛みを切り捨てて前に進んだ。

 一方は『迷い』に囚われ、痛みを抱えたまま、後ろから追いすがる。

 互いに言葉は交わさない。
 けれど、風が吹くたび、羽根が揺れるたび、二つの存在は、同じ詠唱をなぞる。
 それは、かつて一つだった魂の、断絶と共鳴の旋律。

「わたしは、わたしを捨てた」
「わたしは、わたしを守った」

 その矛盾が、風を強くする。
 相反する二つの声が、空気を裂き、魔法の核を震わせる。
 完璧な彼女の魔法は、不完全な亡霊の痛みを燃料にしている。
 切り捨てられた感情、踏みにじられた願い、忘れられた祈り――それらが、風の渦となって彼女の背を押す。

 亡霊は、影として存在することで、風を支えている。
 その存在が削られるたび、風は鋭さを増し、魔法は純度を高めていく。
 まるで、魂の断片を燃やして、力に変えているかのように。

 二つの存在は、比翼連理。
 片翼ずつを持ち、同じ風に乗る。
 どちらかが欠ければ、風は崩れる。
 けれど、どちらかが前に出れば、風は濁る。
 均衡は、痛みの上に成り立っている。

 だから、二つは並ばない。
 常に半歩の距離を保ち、互いに触れず、互いに支え合う。
 それは、絆ではない。
 依存でもない。
 ただ、崩壊を避けるための、ぎりぎりの共存。

 それは、愛ではない。
 赦しでもない。
 ただ、『生き損ねた魂』が、風の中で形を保つための、もっとも近くて遠い関係。

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