203 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第87話 片翼の焦がれ ~迷いと選択の双翼~ 中編
しおりを挟む「わたし・・・あんなふうに見えてたんだ」
羞恥が、魂を焼いた。
あの頃の自分を思い出すたび、胸が締めつけられる。
誰かに見透かされるのが怖くて、虚勢を張って、空っぽの強さを振りかざしていた。
そして今、その『空っぽの強さ』が、完璧な形で完成してしまった。
中身のない器が、最も美しく、最も強い存在として、世界に立っている。
「わたしは・・・わたしを、間違って作ったんだ」
その気付きは、風よりも鋭く、魂を貫いた。
でも、だからこそ。
だからこそ、あの背に手を伸ばした。
完璧な彼女は、振り返らない。
風を纏い、羽根を揃え、迷いなく進む。
その背中は、かつての自分が演じようとした『強さ』の完成形。
中身が空でも、痛みを切り捨てても、誰かのために立ち続ける姿。
それは、もう自分ではない。
でも、自分が生み出したもの。
自分の体が核となり、自分の願いが形となった存在。
「だったら・・・せめて、支えたい」
魂の彼女は、半歩遅れてその背に付き従う。
それは、赦しでも、愛でもない。
ただ、自分の過ちを受け入れた者が、責任を果たすための歩み。
風が吹くたび、羽根の欠片が彼女の痛みをなぞる。
それでも、影はついてくる。
完璧な彼女が振り返ることはない。
でも、影はそれを望まない。
「わたしは、わたしの罪の形」
そう呟いて、魂は風に削られながらも、歩みを止めなかった。
この妖怪は、もう言葉を持たない。
喉は潰れ、声帯は風に擦り切れ、音を紡ぐ術を忘れてしまった。
それでも、風の音に合わせて、かすかな呻きが漏れる。
それは、かつての詠唱の残響。
祈りにも似た、断末魔にも似た、名もなき声。
「・・・まもりたい」
「・・・いきたい・・・」
その声は、もはや音ですらなかった。
風に紛れ、空気に溶け、誰の耳にも届かない。
完璧な彼女は、前だけを見ている。
その背に、何も感じさせず、何も背負わず、ただ進む。
その背後に、腐り落ちた良心が、風に削られながら付き従う。
かつて『守りたい』と願った心。
かつて『生きたい』と叫んだ魂。
それらは今、形を失い、ただの影となって、地を這うように彼女の後を追っていた。
風が吹くたび、影の表面が剥がれ落ちる。
皮膚のようなものが裂け、内側の虚無が露わになる。
それでも、影は止まらない。
止まることが、存在の終わりを意味するから。
前を歩くのは、完璧な彼女。
風を纏い、羽根を揃え、迷いなく進む。
その歩みは、まるで機械のように正確で、冷たく、止まることを知らない。
その背後に、半歩遅れてついてくるのは、不完全な亡霊。
制服は裂け、布の端からは乾いた血がこびりついている。
濁った瞳は焦点を持たず、ただ前をなぞるように動くだけ。
肌は風に削られ、ところどころ透けて、魂の輪郭が滲み出していた。
二つは、同じ魂から生まれた。
一方は『選択』を受け入れ、痛みを切り捨てて前に進んだ。
一方は『迷い』に囚われ、痛みを抱えたまま、後ろから追いすがる。
互いに言葉は交わさない。
けれど、風が吹くたび、羽根が揺れるたび、二つの存在は、同じ詠唱をなぞる。
それは、かつて一つだった魂の、断絶と共鳴の旋律。
「わたしは、わたしを捨てた」
「わたしは、わたしを守った」
その矛盾が、風を強くする。
相反する二つの声が、空気を裂き、魔法の核を震わせる。
完璧な彼女の魔法は、不完全な亡霊の痛みを燃料にしている。
切り捨てられた感情、踏みにじられた願い、忘れられた祈り――それらが、風の渦となって彼女の背を押す。
亡霊は、影として存在することで、風を支えている。
その存在が削られるたび、風は鋭さを増し、魔法は純度を高めていく。
まるで、魂の断片を燃やして、力に変えているかのように。
二つの存在は、比翼連理。
片翼ずつを持ち、同じ風に乗る。
どちらかが欠ければ、風は崩れる。
けれど、どちらかが前に出れば、風は濁る。
均衡は、痛みの上に成り立っている。
だから、二つは並ばない。
常に半歩の距離を保ち、互いに触れず、互いに支え合う。
それは、絆ではない。
依存でもない。
ただ、崩壊を避けるための、ぎりぎりの共存。
それは、愛ではない。
赦しでもない。
ただ、『生き損ねた魂』が、風の中で形を保つための、もっとも近くて遠い関係。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる