『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第88話 片翼の焦がれ ~迷いと選択の双翼~ 後編

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「完成だ」

 笑みを含む声が、風の中に響いた。
 その響きは、かつての対比をなぞるようだった。
 構図は変わらない。
 ただ、立場が逆転している。

『彼』が見下ろし、『私』は見上げる。
 強く存在する『彼』。
 消えそうな『私』。

 でも――

『彼』の手が、髪に触れた。
 その指先は、かつてと同じように優しく、でも冷たかった。
 まるで、壊れたものを確認するような手つき。

「まだ、触ってくれるの?」

 細く、小さな呟き。
 風にかき消されそうな声。
 それでも、『彼』は拾い上げた。
 その声に、応えた。

「君は、オレのものだ」

 その言葉は、宣言だった。
 所有の証。
『私』は、『私の居場所』を得た。

 その瞬間、胸の奥が軋んだ。
 嬉しさと、怖さが同時に押し寄せる。
 必要とされることは、救いだった。
 でも、『もの』として扱われることは、痛みだった。

 それでも、手を伸ばすことに躊躇はなかった。
 なぜなら、この手もまた『彼』のものなのだから。

 きっと、それが一番の望みだった。
 誰かに必要とされたい。
 誰かの役に立ちたい。
 それが叶ったのだと、悟った。

「ああ、私は『こう』なりたかったのだ」

 強く、美しい『自分』の影として、安全に守られる。
 拒絶でも、無視でもなく、必要としてくれる人の側に立つ。
 それは、歪んだ願いかもしれない。
 でも、今の『私』には、それしか残っていなかった。

 後ろめたくはある。
 だから、顔は上げられない。
 でも、目は開こう。
 過去を未来に紡ぎ、『彼』と生きる未来を編む。

 風の翼が、きっと役に立つ。
 私は、『彼』の役に立つ風となる。

 風に削られながら、彼の背に手を伸ばす。
 それは、赦しではなく、役に立ちたいという願いだった。

『彼』の言葉が、胸の奥に残響する。

「君は、オレのものだ」

 その一言が、魂の奥底にまで染み込んでいく。
 完璧な彼女――あの強く、美しい存在。
 そして、自分――削られ、捨てられ、影に成り果てた存在。

 どちらか一方だけでは、きっと意味をなさなかった。
 風は、どちらかが欠ければ崩れる。
 どちらかが前に出すぎれば、濁ってしまう。

 でも今、『彼』は両方を見てくれた。
 完璧な彼女だけでなく、そこからはじき出された『わたし』も。
 痛みも、迷いも、弱さも、すべてを抱えたままの『わたし』を。

 戸惑いが、胸を締めつける。
 こんな自分が、受け入れられていいのか。
 こんなにも醜く、壊れて、役に立たない影なのに。

 けれど、風は優しかった。
 今だけは、刃ではなく、包むように吹いていた。
 それが『彼』の意志なのだと、わかった。

「ありがとう・・・」

 その言葉は、風に乗って、ようやく届いた。
 誰にも届かなかった声が、今、確かに拾われた。

 だから、名乗ろう。
 この痛みも、迷いも、すべてを抱えたまま。
 風と共に生きる、私たちの名前を。

「私たちの名前は――」

「比翼ふげん」「そして、比翼みれん」



 「一人から二人かぁ…お得だね!」
 悠がはしゃいでいる。

 「お得って…」
 友梨が頭を抱えている。

 「私なんて半分になっているんだけど…」
 床に頬杖をついて、ひろがグチっている。

 「……」
 みずほは背後にうずくまる泥のウシガエルを振り返った。

 「……」
 志乃も、自分の手足を見下ろしている。

 妖怪たちは、ちょっと複雑そうだった。

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