204 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第88話 片翼の焦がれ ~迷いと選択の双翼~ 後編
しおりを挟む「完成だ」
笑みを含む声が、風の中に響いた。
その響きは、かつての対比をなぞるようだった。
構図は変わらない。
ただ、立場が逆転している。
『彼』が見下ろし、『私』は見上げる。
強く存在する『彼』。
消えそうな『私』。
でも――
『彼』の手が、髪に触れた。
その指先は、かつてと同じように優しく、でも冷たかった。
まるで、壊れたものを確認するような手つき。
「まだ、触ってくれるの?」
細く、小さな呟き。
風にかき消されそうな声。
それでも、『彼』は拾い上げた。
その声に、応えた。
「君は、オレのものだ」
その言葉は、宣言だった。
所有の証。
『私』は、『私の居場所』を得た。
その瞬間、胸の奥が軋んだ。
嬉しさと、怖さが同時に押し寄せる。
必要とされることは、救いだった。
でも、『もの』として扱われることは、痛みだった。
それでも、手を伸ばすことに躊躇はなかった。
なぜなら、この手もまた『彼』のものなのだから。
きっと、それが一番の望みだった。
誰かに必要とされたい。
誰かの役に立ちたい。
それが叶ったのだと、悟った。
「ああ、私は『こう』なりたかったのだ」
強く、美しい『自分』の影として、安全に守られる。
拒絶でも、無視でもなく、必要としてくれる人の側に立つ。
それは、歪んだ願いかもしれない。
でも、今の『私』には、それしか残っていなかった。
後ろめたくはある。
だから、顔は上げられない。
でも、目は開こう。
過去を未来に紡ぎ、『彼』と生きる未来を編む。
風の翼が、きっと役に立つ。
私は、『彼』の役に立つ風となる。
風に削られながら、彼の背に手を伸ばす。
それは、赦しではなく、役に立ちたいという願いだった。
『彼』の言葉が、胸の奥に残響する。
「君は、オレのものだ」
その一言が、魂の奥底にまで染み込んでいく。
完璧な彼女――あの強く、美しい存在。
そして、自分――削られ、捨てられ、影に成り果てた存在。
どちらか一方だけでは、きっと意味をなさなかった。
風は、どちらかが欠ければ崩れる。
どちらかが前に出すぎれば、濁ってしまう。
でも今、『彼』は両方を見てくれた。
完璧な彼女だけでなく、そこからはじき出された『わたし』も。
痛みも、迷いも、弱さも、すべてを抱えたままの『わたし』を。
戸惑いが、胸を締めつける。
こんな自分が、受け入れられていいのか。
こんなにも醜く、壊れて、役に立たない影なのに。
けれど、風は優しかった。
今だけは、刃ではなく、包むように吹いていた。
それが『彼』の意志なのだと、わかった。
「ありがとう・・・」
その言葉は、風に乗って、ようやく届いた。
誰にも届かなかった声が、今、確かに拾われた。
だから、名乗ろう。
この痛みも、迷いも、すべてを抱えたまま。
風と共に生きる、私たちの名前を。
「私たちの名前は――」
「比翼ふげん」「そして、比翼みれん」
「一人から二人かぁ…お得だね!」
悠がはしゃいでいる。
「お得って…」
友梨が頭を抱えている。
「私なんて半分になっているんだけど…」
床に頬杖をついて、ひろがグチっている。
「……」
みずほは背後にうずくまる泥のウシガエルを振り返った。
「……」
志乃も、自分の手足を見下ろしている。
妖怪たちは、ちょっと複雑そうだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる