206 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第90話 最下層の討伐者たち ~糸に絡め取られた欲望~ 中編
しおりを挟む「あ、あれ? 中身がな・・・ッ!?」
イクヨの声が、不自然に途切れた。
その場の空気が、一瞬で変わった。
ぬるく、湿った気配が、背筋を這い上がってくる。
「え゛・・・?」
誰かが、間の抜けた声を漏らした。
視線が、宝箱に集まる。
そこから――足が、はみ出していた。
イクヨの、白い足。
スカートの裾がめくれ上がり、太ももが無防備に晒されている。
その足が、必死にバタついていた。
「ちょ、ちょっと!? なにこれ、なにこれぇっ!!」
宝箱の中から、カサカサと何かが蠢く音がする。
黒くて、平べったい『ナニカ』を思わせる、嫌な音。
その音に混じって、肉が擦れるような、湿った音が聞こえた。
「うそ・・・」
誰かが呟いた。
宝箱は、笑っていた。
歪んだ口が、イクヨの腰を挟み込んでいる。
ノコギリのような刃が、内側にびっしりと並んでいた。
「い、痛っ・・・やだ、やだやだやだっ!!」
イクヨの叫びが、部屋に響く。
だが、誰も動けなかった。
あまりに唐突で、あまりに現実離れしていて、思考が追いつかない。
彼女の白い足が、空を蹴るように暴れる。
スカートの裾が乱れ、下着が見えていることすら、もう誰も気にしていなかった。
彼女自身も、羞恥を感じる余裕などなかった。
刃が、肉を裂く音がした。
足を伝って、赤黒い血が流れ落ちる。
糸の床に、じわりと染みを広げていく。
「た、助けて・・・っ!」
その声は、かすれていた。
痛みか、恐怖か、あるいは体から抜けていく『何か』のせいか。
足の動きが、徐々に弱まっていく。
「た、助けないと!」
ようやく我に返ったリーダーが、駆け出そうとした――その瞬間だった。
シュワッ!
「うっ・・・!?」
視界が、白く染まった。
部屋の奥壁から、放射状に糸の束が放たれる。それはまるで、生き物のように空間を這い、網のように広がった。
「い、糸・・・!?」
リーダーの体が、瞬時に拘束された。
粘着質の糸が、肌に貼りつき、服の上からでも動きを封じる。
まるで、獲物を包む蜘蛛の巣のように。
「う、ウソ・・・こんなの、動けるわけ・・・!」
「だ、誰か! 動ける人は!?」
「ムリ!」
「完全にくっついてるよぉ!」
「右足だけは動く。でも、これじゃなんもできねぇよ!」
必死の問いかけに返ってくるのは、絶望の声ばかりだった。
誰一人、まともに動けない。
糸は、ただの素材ではなかった。
それは、罠だったのだ。
『初見殺し』――その言葉が、頭をよぎる。
知らなければ、避けようがない。
気づいたときには、すでに遅い。
「ここは・・・ダンジョンだった・・・!」
リーダーが、血を吐くように呟いた。
その言葉が、全員の胸に突き刺さる。
「攻撃性が低そうなのが救いかしらね・・・」
誰かが、震える声で言った。
糸を吐いたのは、カイコのようなモンスター。
今のところ、こちらに襲いかかってくる気配はない。
「みんな・・・あまり騒がないで。モンスターを刺激しないようにして、助けを待ちましょう」
リーダーの声は、かすかに震えていた。
けれど、それでも冷静を装っていた。
『“自分が壊れないため』に。
「・・・あたしらは、いいけど・・・」
エリが、そっと視線を向けた。
その先には、まだ宝箱に半身を呑まれたままのイクヨがいた。
誰もが、わかっていた。
彼女は、もう助からない。
「ダンジョンでは、人死にが出るものよ」
誰かが、色のない声で言った。
それは、慰めでも励ましでもなかった。
ただの、現実だった。
「保険も、年金もある。だったか?」
「安心して・・・なのね」
その言葉を最後に、イクヨは『仲間』ではなくなった。
誰もが、目を逸らした。
誰もが、自分が助かる方法を考え始めた。
「大丈夫。助けは来るから・・・待てばいいだけ」
リーダーの声は、もはや自分に言い聞かせるようだった。
待つしかない。
それ以外に、できることはなかった。
誰も、声を出さなかった。
糸の粘着音だけが、部屋を満たしていた。
ただ、一人――いや、二人。
わずかに身じろぎした者がいた。
肩が震え、指がわずかに動いた。
何かできることがあるのではないか。
そう思った。
そう、確かに思った。
でも、口に出せなかった。
「助けよう」と言えば、誰かが動かなくてはならなくなる。
その『誰か』に、自分がなるかもしれない。
それが怖かった。
だから、声を飲み込んだ。
だから、動かなかった。
その沈黙は、誰にも気づかれなかった。
でも、本人の中では、確かに残った。
焼きつくような後悔として。
六人が、五人になろうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる