『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第90話 最下層の討伐者たち ~糸に絡め取られた欲望~ 中編

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「あ、あれ? 中身がな・・・ッ!?」

 イクヨの声が、不自然に途切れた。
 その場の空気が、一瞬で変わった。
 ぬるく、湿った気配が、背筋を這い上がってくる。

「え゛・・・?」

 誰かが、間の抜けた声を漏らした。
 視線が、宝箱に集まる。

 そこから――足が、はみ出していた。
 イクヨの、白い足。
 スカートの裾がめくれ上がり、太ももが無防備に晒されている。
 その足が、必死にバタついていた。

「ちょ、ちょっと!? なにこれ、なにこれぇっ!!」

 宝箱の中から、カサカサと何かが蠢く音がする。
 黒くて、平べったい『ナニカ』を思わせる、嫌な音。
 その音に混じって、肉が擦れるような、湿った音が聞こえた。

「うそ・・・」

 誰かが呟いた。
 宝箱は、笑っていた。
 歪んだ口が、イクヨの腰を挟み込んでいる。
 ノコギリのような刃が、内側にびっしりと並んでいた。

「い、痛っ・・・やだ、やだやだやだっ!!」

 イクヨの叫びが、部屋に響く。
 だが、誰も動けなかった。
 あまりに唐突で、あまりに現実離れしていて、思考が追いつかない。

 彼女の白い足が、空を蹴るように暴れる。
 スカートの裾が乱れ、下着が見えていることすら、もう誰も気にしていなかった。
 彼女自身も、羞恥を感じる余裕などなかった。

 刃が、肉を裂く音がした。
 足を伝って、赤黒い血が流れ落ちる。
 糸の床に、じわりと染みを広げていく。

「た、助けて・・・っ!」

 その声は、かすれていた。
 痛みか、恐怖か、あるいは体から抜けていく『何か』のせいか。
 足の動きが、徐々に弱まっていく。

「た、助けないと!」

 ようやく我に返ったリーダーが、駆け出そうとした――その瞬間だった。

 シュワッ!

「うっ・・・!?」

 視界が、白く染まった。
 部屋の奥壁から、放射状に糸の束が放たれる。それはまるで、生き物のように空間を這い、網のように広がった。

「い、糸・・・!?」

 リーダーの体が、瞬時に拘束された。
 粘着質の糸が、肌に貼りつき、服の上からでも動きを封じる。
 まるで、獲物を包む蜘蛛の巣のように。

「う、ウソ・・・こんなの、動けるわけ・・・!」

「だ、誰か! 動ける人は!?」

「ムリ!」

「完全にくっついてるよぉ!」

「右足だけは動く。でも、これじゃなんもできねぇよ!」

 必死の問いかけに返ってくるのは、絶望の声ばかりだった。
 誰一人、まともに動けない。
 糸は、ただの素材ではなかった。
 それは、罠だったのだ。

『初見殺し』――その言葉が、頭をよぎる。
 知らなければ、避けようがない。
 気づいたときには、すでに遅い。

「ここは・・・ダンジョンだった・・・!」

 リーダーが、血を吐くように呟いた。
 その言葉が、全員の胸に突き刺さる。

「攻撃性が低そうなのが救いかしらね・・・」

 誰かが、震える声で言った。
 糸を吐いたのは、カイコのようなモンスター。
 今のところ、こちらに襲いかかってくる気配はない。

「みんな・・・あまり騒がないで。モンスターを刺激しないようにして、助けを待ちましょう」

 リーダーの声は、かすかに震えていた。
 けれど、それでも冷静を装っていた。
『“自分が壊れないため』に。

「・・・あたしらは、いいけど・・・」

 エリが、そっと視線を向けた。
 その先には、まだ宝箱に半身を呑まれたままのイクヨがいた。

 誰もが、わかっていた。
 彼女は、もう助からない。

「ダンジョンでは、人死にが出るものよ」

 誰かが、色のない声で言った。
 それは、慰めでも励ましでもなかった。
 ただの、現実だった。

「保険も、年金もある。だったか?」

「安心して・・・なのね」

 その言葉を最後に、イクヨは『仲間』ではなくなった。
 誰もが、目を逸らした。
 誰もが、自分が助かる方法を考え始めた。

「大丈夫。助けは来るから・・・待てばいいだけ」

 リーダーの声は、もはや自分に言い聞かせるようだった。
 待つしかない。
 それ以外に、できることはなかった。

 誰も、声を出さなかった。
 糸の粘着音だけが、部屋を満たしていた。

 ただ、一人――いや、二人。
 わずかに身じろぎした者がいた。

 肩が震え、指がわずかに動いた。
 何かできることがあるのではないか。
 そう思った。
 そう、確かに思った。

 でも、口に出せなかった。
「助けよう」と言えば、誰かが動かなくてはならなくなる。
 その『誰か』に、自分がなるかもしれない。
 それが怖かった。

 だから、声を飲み込んだ。
 だから、動かなかった。

 その沈黙は、誰にも気づかれなかった。
 でも、本人の中では、確かに残った。
 焼きつくような後悔として。

 六人が、五人になろうとしていた。

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