『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第156話 妖怪制作 ~火車~ 前者

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「そうなると、当然に次は彼女、だよね」

 カルマの視線が、床に寝かされた遺体に向けられる。
 その目は、いつになく鋭く、そしてどこか遠くを見ていた。

 ──沙羅。

 Sランク相当のネームド素材。
 縫緋まといと双璧を成す存在になることが、すでに『確定』している。
 それは、カルマが『名前を覚えている』数少ない相手。
 それだけで、彼女がどれほど特別だったかがわかる。

「……火車、だな」

 その名を口にした瞬間、空気がわずかに焦げた。
 まだ何もしていないのに、周囲の温度がじわりと上がる。
 まるで、彼女の魂が、すでに炎を帯びているかのように。

 沙羅の遺体は、静かに横たわっていた。
 けれど、その姿には『死』の静けさがなかった。
 まるで、今にも跳ね起きて、誰かを睨みつけそうな気配があった。

 ◆60階層の追憶◆

 「さっさと終わらせてね」
 声が耳に痛い。

 魔力補充のため、囲いのある静かな場所に呼び出されたカルマ。
 沙羅は、まるで儀式の始まりを待つ巫女のように、整えられた姿でそこにいた。
 
 用意の良さは『薫様』と同等かそれ以上だ。
 会うときに必要な儀礼の難解さもまた、同等かそれ以上だった。

 「まずは服を脱ぐ・・・そうでしょう?」
 もちろん、『作業』として見れば、そんな必要はない。
 だけど、彼女の前でカルマは腰にタオルが『お定まり』だった。

 『脱ぐ』とはカルマのことなのだ。
 沙羅のことではない。

 『魔力を渡す』、そのためであれば沙羅の姿を整えるのは理に叶う。
 だけど、渡し手であるカルマにその理はない。

 それでも、『手伝ってあげる』と、後ろに回られた。
 ゆっくりと防備を剥がしていくカルマに、いっそ甲斐甲斐しいほど手を貸してくる。

 それは、神の前に出る前の禊のようだった。
 沙羅は『神』であり『巫女』でもある。
 自分の前に出ようというカルマを、儀式に出られるよう整えるのだ。

 俗世の穢れを脱ぎ捨て、赤子のような『無垢』を取り戻す。
 これは、そんな行為——所作だ。

 「いいわね」
 『無垢』となったカルマの肩に、暖かく湿った風が当たった。
 彼女の浅く、熱を帯びた呼吸が聞こえる。

 彼女は激しく燃える炎。
 誰も寄せ付けない。
 誰も近付けない。
 性の別なくだ。

 『火の舞踊』。
 そんな集団の代表ではあるが、統治はしておらず、勝手に集まった者たちの合議に委ねている状態。
 形は似ているが、そういう意味では『薫様』とは一線を隔している。
 
 『薫様』が神と信者による信仰の関係だとするならば、彼女のそれは、神と巫女の神事を行うパートナーの関係性。
 神は巫女に指示はしても従えず。
 巫女は神に仕えようとも膝は折らない。
 カルマは今、神前に立つための洗礼を受けているのだった。
 
 沙羅にとってカルマは、感情ではなく『合理性』で選ばれた接触対象だった。
 好悪ではなく、利便性。
 それは、誰にも咎められず、誰にも干渉されない関係性。

 だからこそ、彼女はカルマに近づいた。
 他の『誰か』では代わることのできない関係性。
 それがカルマにはある。
 
 それが『誰』かはどうでもよい。
 自分と違う『構造』への興味。
 それが、彼女の行動理由だった。

 彼女が見ていたのは、『境界』だった。
 自分と違うもの。
 触れてはいけないもの。
 それでも、近づいてみたくなる『ナニカ』だ。

 「クスクス」
 楽し気な笑い声が、カルマの輪郭をなぞって、流れ、落ちて、また浮かび上がった。
 カルマは『その時』が終わるまで、彼女が満足するまで耐えるほかない。
 
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