『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第158話 最後の10人① ~傘を差す女~ 前編

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 本隊先行部――レイド最後の10人は66階層を驀進していた。
 ダンジョン側の最高戦力が65階層に集まっているからではあるが、何より一葉が前へ、前へと出ているからだった。

 「65階層での『前へ』が効いているな」
 リーダーは密かにそう感じていた。

 隊列を分断させる指示を出したことが負い目となっているのだ。
 後ろの者たちを置き去りにした形となる。
 成果なしで帰ったのでは顔向けできないと思っているのだろう。
 事実その通りなのだし。

 だが、『ダンジョンマスター』のドロップアイテムを手に入れて戻れば、「追いつけそうだったから追跡を優先させた」と言い訳も立つ。
 面目を保って帰還するには、『目的物』の持ち帰りが不可欠の状況となっている。

 「見えたわ! 67階層の入り口よ!」
 襲い掛かってくるBランクモンスターを蹴散らして、彼女は進んでいく。

 その先に『絶望』が待つとは、まだ知らない。

     ◇軒先で待つ女視点◇

 「そろそろ・・・かな?」
 ありはしない空を見上げて、少女が呟く。

 それは雨を待つようでもあり、降る雨を憂いるようでもある。
 だが、少女にとってはどちらでもいいことだった。
 降るにしろ、降らないにしろ、少女のすることは変わらないから。
 
       ◇

 最後の10人。
 彼らは今、69階層を進んでいた。

 足音が、やけに響く。
 誰も口には出さないが、空気が変わったことに気づいていた。
 肌にまとわりつくような湿気。
 耳の奥で鳴る、低くくぐもった音。
 それは、何かが近づいていることを告げていた。

 次は、70階層。
 節目。
 終わりの地。
 最深。

 誰もが、そこに『何か』があると感じていた。
 そして、それは事実だった。

「……いよいよ、大詰めだね」
 一葉が、無理に明るさを装って声を弾ませた。
 けれど、その声はどこか浮いていた。
 まるで、沈黙を恐れて投げられた石のように。

「ああ、そうだな」
 レイドリーダーが応じる。
 その声もまた、どこか遠かった。

 終わりは近い。
 間違いなく。
 だが、それは『安堵』ではなかった。
 むしろ、終わりが近いからこそ、何かが壊れ始めているような気がした。

「……フロアボスがいるな」
 誰かが呟いた。

 70階層への通路があるはずの最奥。
 その手前の空間に、人影があった。

 だが、それは『人』の形をしているだけだった。
 動かない。
 呼吸の気配もない。
 ただ、そこに『いる』。

 まるで、彼らが来るのを待っていたかのように。

 誰かが、息を呑んだ。
 誰かが、武器を握り直した。
 誰かが、祈るように目を伏せた。

 そして、誰もが思った。
 ——ここが、終わりだ。
 でも、本当に終わるのか?

 その問いだけが、誰の口からもこぼれなかった。

「……カサを差している?」

 誰かの呟きが、空気を震わせた。
 最奥の空間に佇む『それ』のシルエットは、確かに傘を差しているように見えた。

 だが、違和感があった。
 傘の下にいるはずの『少女』の輪郭が、どこか歪んでいる。
 光の届かない場所にいるはずなのに、白く長い髪だけが、月光のようにぼんやりと浮かび上がっていた。

『それ』は、夜の雨を待つように、静かに立っていた。
 まるで、この場所が『雨宿りの場』であるかのように。

 長く流れる白髪が、濡れた布のように肩から胸元へと垂れ下がり、 顔の半分を覆う前髪が、片目を隠している。
 見えている右目だけが、異様に赤く、その瞳は、炎ではなく、濡れた闇の中で灯る灯火のように、じっとこちらを見つめていた。

 頭上には、大きな唐傘。
 その天辺には、赤く四角い『穴』が空いていた。
 そこから、空気が抜けるように、彼女の気配も、どこか遠くへ吸い込まれていく。

 傘の影が顔を覆い、表情を曖昧にしていた。
 だが、曖昧だからこそ、そこにある『何か』が、想像をかき立てる。
 笑っているのか。
 泣いているのか。
 それとも、怒っているのか。
 わからないことが、最も恐ろしい。

 黒い着物は、肩を落とし、袖は異様に長く、風もないのに、ゆらり、ゆらりと揺れていた。 その揺れは、まるで水面に浮かぶ死体が、ゆっくりと回転しているような、不自然な静けさをまとっていた。

 彼女の指は、長く、細く、骨ばっていた。
 その先端から、ぽたり、ぽたりと黒い雫が落ちていた。

 水ではない。
 血でもない。
 けれど、確かに『濡れて』いた。

 誰も、声を出せなかった。
 空間が、音を拒んでいた。
 息を呑む音すら、吸い込まれていく。

 そして、彼女が、ゆっくりと傘を傾けた。
 その動きは、まるで『こちらを見せる』ための所作。
 傘の影がずれ、顔の輪郭が露わになる。


「……ようこそ、七十階層へ」

 声が、どこからともなく響いた。
 その瞬間、誰かが小さく、震えた。
 それは、寒さではなかった。
 魂の奥に触れられたような、得体の知れない恐怖だった。

「唐笠お化け『差傘ひより』だってよ!」

『鑑定』持ちの声が、静寂を裂いた。
 その名が告げられた瞬間、空気がわずかに軋んだ。
 まるで、名前を呼ぶこと自体が『封印を解く』行為だったかのように。

「ネームドか」
 誰かが呟く。
 その声には、わずかな緊張が滲んでいた。

 名前持ち。
 ランク上位。
 強敵。

 それだけで、十分に『脅威』だった。
 だが、彼女はそれ以上だった。
 70階層への通路を守る者。
 このダンジョンの『最深』を預かる存在。

「それくらい、想定内だ。行くぞ!」
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