『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第161話 最後の10人② ~凍てつく想い~ 中編

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「に、にげろ……!」

 リーダーが叫ぶ。
 だが、その声には力がなかった。
『逃げろ』という言葉が、どこにも逃げ場がないことを知っている者の声だった。

 軒下の氷柱なら、避けられる。
 だが、ここは違う。
 天井一面が、氷の牙で覆われている。

「魔法で撃ってみる?」
 魔法使いの少女が、冗談めかして言った。
 けれど、その声は震えていた。
『絶対にやらない』とわかっているからこそ、口にできた言葉だった。

 火炎魔法?
 無意味だ。
 たとえ火炎放射器があったとしても、この質量、この密度、この冷気を前にしては、ただの火遊びに過ぎない。

 なぜ、そう言い切れるのか?
 それは、実際にあったからだ。

 昭和の半ば。
 記録的な大雪に見舞われた町があった。
 自衛隊が災害派遣で出動し、あまりの雪の壁に業を煮やし、ついには火炎放射器を持ち出した。

 だが、結果は——氷は溶けなかった。

 いや、正確には、溶けた。
 だが、溶けた水が再び凍り、さらに硬く、滑りやすく、危険な氷塊となって襲いかかってきた。

 火は、氷に勝てなかった。
 それは、自然の重さと時間の積層に、人の力が届かなかった証明だった。

 今、目の前にある氷柱も、同じだ。
 火炎魔法を撃てば、一本どころか、すべてが一斉に落ちてくる。

 それは、天井からの絨毯爆撃。
 避けられるはずもない。
 動けば、死ぬ。
 動かなくても、死ぬ。

 だから、誰も動けなかった。
 ただ、自然に落ちてくる『その時』を見極め、祈るしかなかった。

「あらあら、みんなお利口ですねぇ。やってみたら面白かっただろうに……まぁ、任意で落とせるんだけど、ね!」

 フラノが、にこりと笑って、親指を——下に向けた。

 パキン。

 天井が、悲鳴を上げた。
 それは氷が割れる音ではなかった。
 空気そのものが砕けたような、乾いた破裂音。

 次の瞬間、空気が一気に冷え込む。
 吐いた息が、白く煙る。
 光が氷に反射し、部屋全体が青白い死の色に染まった。

 ひよりとフラノを除く全員が、反射的に天井を見上げた。
 そこには、崩壊の始まりを告げる、無数の影があった。

「……っ!!」

 魔法使いの少女が、咄嗟に身を伏せた。
 だが、それは一瞬遅かった。

 ドンッ!

 重い音が、空間を揺らす。
 続いて、ガラガラと氷が崩れ落ちる音。
 まるで、山が崩れるような、低く響く轟音。

 氷の塊が、彼女の上に降り注いだ。
 一つ、二つ、三つ。
 巨大な氷柱が、次々と彼女の身体を押し潰していく。

「……っ!」

 誰かが声を上げかけたが、言葉にならなかった。
 あまりにも一瞬の出来事だった。

 氷の山が、静かに積もっていく。
 粉雪のような氷の粒が、ふわりと舞い、やがて、赤く染まった床に降り積もっていく。

 そこに、彼女の姿はなかった。
 ただ、潰れた制服の一部が、氷の隙間から覗いているだけ。

 誰も、声を出せなかった。
 誰も、動けなかった。

 床に広がる、じわりと滲む紅が、彼女がそこにいたことを、静かに語っていた。

 残り、8人。
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