『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第194話 呪い ~呪われた少女~ 後編

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   ◇疑心暗鬼と気づき◇

 仲間たちの間に、疑念が広がっていた。
 誰かが誰かを見ていた。
 誰かが、自分自身を疑っていた。

 その空気は、冷たく、重く、静かに満ちていた。
 まるで、霧のように。
 まさに、呪いのように。

 でも——その変化に、ただ一人気づいていない少女がいた。

 彼女は、確信していた。
『呪い』は自分の中にある。
 だから、誰かを疑う必要はなかった。
 誰かに疑われることも、想定していなかった。

 なぜなら——彼女は、ずっと『井戸の怪物』を見ていたから。

 あの瞬間。
 命の危機が近づいていた瞬間。
 彼女は、仲間を盾にした。

 その記憶が、彼女の中で怪物になった。
 井戸の底に潜む、黒くて、冷たい、動かない怪物。

 それを見つめ続けていた。
 それが、自分の『本当』だと思っていた。

 だから、周囲の変化に気づかなかった。
 仲間たちが距離を取り始めたことも。
 誰かが杖を握り直したことも。
 誰かが、そっと彼女の背後に立ったことも。

 彼女は、ただ——自分の中の怪物を見ていた。

「・・・私が呪われてる」

 その言葉は、誰にも届かなかった。
 誰も、もう彼女の言葉を聞こうとしていなかった。

 そして、彼女は気づく。

 誰もが、自分を見ていない。
 誰もが、別の誰かを見ている。
 誰もが、自分自身を見ている。

「・・・あれ?」

 その瞬間、彼女の視線が井戸の底から外れた。
 周囲を見渡す。
 誰もが、疑いの目を持っていた。
 でも、それは——自分に向けられていなかった。

「・・・違うの?」

 彼女の声は、震えていた。
 自分が呪われていると思っていた。
 でも、誰もそれを見ていない。

 じゃあ——この怪物は、なんだったの?

 その問いが、彼女の中で静かに響いた。

 そして、初めて——彼女は『呪いの形』を見失った。

「・・・もしかして、私じゃないのかも」

 その可能性が、少女の胸にふっと灯った。
 まるで、長い夜の中で見つけた小さな星のように。

 ずっと、自分が呪われていると思っていた。
 あの瞬間の記憶。
 あの目。
 あの罪。

 でも、誰も自分を責めなかった。
 誰も、自分を見ていなかった。

「・・・違うのかも」

 その言葉が、心の奥に染み込んでいく。
 重かったはずの空気が、少しだけ軽くなった気がした。

 その時だった。

「——捕まえた!」

 女教師の声が、背後から鋭く響いた。

 振り返る間もなかった。
 何かが背中に触れた瞬間、意識がふっと遠のく。

 視界が、ぐにゃりと歪む。
 音が、遠ざかる。
 足元が、崩れる。

「・・・あれ?」

 確かに軽くなったはずの心が、今は重く沈んでいく。
 まるで、深い水底に引きずられるように。

「・・・違うかもって、思ったのに」

 その言葉は、誰にも届かない。
 少女の意識は、静かに闇に溶けていった。

  ◇箱の中◇

 目を開けると、そこは静かな空間だった。
 音がない。色もない。
 ただ、灰色の霧がゆらゆらと漂っていた。

 空気は冷たく、でも湿っていた。
 まるで、誰かのため息の中に閉じ込められているようだった。

「・・・ここは?」

 少女は立ち上がろうとする。
 でも、体が重い。
 まるで水の中に沈んでいるような感覚。

「・・・やっぱり、私だったの?」

 誰も答えない。
 でも、霧の向こうに、誰かの影が見えた。
 影の胸元には、赤いリボンが揺れていた。
 それは、かつて彼女が盾にした仲間のものだったかもしれない。

 無表情。
 冷たい目。
 ただ、じっと見ている。

「・・・違うって、思えたのに」

 少女は呟く。
 でも、その声は霧に吸われて消えていく。

 影は、ゆっくりと近づいてくる。
 その瞳は、何も語らない。 でも、確かに——責めていた。

「・・・私が、呪われてるんだよね」

 その言葉に、影は止まった。
 そして、静かに首を振った。

「・・・え?」

 少女は目を見開く。
 影は、もう一度首を振る。
 そして、霧の中に溶けていった。

 やがて、『カチリ』と音がした。
 それはまるで、扉を閉めたような音だった。

 閉じ込められた。
 少女は膝をつき、座り込んだ。
 逃走し続けていた体力の消耗に、押しつぶされるようにして。

 退避と追跡行の脱落者=生徒7  教師9
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