『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第205話 残された探索者たち② ~沈黙する冷静さ~

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『システムチャット:更新』

「え? 『システムチャット』機能してたの?!」
 脳内に出たチャット画面に驚いて誰かが声を上げた。
 一斉にスマホを覗き込む。
 脳内チャットでも内容は読めるが、スマホのほうがより詳細な情報が見れる。

「私のにも、きてる」
「私も」
「同じく」
「行動を共にしていたから、パーティ認定されていたんだな」
 全員に同じメッセージが来ていることを確認した。

『指名クエストの発生』
「しかも、クエストときたか」
 この状況下で!

『パーティ全員の「口にできない思い」を披露せよ』
『報酬:「運命の選択権」』
『期間:「命のある限り有効」』
『※一定期間を経過すると、自動的に選択が行われる可能性あり』

 その文字を見て、誰かが呟く。

「・・・これって、語らなきゃ『選ばれる』ってこと?」
 何を選ばれるのか。
 わからない怖さに身が震えた。

「ぁ・・・」

 声を上げたのは『逆さ言葉』の彼女だ。
 口を開こうとして、一瞬沈黙、自分のスマホを隣に見せた。

「え? ・・・あー、逆さ・・・・えと・・・」
 隣の子は、自分で話すとどう表現するかわからないから任された、と気づいて頷いた。

「『語り終了得点: :1/5』」」

 その数字が、彼女のスマホ画面に表示されていた。
 他の子たちも、自分の画面を確認する。
 そこには、同じ「1/5」の表示。

「・・・もう、語ったことになってるんだ」

 誰かが呟く。
 彼女は、静かに頷いた。
 あの“逆さまの言葉”が、すでに語りとして記録されていたのだ。

「じゃあ・・・あと4人」

「語らなきゃ、何かを『選ばれる』ってことか」

 再びその言葉が、空気を震わせる。
 誰もが、スマホを見つめながら、沈黙する。

 その沈黙は、重く、深く、まるで迷宮の壁が、彼らの心を覗いているかのようだった。
 何を『語れ』と言われているかは何となく理解していた。

 自分の中にあって、存在感が重い。
 外には出せないモノ。
 それを出せと言われているのだと。

 そして——誰かが、そっと息を吸った。
 語りの灯が、次にともる気配がした。

 ◇糸部屋組の生き残り(沈黙の灯)◇

 彼女は、スマホを見つめたまま、ぽつりと呟いた。

「・・・あの、『呪いの主』。私は見てたんだよ」

 誰かが息を呑む。
 空気が、少しだけ重くなる。
 知っていた子がそっと視線を外した。

「動けなかった。みんな、糸に捕まってて・・・声も出せなくて」

 彼女の声は、震えていた。

「リーダーが、『沈黙』を命じたの。音を立てたら、次は誰がやられるかわからないって。だから、私たち・・・ただ、黙ってた」

 迷宮の空気が、ひんやりと冷える。
 誰かが、靴紐を弄りながら、何も見ていない目を足元に落としていた。

「でも・・・聞こえてたんだ。泣いてる声。私の名前を呼ぶ声」

 彼女は、膝の上で拳を握りしめた。

「怖かった。動けなかった。声も出せなかった。・・・怖くて、怖くて」

 沈黙が落ちる。
 誰かが、そっと自分の耳を抑えた。

「・・・私、『軽業師』って称号、持ってたんだよ。縄抜けのスキルがあって・・・」

 一瞬、誰かが彼女を見る。

「でも、使わなかった。使えなかった。・・・いや、使わなかったんだと思う」

 動いたら、誰かが見つかる。
 誰かが、次にやられる。

「そう思ったから・・・」

 彼女は、顔を伏せる。

「でも、あの子は、最後まで呼んでた。私の名前を。助けて、って」

 声が、少しだけ震えた。

「『沈黙』は、正しかったのかもしれない。誰かが動いてたら、全滅してたかもしれない。でも・・・」

「でも、私は、あの子を見捨てたんだよ」

 その言葉が落ちた瞬間、彼女のスマホが静かに光った。

『語り終了得点:2/5』

 彼女は、顔を上げなかった。
 でも、その背中は、少しだけ震えていた。

   ◇冷静な分析タイプ(理性の灯)◇

「・・・ウソはいけないわね」

 沈黙の中で、眼鏡の奥の瞳が静かに光る。
 彼女は、眼鏡を持ち上げながら、うつむく少女を見つめた。

「え・・・?」

「『あの子』は、もう虫の息だった。足を動かすのがやっとで、声なんて出せなかった。『助けて』なんて言ってない。名前も呼んでない」

 言葉は冷たく、正確だった。
 まるで、記録を読み上げるように。

「・・・私は、見えてたの。あの子の状態。だから、助けない方が効率的だと判断した」

 沈黙の少女が、数度唇を嚙んだ。
 それはまるで、自分の唇に罰を与えるようだった。

「動けば、他の子が巻き込まれる。リスクが高すぎる。だから、私は動かなかった。・・・それが、最善だった」

 彼女の声は、揺れなかった。
 でも、その手は、わずかに震えていた。

「優しさって、何かしら。助けること? それとも、守ること? ・・・」
 少し考えてみせる。

「私は、守った。・・・少なくとも、そう思いたい」
 そして、断じた。

 彼女の言葉が迷宮に溶けていく。
 誰も、すぐには口を開けなかった。

 冷静なはずの語りが、なぜか空気をざらつかせる。
 その『正しさ』が、誰かの胸を締めつけていた。

「・・・それでも、助けたかったって思ったこと、ないの?」

 ぽつりと、誰かが呟いた
 問いではなく、ただの感情の漏れだった。

 彼女は答えなかった。
 ただ、眼鏡を直した。
 その動きは、いつも通り冷静だった。

 でも、誰もが気づいていた。
 その瞳の奥に、揺れがあったことを。
 その揺れを見て、誰かがスマホ見た。
 握りしめたまま、画面は見ていない。


『語り終了得点:3/5』


 数字は進んでいる。
 でも、心は、まだその場に留まっていた。

 迷宮の空気が、静かに震える。
 次の語り手の灯が、ゆっくりと灯り始める。
 その言葉が落ちた瞬間、彼女のスマホが静かに光った。

      ◇語り終えた者の変化◇

「助けて、言ってた、名前、呼ばれた」
 沈黙の少女が訴えた。

「・・・・・・」
 本人は真顔のまま、座っている。

「え? わたし、なにも・・・」
 言っていない、そう言おうとした彼女の後ろ頭から何かの影が浮き上がった。
 黒い影なのに、口元だけが妙に印象に残った。
 黒一色なのに、唇だけ赤い印象を受ける。
 そして――

「わた・・・し、よばれた。たすけて・・・いってた」

 舌っ足らずな主張が繰り返される。
 全員が、小さく頷いて、丁重に無視された。

 それが、この場の『決まり』だ、と。


「これ・・・は・・・」
 冷静な少女が、茫然と掌に視線を落とした。

 彼女の座る床に、妙にねばつく液体――『油』が染みてきていた。
 どこからともなく『油』を集めているように見える。
 色合いや匂いが、微妙に違う。
 それぞれが、『誰か』からしみだしているような気がした。

 これも、丁重に無視された。
 誰かが一瞬だけその染みを見た。
 けれど、何も言わず、靴紐を結び直すふりをした。

 何かしら、不思議なことが起きる。
 この場はそういう場なのだ。

    ◇

 油の染みを見つめながら、年少の子がぽつりと呟く。

「・・・ボクも、呼ばれたことがある。手を引いてくれた人がいた。・・・でも、今は、もういない」

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