『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第206話 残された探索者たち③ ~記憶を導く~

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 ◇元B班年少の子(記憶の灯)◇

 彼女は、油の染みを見つめたまま、ぽつりと呟いた。

「・・・ボクも、呼ばれたことがある。手を引いてくれた人がいた。・・・でも、今は、もういない」

 誰もが、彼女の言葉に耳を傾ける。
 それは、語りというより、記憶の断片のようだった。

「その人は、ボクより年上で、いつも前を歩いてた。迷宮の中でも、怖い時でも、ずっと手を引いてくれてた」

 彼女の声は、静かだった。
 でも、その静けさの中に、ぽっかりと空いた穴のような喪失感があった。

「ある日、ボクが転んだ時、すぐに戻ってきてくれた。・・・でも、それが、最後だった」

 沈黙の少女が、彼女の手を見つめた。

「その人は、強かったから役目があった。・・・それで、帰ってこなかった」

 彼女は、拳を握った。

「ボクは、何もできなかった。泣くことしかできなかった。・・・でも、あの人は、最後まで笑ってた」

 沈黙が落ちる。
 冷静な少女が、眼鏡を拭いていた。

「・・・ボク、今でも、手を引かれてる気がする。誰もいないのに、前に進めるのは・・・その人が、まだ、ボクの手を握ってるからだと思う」

 彼女のスマホが、静かに光った。
 誰かが、そっと自分の手を握りしめた。

『語り終了得点:4/5』

 彼女は、そっと手を開いた。
 そこには、何もなかった。
 でも、彼女の目には、誰かの手が、まだそこにあるように見えていた。

 違う。

 誰かが息を呑んだ。
 白くて細い腕が、するりと影の中へ消えていった。
 消える直前、その腕は年少の少女の頭を撫でたようだった。


 語り終了得点:4/5


   ◇旧先駆けB班のリーダー(導きの灯)◇

 場が静まり返る。
 スマホの画面には、変わらず『語り終了得点:4/5』の文字。

 誰かが、ぽつりと呟く。

「・・・あとひとり。リーダーが語れば、終わる」

 でも、彼女は口を開かない。
 その胸の奥で、ずっと響いていた言葉があった。


「あなたが、生き残った者たちを導きなさい。私には、もうその資格がない」


 それは、真梨華が姿を消す寸前に言った言葉だった。
 彼女は、ずっと自問し続けていた。

「私に、その資格はあるのか?」

 語ることは、選ばれること。
 選ばれることは、導くこと。
 でも、彼女は、誰かを選ぶことが怖かった。

 沈黙の灯が語った。
 理性の灯が語った。
 記憶の灯が語った。
 それぞれの痛みが、彼女の中に積もっていく。

「・・・真梨華は、強かった。だから、選べた。だから、背負った。・・・でも、私は、選べなかった」

 彼女は、拳を握った。
 彼女は、誰の視線にも応えず、ただスマホを見つめていた。
 画面には、変わらず『語り終了得点:4/5』の文字。

「誰かを守るために、誰かを犠牲にする。それが『導き』なら、私はそんな資格、いらない」

 誰もが、彼女の言葉に耳を傾けていた。
 でも、誰も口を開かなかった。

「でも・・・違う。みんな、語った。迷って、苦しんで、それでも語った」

 彼女は、顔を上げた。

「導くって、選ぶことじゃない。背負うことでもない。・・・ただ、前に進むこと。誰かの声を、手を、痛みを、忘れずに」

「私は、進む。迷っても、怖くても。・・・それが、私の『導き』だと思うから」
 それは『犠牲』を選ばない覚悟。
 それは『自分』を犠牲にする覚悟。

 進む先で何かがあれば、最初につまずくのは自分。
 そこに『犠牲』が必要なら、使われるのは『自分』。
『選ばない』という『選択』とはそういうこと。

 その言葉が落ちた瞬間、彼女のスマホが静かに光った。

『語り終了得点:5/5』

 場の空気が、静かに震えた。
 誰かのスマホに、新たな通知が届く。
 スマホが淡い青に光り、微かな振動が指先をくすぐった。


『システムチャット:更新』

『運命の選択権、発動準備完了』


 彼女は、画面を見つめながら、そっと呟いた。

「・・・真梨華。私は、進んでいるよ」

 

『語り終了得点:5/5』

 その文字が、全員のスマホに表示された瞬間、場の空気が変わった。

 迷宮の壁が、わずかに震える。
 誰かがそっと周囲をうかがった。
 誰かが、スマホを見つめたまま動けなくなる。

 そして——

 リーダーのスマホが、青く光った。

 それは、淡く、静かで、でも確かに『違う』色だった。
 画面はゆっくりと消え、代わりに彼女の瞳が、青く淡く輝き始める。

「・・・なに、これ・・・?」

 誰かが呟いた。
 その声に、誰も答えなかった。

 迷宮の壁に、青い火が灯る。
 ぽつり、ぽつりと、語りの場を囲むように。
 まるで、彼女の語りが空間そのものを染めていくようだった。

 彼女は、静かに立ち上がる。
 その背後に、青い灯が揺れる。
 誰かが、震える声で言った。

「語りの終わりに現れる者・・・え? これ『百物語』なの?」

 怪談なんてしてないのに!
 そう非難する響きがあった。
 同時に納得の和音が伝わる。

 今、自分たちが語っていた内容は、『怪談』より怖い。
 なにより、『この場はそういう場』という認識と完全に和合している。

 彼女は、振り返らなかった。
 ただ、前を見つめていた。
 正確には、脳内のチャット画面に意識が向いている。

『システムチャット』にメッセージが羅列されていたのだ。

『【語りの最後を担いし者】の称号が与えられます』
『選択権付与、【妖怪:青行灯】』

『妖怪化を受け入れますか? 【YES/NO】』

(もしYESを選んだら、もう人間には戻れないかもしれない。だけど・・・)

「私は、語りを終えた。だから、語りを始める者になる」

 その声は、静かで、澄んでいた。
 でも、誰もがその言葉の重さを感じていた。

「どういうこと?」

 年少の子が、ぽつりと呟いた。
 彼女は、少しだけ微笑んだ。

「ただ、前に進むこと。それが・・・私の『導き』」

 それは、たったいま語られた覚悟。

「私たちは、地上を目指す。それは変わらない」

 誰かが地上に出て、『変化』を知らせなくてはならない。
 それは、自分たちであるべき。

 彼女の言葉に、誰かが小さく頷いた。
 そして、ぽつりと呟いた。

「・・・進まなきゃ」

 その声に、青い火が揺れた。
 語りの場が、再び動き始める。

『青行灯』となった彼女は、静かにその中心に立っていた。 
 青行灯は、語られた記憶を灯す者。
 忘れられた声を、静かに照らす存在。

 語りの導き手として。
 語りの終着点として。
 そして、語りの始まりとして。

 迷宮の空気が、静かに震えた。
 語りの灯が、次の者へと渡されていく。

『話す』ことではなく『進む』ことによって。
『語り』とは音ではないから。
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