75 / 96
参
しおりを挟む
男爵が知るのは、ここまでだった。
見送られ鹿鳴館を後にしたのだから、当然なのだが。まさか、時を同じくして清浦が鹿鳴館に滞在していたとは、知るよしもない――。
「上手いこと言ってくれたようだねぇ」
北風に舞う砂埃に顔を背け、男爵の馬車を見送る光留の背後から、気だるげな声がかけられた。
「いたんですか、清浦さん」
「まあ、たまたま」
「たまたまな訳ないでしょう……というか、あそこまで言う必要、ありました?」
「いやいや、不必要なほど念を押すのが鉄則だよ。さらっと説明しても半信半疑だろうし、お偉方の名前がコレでもかってくらい出る方が、危機感を持つってもんだ」
確固たる自信だ。
「それよりも、義父上をハメるような真似をして良かったのかい?」
「ハメていませんよ。清浦さんの会派へ移ることは、きっと男爵の為になります」
「ほう、ずいぶんと私は信頼されているんだねぇ」
「ええ、意外でしょう?しかし、泥舟とわかったら直ぐ様、手を引きます」
「構わないよ。どうせ私は、元々何も持たない男なのだから」
「あ~、才覚ひとつって人が、1番怖いんですよ」
その一言に、乾いた笑いを漏らした清浦は、すっと一息吸い込むと一節を口ずさむ
「〽️貴女に紳士のいでたちで、外部の飾は 良いけれど政治の思想が欠乏だ……ってね、諸外国と肩を並べることを目的とした、このハリボテも無駄に終わった。しかし、光留君、思想が欠乏などと言われては黙っちゃおられないんだよ。ことに、私みたいな官僚はね」
だから、貴族院を牛耳る会派を作り上げるのに、一役買うと云うことだろう。遣り手の官僚が、やるといったら、それなりの形になることは、分かりきっている。
「ま、僕には関係のないことですがね。オツペケペ、オツペケペツポペッポーポー!」
「ブッ――!! 何だね!君、下手くそだなぁ!」
ゲラゲラと腹を抱える清浦に、光留まで吊られ笑う。鹿鳴館の高い天井に木霊する楽しげな響きは、大輪の華々が絢爛に咲き誇った昔とは、随分と変わってしまったが、お役御免のハリボテならば、気取った貴婦人の嫣然たるさまよりも、一癖も二癖もある男達の馬鹿笑いの方が、似合いのように思えた。
見送られ鹿鳴館を後にしたのだから、当然なのだが。まさか、時を同じくして清浦が鹿鳴館に滞在していたとは、知るよしもない――。
「上手いこと言ってくれたようだねぇ」
北風に舞う砂埃に顔を背け、男爵の馬車を見送る光留の背後から、気だるげな声がかけられた。
「いたんですか、清浦さん」
「まあ、たまたま」
「たまたまな訳ないでしょう……というか、あそこまで言う必要、ありました?」
「いやいや、不必要なほど念を押すのが鉄則だよ。さらっと説明しても半信半疑だろうし、お偉方の名前がコレでもかってくらい出る方が、危機感を持つってもんだ」
確固たる自信だ。
「それよりも、義父上をハメるような真似をして良かったのかい?」
「ハメていませんよ。清浦さんの会派へ移ることは、きっと男爵の為になります」
「ほう、ずいぶんと私は信頼されているんだねぇ」
「ええ、意外でしょう?しかし、泥舟とわかったら直ぐ様、手を引きます」
「構わないよ。どうせ私は、元々何も持たない男なのだから」
「あ~、才覚ひとつって人が、1番怖いんですよ」
その一言に、乾いた笑いを漏らした清浦は、すっと一息吸い込むと一節を口ずさむ
「〽️貴女に紳士のいでたちで、外部の飾は 良いけれど政治の思想が欠乏だ……ってね、諸外国と肩を並べることを目的とした、このハリボテも無駄に終わった。しかし、光留君、思想が欠乏などと言われては黙っちゃおられないんだよ。ことに、私みたいな官僚はね」
だから、貴族院を牛耳る会派を作り上げるのに、一役買うと云うことだろう。遣り手の官僚が、やるといったら、それなりの形になることは、分かりきっている。
「ま、僕には関係のないことですがね。オツペケペ、オツペケペツポペッポーポー!」
「ブッ――!! 何だね!君、下手くそだなぁ!」
ゲラゲラと腹を抱える清浦に、光留まで吊られ笑う。鹿鳴館の高い天井に木霊する楽しげな響きは、大輪の華々が絢爛に咲き誇った昔とは、随分と変わってしまったが、お役御免のハリボテならば、気取った貴婦人の嫣然たるさまよりも、一癖も二癖もある男達の馬鹿笑いの方が、似合いのように思えた。
0
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する
獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」
〜 闇オク花嫁 〜
毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、
借金を得た母の言葉を聞き、
闇オークションへ売られる事になった。
どんな形にしろ借金は返済出来るし、
母の今後の生活面も確保出来る。
そう、彼女自身が生きていなくとも…。
生きる希望を無くし、
闇オークションに出品された彼女は
100億で落札された。
人食を好む大富豪か、
それとも肉体を求めてか…。
どちらにしろ、借金返済に、
安堵した彼女だが…。
いざ、落札した大富豪に引き渡されると、
その容姿端麗の美しい男は、
タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、
毎日30万のお小遣いですら渡し、
一流シェフによる三食デザート付きの食事、
なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。
何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……?
表紙 ニジジャーニーから作成
エブリスタ同時公開
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
Pomegranate I
Uta Katagi
恋愛
婚約者の彼が突然この世を去った。絶望のどん底にいた詩に届いた彼からの謎のメッセージ。クラウド上に残されたファイルのパスワードと貸金庫の暗証番号のミステリーを解いた後に、詩が手に入れたものは?世代を超えて永遠の愛を誓った彼が遺したこの世界の驚愕の真理とは?詩は本当に彼と再会できるのか?
古代から伝承されたこの世界の秘密が遂に解き明かされる。最新の量子力学という現代科学の視点で古代ミステリーを暴いた長編ラブロマンス。これはもはや、ファンタジーの域を越えた究極の愛の物語。恋愛に憧れ愛の本質に悩み戸惑う人々に真実の愛とは何かを伝える作者渾身の超大作。
*本作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
本日は桜・恋日和 ーツアーコンダクター 紫都の慕情の旅
光月海愛(こうつきみあ)
恋愛
旅は好きですか?
派遣添乗員(ツアーコンダクター)の桑崎紫都32歳。
もう、仕事がらみの恋愛はしないと思っていたのに…ーー
切ない過去を持つ男女四人の二泊三日の恋慕情。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる