神堕ち白蛇の恋の贄 ~あやかし一家の若当主様は恋物語で縁を紡ぐ~

龍田たると

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「……姉さま」

 灯里は緊張した面持ちで身をこわばらせた。
 柄の悪い男たちを従えていたこともあるが、加奈子の意図が見えなかったからだ。

 自分を探していたとはどういうことだろうか。
 姉にしてみれば灯里は目障りな存在だったはず。
 わざわざ女学校を出て行った灯里に絡んでくる理由など、ないはずなのに。

「ああ、たつなんとかとかいう男はいないのね。ちょうどいいわ」

 加奈子はどこか馬鹿にしたように言った。
 どのように調べたのか、白怜のことも知っているらしい。
 そして、彼女は見下しながら、単刀直入に灯里に命令した。

「あなた、この街から出て行きなさい」

「……えっ?」

 意味の分からない要求に、灯里はさらに困惑した。
 一体何を言っているのか。
 住むところにまで介入したがる横暴さにも唖然とするが、やはり姉の意図がまるでつかめない。

「で、出て行くって、何を」

「どこでもいいわ。私たちの目の届かないところに行ってくれれば。たとえば、お父様が探しても見つからないくらい、遠くの僻地だったりね」

「そ、そうじゃなくて、理由を教えて下さい。いきなり現れて、そんなことを言われても──」

「うるさいわね。私がそうしろって言ってるんだから、つべこべ言わず従えばいいのよ!」

 加奈子はカッと激昂し、灯里を怒鳴りつけた。

 どこか遠くへ行ってしまえ──その要求はある意味、灯里と利害が一致するものでもあった。
 父に見つからないようにと言うのなら、むしろ灯里にとってもそうしたいくらいだ。
 ただ、白怜たちと暮らしている今の灯里は、彼から離れる選択肢はありえない。
 というか、そもそも加奈子はどこまであやかしのことを知っているのか。まずはそれを聞いておく必要がある。

「姉さま……姉さまは、あやかしや術式、お父様の仕事のことをどこまでご存じなんですか。それによって、私の返答も変わってきます」

「……あやかし?」

 遠くへ行くつもりはないが、姉と話し合う余地はあるかもしれない。とりあえず灯里は、彼女の認識を確認することにした。







「……お父様が、研究所とかいうところに出資を……? あやかしって……つまりあんた、お化けと暮らしてるっていうの……?」

「はい」

 灯里の説明に驚愕の表情になる加奈子に、灯里はしっかりとうなずいて返した。
 その様子からして、姉はあやかしのことについては無知であったらしい。幾度か瞬きをして、大きな目をさらに見開く。

「お父様が私を養子にしたのも、私の中の霊的な力を利用するためだったんです。家族として迎える気なんてなくて……。だから私は、寮を出たんです」

「……何よそれ……」

 加奈子は驚いた様子ではあったが、灯里の話を一笑に付すことはしなかった。
 下らないデタラメだと真っ向から否定されることも覚悟していたが、姉は何か思うところがあるらしい。眉を寄せながらも、真剣な表情を崩さない。

「……そうか……超常の力の研究って……。ああ、そういうことだったのね……」

 おそらく、それとなく聞かされていたことがあるのだろう。彼女は少しの間思考にふけってから、納得したように独りち、「……わかったわ」と灯里に向き合った。

 一方、灯里はそんな加奈子の様子をうかがいつつ、改めて彼女に話しかけた。

「──姉さま、私のことを気に食わないとおっしゃるなら、もうそれで結構です。でも、申し上げたように私はお父様に身柄を狙われています。だから、私に消えろと言うなら、むしろ放っておいてくれませんか。私もそちらに関わることはしませんので」

 加奈子の反応から協力できるかもしれないと踏んだ灯里は、思考を切り替え、不干渉の提案を持ち掛けた。
 自分を毛嫌いし、不条理に当たってくる姉だが、この際それすらも利用すべきだ。
 彼女は研究所とは無関係。そして、先刻の言い方からすれば、父が灯里に接触することを望まないはず。
 目的の方向が同じなら、対立は避けられる。ともすれば、加奈子から情報を得て、父の手から逃れるなんてこともできるかもしれない。
 そう思って灯里は自分の内心を打ち明ける。
 しかし、加奈子はぎろりと灯里をにらみ返した。

「……バカじゃないの? あんた、それで私を味方につけようとでも思ってるわけ?」

「えっ……?」

 怒りに満ちた表情で、加奈子は灯里を見下ろした。
 先ほどの比ではない気迫に、思わず灯里は後ずさる。

「お父様に身柄を狙われてる? 養子にしたのは霊的な力のため? だから何よ、必要とされてるじゃない・・・・・・・・・・・……! 下層の女が身の程もわきまえないで、思い上がるんじゃないわよ!」

「なっ……」

 そこでようやく灯里も理解する。
 義姉の心に燃え盛り、今まで灯里にぶつけられてきたのは嫉妬心だったのだと。
 華族としての歪んだプライド、唯一手に入らない親からの愛情。常人に到底想像できるものではないが、加奈子は灯里が道具としてしか見られていないことすら妬み、憎悪の対象にしてしまっていた。

「ああ……よくわかったわ。ほんの少し情けをかけられただけで、賤民風情がどれだけ増長するか。あんたを町から追い出すにしても、一度痛い目見せてやらなきゃいけないようね」

 加奈子はむき出しの敵意で灯里を見据え、後ろの男たちに手振りで命じた。
 男たちはそれを受け、灯里を取り囲むように広がる。
 そうして逃げ道をふさいでから加奈子は言った。

「予定変更よ。お前たち、何をやっても構わないから、この娘を思いきり辱めてやりなさい」

 
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