アポカリプティックサウンド~脅迫から始める終焉の恋~

魚沢凪帆

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第1の章 終焉の始まり

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「あたし、貴方の大切なものを預かっています。返してほしければ、あたしと付き合ってください」

湿った室内に、ピリッと電流のような刺激が走ったような気がした。





「私の大切なもの―――ですか」

「はい、藤城時雨さん。貴方の大切なものです」

時雨は焦った様子もなく、首を傾げた。



「私の大切なものって何ですか? 正直、何も浮かばないんですが」


「それは―――」

あたしが言いよどむと、時雨はくくっと喉を鳴らしたように笑った。


「何が目的か知りませんけれど、私を脅迫するには計画が杜撰すぎませんか? もう少し、考えてから―――」

「違います! あたしは本当に、貴方の大切なものを持っているんです!」


「それが何か言えないのに?」

「それを伝えるのはもう少し、先の話です」


彼はジッとあたしを見ながら、腕を組んだ。

考え事をしている姿は、細見の彼のスタイルの良さが際立ってカッコよいと素直に思えた。


彼が何て反応するのか。

一応、想定していたけれど、今は心臓がバクバクと音を立てていて、口から飛び出しそうなほど、気持ちが悪い。


「君の言う、先の話というのはいつまでの話ですか? 私は君のおままごとに、期限もなく付き合えというんですか?」


―――おままごとじゃない!

と言い返したいけれど、ぐっと言葉は飲み込んだ。




「三ヶ月。三ヶ月の間、あたしと付き合ってください。そしたら、時雨さんの大切なものを返します」

「ふーん」


私の大切なものね―――と、彼はつぶやいて思案している。

きっと今の彼には、どんなに考えても、あたしの持つ彼の大切なものの正体はわからないだろう。

でも、これはきっと、彼を救う大切なものになるんだ。

「それでは、もし、君のいう私にとって大切なものがガラクタだった場合、君はどのように責任を取ってくれるん
ですか?」




時雨の返してきた言葉は、想定の範囲内だった。

上手くいっている、大丈夫。

何度も自分に言い聞かせて、あたしは息をゆっくりと吐きだす。


「もし、時雨さんのいうように、あたしが持っているものがガラクタだったら、3000万円を現金であげます。それなら、時雨さんにも損はないでしょう?」


「3000万円とは大きくでましたね。君のような女子高生がそんな大金を持っていると?」

「君じゃありません。麦って呼んでください」

時雨は少し顔をしかめると小さい息を吐き出して、



「はいはい、麦。麦はなぜ、そんな大金を持っているんですか? 怪しい仕事にも首を突っ込んでるようにも見えませんけれど」

「人は見た目に寄りませんよ?」

「見た目云々の話をしているわけではありません。私が言っているのは雰囲気のほうですよ」


確かに、と納得した。


時雨は見た目だけならば、優しい好青年だ。

たれ目の瞳に、スッと通った鼻筋。

色白の彼は穏やかな笑みが似合っている。

けれど、アンダーグラウンドで生きる独特の雰囲気が彼の周囲を覆っていた。


「3000万円は危ないお金じゃありません。もし、あたしが嘘をついていたら、確かに全うなお金として時雨さんにあげます」

深い闇色の瞳が、あたしをとらえる。

あたしの隅々に隠された嘘を暴こうと彼が、マジマジとあたしを見ている。

視線を少しでも逸らしたら負けてしまうような気がして、あたしは黙って彼の視線を受けとめた。


「時雨、と」

「はい?」

「麦も、私のことは時雨と呼んでください。三ヶ月とはいえ、お付き合いするわけですから。名前で呼ぶのが普通でしょう」


あたしは内心、パーッと浮かれたくなるのを抑えて、やや震える声で「わかりました」と答えた。


「時雨、よろしくお願いします」


「えぇ、麦。三ヶ月の間、君の望むように、愛してあげますよ」


穏やかな声に色気が加わり、恋愛なんて初心者のあたしは息が止まるほどドキッとした。
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