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第1の章 終焉の始まり
Ⅳ
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「あたし、貴方の大切なものを預かっています。返してほしければ、あたしと付き合ってください」
湿った室内に、ピリッと電流のような刺激が走ったような気がした。
「私の大切なもの―――ですか」
「はい、藤城時雨さん。貴方の大切なものです」
時雨は焦った様子もなく、首を傾げた。
「私の大切なものって何ですか? 正直、何も浮かばないんですが」
「それは―――」
あたしが言いよどむと、時雨はくくっと喉を鳴らしたように笑った。
「何が目的か知りませんけれど、私を脅迫するには計画が杜撰すぎませんか? もう少し、考えてから―――」
「違います! あたしは本当に、貴方の大切なものを持っているんです!」
「それが何か言えないのに?」
「それを伝えるのはもう少し、先の話です」
彼はジッとあたしを見ながら、腕を組んだ。
考え事をしている姿は、細見の彼のスタイルの良さが際立ってカッコよいと素直に思えた。
彼が何て反応するのか。
一応、想定していたけれど、今は心臓がバクバクと音を立てていて、口から飛び出しそうなほど、気持ちが悪い。
「君の言う、先の話というのはいつまでの話ですか? 私は君のおままごとに、期限もなく付き合えというんですか?」
―――おままごとじゃない!
と言い返したいけれど、ぐっと言葉は飲み込んだ。
「三ヶ月。三ヶ月の間、あたしと付き合ってください。そしたら、時雨さんの大切なものを返します」
「ふーん」
私の大切なものね―――と、彼はつぶやいて思案している。
きっと今の彼には、どんなに考えても、あたしの持つ彼の大切なものの正体はわからないだろう。
でも、これはきっと、彼を救う大切なものになるんだ。
「それでは、もし、君のいう私にとって大切なものがガラクタだった場合、君はどのように責任を取ってくれるん
ですか?」
時雨の返してきた言葉は、想定の範囲内だった。
上手くいっている、大丈夫。
何度も自分に言い聞かせて、あたしは息をゆっくりと吐きだす。
「もし、時雨さんのいうように、あたしが持っているものがガラクタだったら、3000万円を現金であげます。それなら、時雨さんにも損はないでしょう?」
「3000万円とは大きくでましたね。君のような女子高生がそんな大金を持っていると?」
「君じゃありません。麦って呼んでください」
時雨は少し顔をしかめると小さい息を吐き出して、
「はいはい、麦。麦はなぜ、そんな大金を持っているんですか? 怪しい仕事にも首を突っ込んでるようにも見えませんけれど」
「人は見た目に寄りませんよ?」
「見た目云々の話をしているわけではありません。私が言っているのは雰囲気のほうですよ」
確かに、と納得した。
時雨は見た目だけならば、優しい好青年だ。
たれ目の瞳に、スッと通った鼻筋。
色白の彼は穏やかな笑みが似合っている。
けれど、アンダーグラウンドで生きる独特の雰囲気が彼の周囲を覆っていた。
「3000万円は危ないお金じゃありません。もし、あたしが嘘をついていたら、確かに全うなお金として時雨さんにあげます」
深い闇色の瞳が、あたしをとらえる。
あたしの隅々に隠された嘘を暴こうと彼が、マジマジとあたしを見ている。
視線を少しでも逸らしたら負けてしまうような気がして、あたしは黙って彼の視線を受けとめた。
「時雨、と」
「はい?」
「麦も、私のことは時雨と呼んでください。三ヶ月とはいえ、お付き合いするわけですから。名前で呼ぶのが普通でしょう」
あたしは内心、パーッと浮かれたくなるのを抑えて、やや震える声で「わかりました」と答えた。
「時雨、よろしくお願いします」
「えぇ、麦。三ヶ月の間、君の望むように、愛してあげますよ」
穏やかな声に色気が加わり、恋愛なんて初心者のあたしは息が止まるほどドキッとした。
湿った室内に、ピリッと電流のような刺激が走ったような気がした。
「私の大切なもの―――ですか」
「はい、藤城時雨さん。貴方の大切なものです」
時雨は焦った様子もなく、首を傾げた。
「私の大切なものって何ですか? 正直、何も浮かばないんですが」
「それは―――」
あたしが言いよどむと、時雨はくくっと喉を鳴らしたように笑った。
「何が目的か知りませんけれど、私を脅迫するには計画が杜撰すぎませんか? もう少し、考えてから―――」
「違います! あたしは本当に、貴方の大切なものを持っているんです!」
「それが何か言えないのに?」
「それを伝えるのはもう少し、先の話です」
彼はジッとあたしを見ながら、腕を組んだ。
考え事をしている姿は、細見の彼のスタイルの良さが際立ってカッコよいと素直に思えた。
彼が何て反応するのか。
一応、想定していたけれど、今は心臓がバクバクと音を立てていて、口から飛び出しそうなほど、気持ちが悪い。
「君の言う、先の話というのはいつまでの話ですか? 私は君のおままごとに、期限もなく付き合えというんですか?」
―――おままごとじゃない!
と言い返したいけれど、ぐっと言葉は飲み込んだ。
「三ヶ月。三ヶ月の間、あたしと付き合ってください。そしたら、時雨さんの大切なものを返します」
「ふーん」
私の大切なものね―――と、彼はつぶやいて思案している。
きっと今の彼には、どんなに考えても、あたしの持つ彼の大切なものの正体はわからないだろう。
でも、これはきっと、彼を救う大切なものになるんだ。
「それでは、もし、君のいう私にとって大切なものがガラクタだった場合、君はどのように責任を取ってくれるん
ですか?」
時雨の返してきた言葉は、想定の範囲内だった。
上手くいっている、大丈夫。
何度も自分に言い聞かせて、あたしは息をゆっくりと吐きだす。
「もし、時雨さんのいうように、あたしが持っているものがガラクタだったら、3000万円を現金であげます。それなら、時雨さんにも損はないでしょう?」
「3000万円とは大きくでましたね。君のような女子高生がそんな大金を持っていると?」
「君じゃありません。麦って呼んでください」
時雨は少し顔をしかめると小さい息を吐き出して、
「はいはい、麦。麦はなぜ、そんな大金を持っているんですか? 怪しい仕事にも首を突っ込んでるようにも見えませんけれど」
「人は見た目に寄りませんよ?」
「見た目云々の話をしているわけではありません。私が言っているのは雰囲気のほうですよ」
確かに、と納得した。
時雨は見た目だけならば、優しい好青年だ。
たれ目の瞳に、スッと通った鼻筋。
色白の彼は穏やかな笑みが似合っている。
けれど、アンダーグラウンドで生きる独特の雰囲気が彼の周囲を覆っていた。
「3000万円は危ないお金じゃありません。もし、あたしが嘘をついていたら、確かに全うなお金として時雨さんにあげます」
深い闇色の瞳が、あたしをとらえる。
あたしの隅々に隠された嘘を暴こうと彼が、マジマジとあたしを見ている。
視線を少しでも逸らしたら負けてしまうような気がして、あたしは黙って彼の視線を受けとめた。
「時雨、と」
「はい?」
「麦も、私のことは時雨と呼んでください。三ヶ月とはいえ、お付き合いするわけですから。名前で呼ぶのが普通でしょう」
あたしは内心、パーッと浮かれたくなるのを抑えて、やや震える声で「わかりました」と答えた。
「時雨、よろしくお願いします」
「えぇ、麦。三ヶ月の間、君の望むように、愛してあげますよ」
穏やかな声に色気が加わり、恋愛なんて初心者のあたしは息が止まるほどドキッとした。
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