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第1の章 終焉の始まり
Ⅶ
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************************
手を伸ばした、あたしに
あなたは少しずつ距離を取っていく
あなたが思うよりも、ずっとずっと、
あたしはきっとあなたが好きなのに
流した涙を幾重にも重ねた夜を越えて
明日を願う事にはとうに、疲れたの
繋いだ手の温もりも、
見つめたその瞳も、
幻だと気付いてしまうなら、
私はもう、二度と目が覚めなくてもよいと
覚悟はしている
きっと、もう、ずっと前から
あぁ、やっぱり、きっとこんな日が来るって
ずっと前から分かっていたんだ
************************
耳から流れてくる心地の良いソプラノ
透き通った声なのにしっかりと響く声は、歌詞に乗せた想いをダイレクトに伝えてくる。
「また、TOKOの曲を聴いてるの?」
曲の世界に浸っていたあたしは、一気に外の音が聴こえてびっくりして振り返った。
あたしのイヤフォンの片方を持ったまま、呆れた顔をした幼馴染のひとり。
「梨花? どうしたの?」
「どうしたの、って最近さっさと一人で帰っちゃうでしょう? 気になって追いかけてきたの」
「そっか」
あたしは梨花から、イヤフォンを受け取りながら曖昧に笑った。
梨花には時雨のことはひとつも、話していない。
アンダーグラウンドの男を脅迫したなんて知ったら、きっと梨花は卒倒しちゃうかもしれない。
「最近、休み時間までTOKOの曲を聴いていて、授業中も上の空になってることが多いし、何かあったんでしょう」
5歳からの幼馴染の梨花には、あたしの変化はお見通しだってわかっている。
だけど、梨花にはまだ、なにも話したくない。
梨花はきっと、心配して、今あたしのやっていることのすべてを止めるに違いないと思う。
それが友情であって、心から感謝するものだとわかっている。
だけど、今は、あたしの始めたすべてを否定して欲しくなかった。
我儘だってわかっているけれど。
「ごめん」
呟くような声に、梨花は大きな溜息をついた。
「なにも話してくれないんだね。―――って本当は、そんな気がしていた」
心配してくれる1番の親友で、幼馴染。
こんな存在がいてくれることに、神様にだって感謝をしなくちゃいけないのに、あたしって本当に酷いやつだと思う。
あたしは今、きっと、大事なものに優先順位をつけている。
そうじゃなきゃ、ちっぽけなあたしでは、あたしが大切にしたいものを大切にできないから。
「いつか、話してくれる?」
梨花の言葉に、ハッと顔を上げた。
いつも笑ってそばにいてくれて、気丈な梨花が泣きそうに見えた。
「うん。必ず、話すよ」
―――きっと、必ず。
三ヶ月後には、すべての答えが出るはずだから。
手を伸ばした、あたしに
あなたは少しずつ距離を取っていく
あなたが思うよりも、ずっとずっと、
あたしはきっとあなたが好きなのに
流した涙を幾重にも重ねた夜を越えて
明日を願う事にはとうに、疲れたの
繋いだ手の温もりも、
見つめたその瞳も、
幻だと気付いてしまうなら、
私はもう、二度と目が覚めなくてもよいと
覚悟はしている
きっと、もう、ずっと前から
あぁ、やっぱり、きっとこんな日が来るって
ずっと前から分かっていたんだ
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耳から流れてくる心地の良いソプラノ
透き通った声なのにしっかりと響く声は、歌詞に乗せた想いをダイレクトに伝えてくる。
「また、TOKOの曲を聴いてるの?」
曲の世界に浸っていたあたしは、一気に外の音が聴こえてびっくりして振り返った。
あたしのイヤフォンの片方を持ったまま、呆れた顔をした幼馴染のひとり。
「梨花? どうしたの?」
「どうしたの、って最近さっさと一人で帰っちゃうでしょう? 気になって追いかけてきたの」
「そっか」
あたしは梨花から、イヤフォンを受け取りながら曖昧に笑った。
梨花には時雨のことはひとつも、話していない。
アンダーグラウンドの男を脅迫したなんて知ったら、きっと梨花は卒倒しちゃうかもしれない。
「最近、休み時間までTOKOの曲を聴いていて、授業中も上の空になってることが多いし、何かあったんでしょう」
5歳からの幼馴染の梨花には、あたしの変化はお見通しだってわかっている。
だけど、梨花にはまだ、なにも話したくない。
梨花はきっと、心配して、今あたしのやっていることのすべてを止めるに違いないと思う。
それが友情であって、心から感謝するものだとわかっている。
だけど、今は、あたしの始めたすべてを否定して欲しくなかった。
我儘だってわかっているけれど。
「ごめん」
呟くような声に、梨花は大きな溜息をついた。
「なにも話してくれないんだね。―――って本当は、そんな気がしていた」
心配してくれる1番の親友で、幼馴染。
こんな存在がいてくれることに、神様にだって感謝をしなくちゃいけないのに、あたしって本当に酷いやつだと思う。
あたしは今、きっと、大事なものに優先順位をつけている。
そうじゃなきゃ、ちっぽけなあたしでは、あたしが大切にしたいものを大切にできないから。
「いつか、話してくれる?」
梨花の言葉に、ハッと顔を上げた。
いつも笑ってそばにいてくれて、気丈な梨花が泣きそうに見えた。
「うん。必ず、話すよ」
―――きっと、必ず。
三ヶ月後には、すべての答えが出るはずだから。
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