アポカリプティックサウンド~脅迫から始める終焉の恋~

魚沢凪帆

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第1の章 終焉の始まり

ⅩⅠ

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最近、木枯らしが吹くようになってきて秋の装いが増えてきた。

時雨のいる店に行く前に着替えるようになったあたしは、駅のコインロッカーに私服を入れてトイレで着替えるようになった。


そこまで無理して放課後に来なくていいって時雨に言われたけど、あたしが行かなければ細く脆い縁はすぐにでも切れてしまいそうだった。



通い慣れてきた繁華街を通って、路地裏を抜けて古い階段を降りて行く。

どんより曇り空が広がっていると思っていたけど、ついにポツポツ雨が降り出していた。


濡れないように急いで、階段を駆け下りた。

入った瞬間、違和感を感じたけど、雨を避けて飛びこんだから、すぐには違和感の正体がわからなかった。



「ん」と女性の声が聴こえて、あたしは自分の服についた雨を落とす手を止めた。

「時雨?」と声を掛けながら、奥へと足を進める。


嫌な予感はしていた。

心臓がばくばくと音を立てていて、あたしの頭の中には言いようのない警報音が響いていた。


パーテーションの奥を覗き込もうとしたあたしに、パッと視界が遮られた。

髪をおろした時雨の肌色の胸があたしの視界を遮っていた。



「時雨?」

見上げたあたしに、時雨を冷たい視線で見下ろしている。

「ミサ、鍵を締めていなかったんですか?」

私を見下ろしたまま、あたしの知らない女の名前を呼ぶ。

時雨の姿を通り越して、隙間から体を起こした女性の姿が見えた。

「えっ? 鍵? 締めてなかったかしら?」

女性の声は艶めいていて、起き抜けのように舌ったらずに聞こえた。

「あら? お客さんがきちゃった? じゃぁ、あたし帰るわ」

時雨の背後で女性が立ち上がった。


綺麗なすべすべな、背中。

さらさらと流れるようなロングヘアー。


息を呑んで、裸の彼女をみていた。

そこには、刺青のカケラも見えない。

そもそも、目の前の時雨は上半身裸で立っている。


お客じゃない。

以前、階段ですれ違ったことのある女性だと気がついた。

彼女は服を着ると、時雨のもとまで歩いてきた。


「またね」というと、背伸びをして時雨と唇を重ねた。

あたしの目の前で―――

時雨は嫌がることもなく、彼女のキスを受け入れていた。


呆然としているあたしを、ちらりと視界にいれた女性は、すれ違いざまにクスッと笑みをもらした。



あたしは頭が真っ白になって、ただ俯いた。

地震でもないのに、地面が揺れていて、視界に移る足が何重にも見えた。

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