アポカリプティックサウンド~脅迫から始める終焉の恋~

魚沢凪帆

文字の大きさ
19 / 23
第2の章 終焉への階段

しおりを挟む
しばらく、一緒に過ごしても時雨という人間が少しもつかめていない。

あたしが、お子様だからなのか、時雨も本音で話しているようには見えなかった。


それなら、なんであたしと一緒にいるんだろう。

もう来るな、とあたしを拒絶してしまえば、あたしには術はなくなるのに。

あたしと時雨は一体、どこに向かっているんだろう。

「恋さんは時雨の過去を知っているんですか?」

あたしが訊くと、恋は一呼吸置いて、笑った。

「知らないよ。僕はそんなに、時雨に興味がないから」

サラリと口にする恋は、少し寂しそうに見えた。

「時雨の過去を知ることは、麦にとって意味があるの?」

意味?

あたしの頭に、ふと浮かぶのは、過去の光景。

---君に頼むよ

優しい掌があたしの頭頂部を包んだ。


「初恋」

不意に漏れてしまったあたしの言葉に、「えっ?」と恋が反応した。

「ううん、なんでもないです。あたしは、時雨という人をもっと理解したいんです。そのためには、きっと時雨の過去も知るべきなんじゃないかって思う」

恋は眉間にシワを寄せた。

「僕の中では麦がよくわからないのか、イマドキの高校生がわからないのか、どちらなんだろう」

「えっ?」

「だから、さっきから言ってるように、麦はちっとも時雨を好きじゃないってこと」

恋はあたしをジッと見つめて言った。

「麦は頭で、時雨を理解しようとしてる。そんな頭の中で、恋愛なんてできないよ」

恋の言葉は刃のように鋭く感じた。

「好きってなんですか?」

あたしの言葉に、恋は乾いた笑みを漏らす。

「だから、言ってるでしょう。僕には感情がないって。僕にもそんな難しいことはわからないんだよ」


*************************


気がつけば、預かった封筒を抱えて、時雨の店まで来ていた。

時雨とあたしの歪な関係。

このままでは、最後まで時雨はきっとあたしと本当の意味で向き合ってくれない。

わかっているのに、どうしたらいいのかわからない。

もしかしたら、あの人は「いいんだよ」と笑ってくれるかもしれない。

だけど、あたしはそれでいいのだろうか。

「時雨」

あたしの呼びかけに顔を上げた時雨はただ、穏やかに笑う。

本当の優しさなんて、そこにはないことをあたしだって理解している。

「恋さんに会って、預かったの」

時雨は首を傾げてあたしから封筒を受け取った。

器用そうな細く白い指が、かすかにあたしに触れた。

「まったく、君を使いっ走りのように使うなんて。今度、言っておきますよ」

困ったような彼のその言葉も、上滑りする優しさ。

「時雨」

どうにもならない衝動が静かに生まれた。

「どうしたら、あたしをみてくれるの?」

思ったよりもずっと切羽詰まった声が漏れた。

ゆっくり顔をあげた時雨は、眉をひそめて、あたしを見つめた。

「あたしは本当の意味で、時雨とちゃんと」

何かがこみ上げて来て、言葉に詰まった。


自分でも、よくわからない。

あたしは、あたしの目的のために、時雨に付き合う事を強要した。

だけど、浅はかなあたしは時雨と付き合っていたら、そのうちに時雨が変わるんじゃないかって思った。

何も信用していない、冷たい目をした時雨が、いつか温もりを持つ人へと。

だけど、しばらく一緒の時間を過ごしてわかった。

あたしは、とても浅はかなバカだったということを。

人は簡単に変わらないし、あたしが何も努力していないのに、どんな変化も起こるはずもなかった。


喉の奥に熱い塊が口から溢れそうなほど近くまで、こみ上げている。

言葉を失ったあたしは、堪らずに視線を床に落とした。


涙を流したら、またバカにされるって思った。

泣き落としに左右される人でもないし、もしここで泣いたら、それこそ捨てられそうな気がした。

あたしは、鉄の味が滲むほど唇をきつく噛んだ。


頭の上で、時雨の深いため息が聞こえてくる。

捨てられるわけにはいかない。
ここで関係を終わらせたくないって思っているのに、言葉が見つからなかった。

不意に、床しか見えなかったあたしの視界に、細長い指が見えた。

あたしの頬に伝う指が、顔を上げるように促していく。

見上げた先には、時雨の穏やかな笑みがあった。

時雨、と呼びかけようと口を開いたあたしは、そのまま何も言えなかった。

「一人で盛り上がって、君はどんなオママゴトを求めているんですか?」

時雨の深い落ち着いた声はさとすように、あたしに語りかける。

「君と私では、何にもなれない。何処へも行けない。年相応の恋愛をしなさい。遊びはここまでにしましょう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...