アポカリプティックサウンド~脅迫から始める終焉の恋~

魚沢凪帆

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第2の章 終焉への階段

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「遊びはここまでにしましょう」と時雨が言った。

それは二人の関係の終わりを示していた。

目の前が真っ暗になった。


こんな遠いところまで遥々来て、簡単に終わらせてしまう自分が不甲斐なくて、情けなくて。


こみ上げて来た気持ちが崩壊して、あたしの頬を涙がひとひら、零れ落ちた。

目の前の女が泣いたって顔色ひとつ変えずに微笑む時雨は、とても異様なものに見えた。


このまま、口を噤んだら、確実にあたしと時雨の関係は本当に終わってしまう。

あたしの背中を、何かが押した。

「あたしを抱いて」

自分の思考も分からず、飛び出た言葉は、自分でもよく理解できなかった。

だけど、時雨の笑みが歪んだのをみて、少しホッとした。

彼の中で少しでも感情が動いたら、あたしがここにいると感じられる気がした。

だけど、あたしにとっては爆弾発言だったにもかかわらず、上手うわての時雨はすぐに表情を戻した。

「冗談を言ってないで、さっさと帰りなさい」

諭すような兄のように---あたしをカケラも心配していないのに、心にもない言葉を取り繕う。


そこに、あたしの存在が無いような。

虚無感が、一気に足元からこみ上げてくる。


「---本気だから。あたしは、そういう関係でも良い」

引けない思いがあたしを急き立てる。

遠くに伸ばした手で、グィッと時雨の襟元を掴んだ。

二人を隔てる身長差を超えるように、時雨を強引に引き寄せた。

驚いたのか、されるがままの、時雨の唇にキスをした。

重ねたソレからは、何も熱を感じなかった。


一瞬でも躊躇ったら、それで終わってしまう底闇のような恐怖観念が、あたしを覆い尽くしてしまいそうだった。

呼吸すらできなくなる前に、あたしは足掻くしかなかった。

滑らせた手で、時雨のズボンのチャックに手をかけた。

硬い留め具がなかなか外せなくて、泣きそうだった。

二人しかいないその場所には、カチカチと無駄な音だけが響く。

ようやくパチっと外れたボタンに、素直に「外れた」と声に出してしまった。

色気のカケラもないあたしに、時雨がクスッと笑った。

その笑みに見惚れたあたしを、時雨が引き寄せる。

2度目のキスは軽く触れるものではなくて、唇の隙間から熱が差し込まれた。
絡みとられる舌を、応えようと必死になった。

酸欠になりそうなほど夢中になった頃、ようやく時雨が離れた。

イヤラしく、二人の口と口を繋ぐ糸。

いつのまにか腰にカウンターがぶつかっていた。

時雨が狭いカウンターにあたしを押し倒した。

この先を想像するだけで、息が止まりそうだ。

時雨の指があたしの胸元を開いて、赤い蕾に触れた。

初めて他人があたしに、触る。

肌を伝う指の感覚が、妙に生々しく感じられた。



---何をしているんだ、あたし。


勢いのままに流れてきた今が、突然、現実だと突きつけられた。

我に返って認識した今は、あまりにも途方のないものだった。

俯瞰で見たあたしたちの構図が頭に浮かんで、不意に浮かんだのは嫌悪感だった。

考えるよりも先に「イヤっ」と、時雨の手を振り払った。

あたしを見下ろしていた時雨は、今は少しも笑っていなかった。

冷えた視線に焦って、「ごめんなさいっ、そういうことじゃなくて」と早口でまくし立てた。


時雨は黙ったまま、あたしの腕を掴んで、起こした。

「待って。あたしは」

途切れそうな今を引き延ばしたくて紡いだ言葉は、時雨の言葉にかき消された。

「だから、嫌なんですよ。処女は」

ハッとして見つめた時雨は、口元だけ笑って言った。

「お遊びはおしまいと、言ったでしょう。せめて、処女を捨ててから出直してきなさい」

時雨は綺麗な、残酷な笑みで、あたしを切り捨てた。



すべてが崩れた音がした。
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