『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

文字の大きさ
45 / 508
プロローグ

全部クレアのせい

しおりを挟む
クレアはバルジ王国の王城に登城したが、国王陛下が外遊中により宰相を始めとした重鎮と謁見し、このたびの騒動について申し開きをしていた。
相当に厳しい意見が噴出する中、ただただ頭を下げ謝罪するクレアは、実に6時間に及ぶ針の筵状態によって既に疲労がピークに達していた。
帰りは計らいで馬車を手配してもらったが、クレアは疲労困憊のためにキャビンの座席でぼうっと無心で天井を眺めていた。


(どうしてこんなことになったんだろう)


ふと、そう考える。
勇者パーティーを結成して2年ほど。最初は不慣れながらも、着実にパーティーとして前進してきた。冒険者ランクを上げ、実績を積み重ね、多くの先輩方を出し抜いて王都の冒険者パーティーの中でもトップ争いをするレベルにまでこのパーティーは躍進した。
だが、勇者として与えられた使命は冒険者として一番になることではない。いずれ復活すると言われる魔王を討伐するために、自分達の力を蓄え続けることにある。王都だけではなく、世界で1番でも足りない。魔王は伝承のよればそれだけ強力で恐ろしい存在であるというのだから。

しかし、従来のその使命は今着実に履行出来ているとは言いづらい。ここ最近は勇者パーティーのイメージアップのための宣伝活動ばかりで、ゴウキが憤っていたのも実に良くわかる状況だ。彼はリフトが自分の立場のためだけにやりたいだけだと言ったが、クレアはそれは違うと否定した。宣伝活動を推すリフトとて、彼なりに勇者パーティーのことを考えてのことだと信じていた。実際に勇者パーティーの存在意義について懐疑的な意見が少なからず出ていることも事実だからだ。


冒険者としての本分を全うする派のゴウキ、宣伝活動を通してまずは国民の理解と協力を得るべきだと考える派のリフトと、二つの派閥がいつの間にか誕生していた。
マリスは比較的早めにリフトに迎合した。ミリアはおろおろと戸惑っている期間があったが、今ではリフトの側についている。
こうしてパーティーメンバーの半数が宣伝活動を推すという形勢になると、クレアも本来のリーダーとしての決定権を行使することに抵抗が生まれ始める。
クレアは和を重んじるタイプだったので尚更だった。


(こうして状況に流されて決断を鈍らせたせいだ・・・)


王城に出向いたクレアに対し、重鎮達の意見の中には「宣伝活動ばかりで勇者らしいことをしていない」「仲違いを起こすなど、リーダーとして管理が出来ていないのではないか」「仲間に寄り添って話をきちんと聞いているか」などと言うものがあった。この言葉は深くクレアの胸を突いた。

クレアとて、ゴウキの意見と同調のときがあった。いや、むしろ考えとしてはリフトよりもゴウキに近い。だから間違っているとクレアが考えたのなら、例えパーティーの半数の意見を退けてでも、きちんと主張しなければならなかったのだ。


(でもどうしてだろう。リフトに意見をしようとすると、どうにも抵抗がある・・・)


クレアも最初はするべき主張はしてきたが、いつからかリフトと意見と違わせることに抵抗を感じるようになっていた。それが何であるかは彼女自身にもさっぱりわからなかった。
そしてその状態が続き、リフトの意見を押し通されるようになると、結果としてクレアはみすみすリフトによるパーティー掌握を許してしまったことになった。


(私のせいだ・・・)


今回の仲間割れの最大の原因は、自分の情けなさにあるとクレアは自分を責めていた。
自分の情けなさと、ゴウキに対する申し訳なさとで、クレアは少しだけ悔し涙を流した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...