『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

文字の大きさ
62 / 508
追放後

オレやっちゃいました

しおりを挟む
ってたぜェ!!この瞬間ときをよォ!!」


ゴウキ達が酒場を出た瞬間のことだった。外で彼らを待ち受けていた男が、ゴウキの顔を見るなりそう叫んだ。


「あ?」


咥え煙草したまま怪訝な顔をするゴウキ。
見ると、そこには柄の悪い冒険者風の男が二人と、彼らの後ろに10人を超えるこれまた同じ冒険者風の連中が並んでいた。


「俺達の顔を見忘れたとは言わせねぇぞ?」


前に立つ男の一人が自分の顔を親指で指してそう言う。しかしゴウキにはさっぱり誰の事だかわからない。なんだぁ?この馬鹿みてぇな三下は・・・としか思っていなかった。


「ゴウキあれだよ・・・ちょっと前にこの酒場で酔って喧嘩してた男二人を止めたじゃん。あの二人だよ」


頭に「?」を三つくらい浮かべていたゴウキにスミレが教える。


「あぁ、そういやそんなこともあったな。そんな男の顔まで良く覚えてたなスミレ」


「ま、忍者だから」


スミレの瞬間記憶能力の賜物である。


「てめぇ、あんだけのことしといて忘れるとはふざけんなよ!」


絡む男が激昂する。
しかしわざわざ躓いた足元の小石の形を覚えているような者はそうそういない。酔客の喧嘩の仲裁などゴウキにしてみれば争いのうちにも入らないような小事であった。


「てめぇが勇者パーティーのゴウキだと知ってて報復に出るのはリスクがあると思ったけどよぉ、噂によっちゃてめーはもうクビになったって言うじゃねぇか。だからこうしてお礼参りに来てやったぜ!」


「ほぉ」


ゴウキは煙草の煙を吐き出すと、吸いかけの煙草を地面に落とし踏み消す。
なるほど仲間を連れてお礼参りね。それならわかりやすい。
4区で生きていたときにはたびたびあったイベントごとに、少しばかり懐かしい気持ちになるゴウキ。これまでは勇者パーティーの一員という立場が、彼からこういう荒事をいくらか遠ざけていた一面があった。

ゴウキは立ち並ぶ冒険者風の男達を見渡す。どれもB級程度の冒険者。A級に届きそうなのもいるが、いずれにせよ今のゴウキとは比べるまでもなく平凡たる存在の冒険者に見えた。


「そんな仲間で大丈夫か?」


ポケットに突っ込んでいた手を出し、拳を握りこむゴウキ。瞬間湧いてくるそのオーラに、向かい合う男達は全員ビクッと肩を震わせた。


「び、ビビるな!勇者パーティーってのは、王家がバックボーンについているだけで実力的には大したことねーって言われてんだよ!つまりパーティーを抜けたコイツはただのハッタリ野郎でしかねぇのさ!!」


前に立つ男の一人がそう言って仲間を奮い立たせる。

あぁなるほど、勇者パーティーをそんな風に考えるやつらもいるのか。まぁ、最近は宣伝活動ばっかでまともに強敵とも戦って無かったしなとゴウキは思い、納得したように頷く。


「詫びても遅せぇぜ!お前らやっちまいな!!」


先頭の男が叫び、仲間達が一斉にゴウキに向かって動きだす。その瞬間だった。



メキョッ


何かが潰れる音がしたかと思うと、戦闘にいた男二人の体が地面に打ち付けられ、激しくバウンドしていた。


「「「!?」」」


それがゴウキの鉄拳の一撃によって起こったことだと気付いたのは、後ろにいた仲間達のうちの一人が同じように殴り叩きつけられてからだった。一瞬にして3人がゴウキの拳によって沈んだのだ。


「なっ・・・」


男達がやられた仲間の様子を把握しようとする前に、次々へとゴウキはその腕を振るい同じように叩き伏せていく。誰もが一撃でのされ、結局一方的にゴウキが蹂躙する形となり一瞬で騒動は決着した。
実にゴウキが動きだしてから10秒に満たない時間であった。



死~~~ん



騒いでいた野次馬達が言葉を無くし、辺りは一瞬にして静寂に包まれる。


「す、すげぇ・・・」


打ちのめされた男達の見て見物人が感嘆する。やられた男達はこの辺りでも有名な荒くれ冒険者だったが、ランク的にはB級といえど並より遥か上の部類に入る冒険者達であり、憲兵も彼らの蛮行を見て見ぬふりをすることが多いほどであった。そんな彼らはそれぞれたった一撃で顔を変形させ、歯を砕け散らせて意識を完全に手放していた。
失禁している者までいる。


「拳鬼っていうだけはあるぜ・・・なんで勇者パーティーはあんなのを手放しちまったんだ・・・」


もはや圧倒的な畏怖の対象とすら言えるゴウキの実力に、見物人達は勇者パーティーの判断は間違っていたのでは?と疑いをかける。しかしそれと同時に、ゴウキのその力が野放しにされている状況に対し恐怖も感じていた。


そんなゴウキを見つめる一つの目が、この後のゴウキの運命を狂わすのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

処理中です...